両親(2)
短いです。
後、投稿してからでお恥ずかしい話ですが、すでに全く同じ題名の小説が投稿されていたため、題名を変えようと思います。
「ムーちゃん、コレがリンゴですよ~」
母がまだ精神的に小さかった俺に、市場で買った赤い果実を見せながらそう言う。
「むーちゃん、これがりんごですよ~」
「違う違う、り・ん・ご」
「り、ん、ご」
「リンゴ」
「りんご」
「そう!!よく出来たわね!!」
「りんご」
会話だけを見れば普通の母と子の会話だが、実際はドラゴンと剣の会話である。母は魔法も達者で人間の姿にも成れるが、その頃の俺は姿を変えるなど、到底無理な話だった。はたから見れば、剣に美女がまるで赤ちゃんにそうするように語りかけている、という異様な光景が出来上がっていた。
人の噂はなんとやら、そういう噂は広がるのは早いもので、あっという間に『鍛冶屋のゲインは病んだ美女を囲っている』という様な噂が広まった。
「なぁおい、あんまりそいつを外に連れ出すのは辞めてくれないか?」
「なんて事言うのよ、お父さん。子供は外に連れ出すのが一番の勉強になるのよ?」
「普通はそうだろうがな、そいつは普通の子供じゃない、というかむしろ剣なんだ。俺が巷でなんて言われてるか分かって言ってるのか?それにお父さんというのは辞めてくれ、俺はまだ結婚しとらん」
「普通の子供よ、見た目が剣なだけで。それに、分かって言ってるわよ。いいじゃない、美人を好きにしてるって噂よ?それとも、私じゃ嫌かしら」
「見た目が剣のどこが普通だ。嫌だね、いくら美人でもドラゴンに付き合える気がせん」
「別にあなたが合わせなくてもいいのよ。それ位私が合わせればいい訳だし、私はあなたの事が好きだし、だから角とかをあげたんだし、むしろそれで結婚しないとかあんた何様って感じ?」
「あ~はいはい、分かった分かった。結婚しよう。しますよ。したらいいんだろ?」
「うむ、よろしい」
「ただし!こいつかまともに育つまで、せめて変化が出来るようになるまでは出歩かない事。いいな?」
「いいでしょう」
こうして、正式にゲインとバハムートは俺の父と母になった訳だ。
龍王の住み家が竜の山、龍族たちが住む山から人間の村、それも一介の鍛冶師の家に変わった事でそれはもう大変なことになった。女王に仕えていた龍たちが、それはもう空を埋め尽くすほどに飛び交う大騒ぎ、村の人たちは村が滅びることを確信したそうな。ゲインの一喝により、その騒動は終息したが、結局の所龍の王がこの村にいて、しかもそれが雌で、さらにゲインを婿にした事が村の皆にバレてしまった。ゲインの家に居たあの美女は、あの噂の美女は龍の王だったのだと。村には、世界の終りのような雰囲気が漂っていた。その雰囲気に耐えられることが出来なくなったゲインは、ついに引越しをすることに決める。愛着のある家や道具を泣く泣く売り払い、引っ越しの準備を進める。
「別に売らなくても・・・私の魔法で運べたのに」
「たのに」
無情なる追い討ちに、ゲインは家を飛び出していった。後で聞いた話だが、あの時は本気で自殺を考えたそうだ。