両親(3)
うわぁ~!!課題が~!!テストが~!!
というのが一段落ついたので・・・死ぬかと思った。
さて、そんな風に割と平和に暮らしていた俺だが、一つの転機を迎える事になる。
「学校?」
「そうよ、私が全部教えるのもいいと思うけど、人とのつながりも大事だって、お父さんが・・・」
「そうなの?」
「あぁ、お前は優しいし、知識もあるが・・・お前は武器だ。それも強力な力を持った。それは分かるな?ムー」
「うん・・・なんとなくだけど・・・」
「俺は口が上手かないから、どう言ったらいいか分からんが・・・その状態が危険なことは分かる」
「危険?・・・よく・・・分からない・・・」
「あぁ~・・・あ、前の、あの時みたいなことにならないためだ」
「あの時?」
「お前、お母さんのお気に入りのツボを割っただろう」
「・・・うん」
「要は、あんな事にならないために、あんなことを起こさないようにするために、学校へ行くんだ」
「・・・分かった」
その時の俺は、いかに自分が危険な存在なのかという事を全くと言っていいほど理解していなかった。父はその事を俺に教えたかったのだ。そして今後、人と関わっていくなら、そうしたことが絶対に必要になる。でも、それを自分たちでは(一人はドラゴンだし、もう一人は鍛冶師なので)教えられないから、学校に行かせる。色々な人間が居て、その考えに触れ、その社会の中で力はどれ程影響力を持っているのかを知るために。
と、まぁそんな訳で俺は学校に行く事になった訳だ。
「お前に渡したいものがある」
そういって渡されたのは剣の鞘だった。いくら、変化が出来るようになって人型に成れるからと言っても、剣が鞘を持っている状況など、今考えてみればかなりシュールな状況だ。
「その鞘にはお前の力を抑える効果がある。学校に行っている間は絶対に外すな。わかったな?」
「うん」
変化を解き、鞘を身に着ける。かなりのフィット感だった。今でもこの鞘は俺を納める鞘として十全に機能している。俺の体の一部だと言ってもいい位だ。それほどの物を作り上げるゲインは最高の鍛冶師なのだろう。
「一応言っておくが、力が抑えられるといってもある程度のもんだからな。今でもお前は人間界じゃ強い方だから注意するように」
「分かった」
「じゃあ、行って来い」
「行ってきます」
「いってらっしゃい。長期休暇には帰ってくるのよー。」
「分かったー。何かお土産と掛かって来るからねー」
さて、俺がこれから行く事になった学校というのは、この世界でも有数の名門校だったそうだ。「そうだ」というのは、その時の俺はその事を知らなかったというのと、そもそも学校というものについての知識が無かったからだ。というよりも一般常識が無かったと言った方が良いかもしれない。
「坊ちゃんはこれから、学校に行くのかい?」
とは、学校のあるソイストという町へ向かうために乗せてもらった馬車の持ち主である旅商人の言葉であった。人が滅多に来ることが無く、商売も自分たちの間で完結しているような辺境の村に旅商人が行くのはおかしい気もするが、それは今は置いておく事にする。後でネタバラしをするので楽しみにして置いて欲しい。
「そうです。えーっと・・・ソイール魔法学校です」
「ほぉ~あの名門学校に行くのか、凄いねぇ」
「・・・?」
「おや、君は・・・今から君が行こうとしている学校の事を知らないのかい?」
「はい」
「じゃあ、私が説明してあげよう」
ここで偶然にも、俺のこれから行く事になるソイール魔法学校についての説明を受けた。あまりにも自然な、不自然な話の流れである。ここには、この頃の俺がまだ知らない大人の事情、説明に自然に入るための都合というものがあったらしい。
さて、そのソイール魔法学校、俗にいう超エリート校と言う奴で、各界の名門、有力者の息子や娘たちが集う学校であった。いや、まぁ普通の人間も入れるには(お金を積んだり、強力な能力を示したり、テストを受けて優秀な成績をとったりすれば)入れるのだが、周りが産まれながらのエリートたちばかりなので、相当息苦しい思いをすることになる。そういう学校だった。
「さぁ、ここがソイトスだ」
「大丈夫かなぁ?僕・・・」
「心配するな、少年!!前に進まない事には何も始まらんぞ!!胸を張れ!!大丈夫、君なら出来るさ!!」
「・・・はい!!ありがとうございました!!」
では、話が一区切りついたので旅商人についてのネタバラしをしたいと思う。皆さん、もうお気付きだとは思うが、アレは化けた俺の両親だ。そう、初めての移動の際、起こるようなイベント、魔物の襲撃だとか盗賊の襲撃だとかが無かったのはそのせいだ。俺は竜王というこの世で最も強力な護衛を付けて移動していたのだ。本来、街道というものは警備が配置されているのだが、それも都市部付近だけでの話、都市部から離れるにつれその数は減ってゆき、しまいには0になる。よって、都市部から離れるのに比例して危険度が増して行くという分かりやすく便利なシステムが出来上がる。ちなみに、道の整備も比例するため、田舎者が都市部に行くと道が石で出来ているのと驚くのと共に足を痛めるという被害がある。ちゃんとした靴を履いていないからだ。
そんな危険な道のりを大事な息子一人で行かせる訳にはいけない、けど見送ってしまった手前顔は見せられない、という親バカ心があの不自然な旅商人を生んだわけだ。
さて、次からは俺の学園での生活を話すことになるのだが、恐らく君たちが思い描くような学園生活ではない事を先に言っておこうと思う。では。