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宿(1)


ここソイトスには宿屋街というものがある。そこには下宿宿から貴族が泊まるような高級宿まで数多くの宿がある。

大通りを横に一本逸れた、少し薄暗い位置にその宿はあった。


「ここかな、お父さんとお母さんが言ってた宿屋は」


外観は両隣の宿と比べて随分と劣る。壁は蔦にびっしりと埋め尽くされている。小さな窓はあるが、中は暗く窺い知れない。入口の横にこれまた年季の入った看板がある。

その名を『風来亭』というらしい。意を決し扉を押す。


「すいませーん・・・うわぁ」


思わず漏れ出た感嘆には、悪い意味など含まれていなかった。純粋に感動したからだった。薄暗いと思っていたが、この薄暗さは人を落ち着かせる、夕暮の様な薄暗さだった。要所にランプが置かれており、客に不快を与えるようなことは無い。そのランプの光はダークブラウンの床や少しくすんだクリーム色の壁に柔らかく反射し目に優しい。ランプの光は客が寛ぐためのソファやカードに興じるためのテーブルに遮られ、濃い影を落とす。それはまさに光と影が生み出す芸術作品だった。これを見ると、外観も頷ける。すべてはこの美しい調和のための物だったのだと。あの小さな窓も、外の光を極力入れないようにするための物なのだろう。


「ん?お客さんかい?」

「・・・あ、はい」


呆けていた所に声を掛けられる。この宿の主なのだろう。壮年の男性で白髪が混じり灰色がかった黒髪。モノクルをかけ、執事が着るような服でびっちりと決めている。渋くてかっこいいおじさんだ。


「おや珍しい。誰かの紹介かい?」

「はい、両親の紹介で。珍しい?」

「ほう、ご両親の・・・。君はソイールを受けに来たんだろう?」

「はい」

「この時期宿屋に泊る大多数がソイールを受けにきたものだ。それは分かるね」

「はい」

「受かれば寮の部屋が割り当てられるが、少なくともそれまでは宿屋に泊る事になる。まだ住所は決まっていない。つまり、仕送りなどは無い。ある金は手持ちのみ、そうなると殆どの者は料金が安い宿や下宿に泊る。ごく一部の金持ちや貴族は手持ちが多いし、見栄もあるから高級宿に泊まる。ここはそのどっちにも含まれないんだ。すぐに泊まろうと決断するほど安くもないし、かと言って高級宿ほど馬鹿みたいに高くもない。それに少し内側に入ったところにあるから目立たないし、両隣があれだ。そこに君が来たんだ、それはとても珍しいだろ?」

「そう・・・ですね」


若干圧倒されながら答える。


「いや、実に喜ばしい限りだ」

「それは良かったです」

「かと言って商売だしまける訳にはいかないが、払えるかい?一泊二食付銀貨7枚だ」

「はい。とりあえずここに2週間分、あるみたいです」


そう言ってずっしりと重い小袋を渡す。


「・・・確かに。ようこそ『風来亭』へ。歓迎するよ」



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