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98.郷ノ川医師が行く!(急行編)

 丸斗探偵局と郷ノ川アニマルクリニックとの出会いは、偶然だった。

 隣町に住むおじいさんの飼い犬の具合が悪くなり、飼い主の体の調子も踏まえて郷ノ川「院長」が出張検診に赴いたその帰り道。良い意味で予想と反し、病気ではなく犬の方が、最近元気が無くなっていると言うおじいさんを心配しすぎて具合を悪くしただけであった事で、予定した時間よりも早く診断が済んでしまった。仕事が忙しくてあまり立ち寄れないこの町の様子を見回ろうと決意し、見かけた公園で、一人の女性が具合を悪くしているのが彼の目に留まった事が、全ての始まりであった。

 近くにいた男性が看病をしているようだが、気持ち悪さが取れないようだ。見た目は普通の吐き気を伴う体調不良のようだが、郷ノ川医師は今までの「経験」からあのような症状が何かをすぐに見抜いた。タイムスリップに慣れていない者をよく襲う、所謂「時間酔い」と呼ばれる現象だ。彼はとっさに鞄から飲み薬を取りだし、彼女の元へと走った。制止しようとした男性を、自分は医者だと言い、少しの間沈黙させた。

 ただ、少々そのやり方は強引だったのかもしれない。時間酔いに即効性のあるこの薬だが、副作用として数十分の間ノンレム睡眠状態に陥ってしまうのが欠点だ。それを男性側が「彼女に危害を加えた」と勘違いしてしまうのも無理はないかもしれない。だが、まさか突然「時空改変」でこちらに攻撃を仕掛けるなど郷ノ川医師には予想外であった。もう少し対応が遅れれば、それこそ医者が病院に担ぎ込まれるという妙な事態になった可能性もある。ただ、今回は様々な要因が郷ノ川医師の方に働いていた。相手が冷静さを失っていた事、まだ「時空改変」とやらが未熟な事、そして郷ノ川医師がかつて同じような相手と出会っていた事…。

 一時、彼も命の危険を察知し、それこそ相手側の命にも関わりかねない事態も覚悟していたのだが、意識を取り戻した女性による男性へのかかと落としの鉄拳制裁で何とか喧嘩は収まった。彼らが「丸斗探偵局」という探偵事務所で勤務する局長「丸斗恵」、助手「デューク・マルト」である事を知ったのは、それからしばらく経ってからの探偵局の建物内である。最近新しく出来たらしく、仕事が無いという愚痴も聞いた郷ノ川医師は、彼らに協力したいと申し出た。あの時にデュークが攻撃を仕掛けた要因に、二人だけで十分だと言う心があったと言う。しかし、今回のような限界は必ず訪れる、絶対に二人だけでは解決できない事件だってある。そんな時、頼りになるのは「仲間」だ、そう彼は告げた。その通りだと言う局長の一方で、助手はまるで新しい知識を得たかのように目を丸くしながら大いに納得する表情を見せていた。

 あの事件以来、丸斗探偵局は様々な仲間を得ている。コンピュータの達人、化け狐、時空警察、刑事、そして町の動物やクローン人間。探偵局だけでは難しい時、彼らの力は大きな助けとなるのである。


===============================


 あの時も、まさにそのような事例であった。幸いにも非番であったため、郷ノ川医師は協力依頼をすぐに受け取った。


「病気で変な臭いって…」

「結構あるもんだぜ?病気になっちまうと、汗の出る穴から変なのがいっぱい出ちまう」

「病原菌に限らず、貧血なども独特の香りがするそうですね」


 こういう時にはワカメのめかぶやモズクを食べると臭いは収まるそうだが、丸斗探偵局にそういう話題がわざわざ持ちこまれたとなると、単におばちゃんの人脈関係かもしれないがただの「異臭」では無さそうだ。ただ、郷ノ川医師としてもどんな臭いかを知らないと対策はとれない。こういう時も、連携プレイは欠かせないものだ。

 この時点で、デューク・マルトは二人いる。この郷ノ川先生の病院にいる方と、かつてブランチも済んでいたあのネコ屋敷に常駐している方だ。そちらのデュークに臭いの解析結果を送信してもらうように頼むと、すぐに結果が返って来た。現地に向かっていたブランチ曰く、これは人間でなくとも近寄るのは大変なほどの異臭だと言うのだ。ただ物凄い臭いのでは無く、独特の香りだそうである。幸いミコが昔そういった臭いの解析ソフトを少しいじっていたらしく、大まかな中身は分かったのだが、他の連中はデュークを除いてさっぱり分からない数列が並んでいるデータが、郷ノ川先生のパソコン内部に掲載されている。


「…先生は分かるの…?」

「あたぼうよ、生物なら任せときな。ただ、説明はさすがにデュークの方が上手いけどな」

「ありがとうございます。では局長、一言で説明しますと…」


 野菜の詰め合わせを一年間放置した結果腐ったような「悪臭」。想像力豊かな事が幸いし、恵の顔も相当青くなった。ただ、その臭いの成分に関して郷ノ川医師は疑問を抱いているようだ。どうしたのかと尋ねる恵に対し、少し待ってほしいと言いながら彼は一旦部屋を出て、上の階へと向かった。


「そういえば、上の階って何があるんだろう…」

「昔行った事があるのですが、色々郷ノ川さんの医療器具がありましたね…あと…」

「…だいたい分かったわ…ヒルね…」


 …そう、郷ノ川医師はただの医者では無い。彼は医療用に「吸血ヒル」を数多く飼育しており、彼らの協力も加えて様々な病気を治しているのだ。あの時デュークと戦闘状態になった時も、彼の顔に吸血ヒルをくっつけていたらしい…が、デューク本人もあまり思い出したくは無いらしい。

 数分後、準備を整えた彼が階段を駆け下り、急いで戻って来た。


「だ、大丈夫ですよ慌てなくても…『デューク』がいるし」

「おお、忘れたぜ!財布は要らなかったな、はは」

「この大きな鞄は何でしょうか…?」

「ああ、ダチ公のヒルとか薬とか色々詰め込んだんだ。デュークがいて良かったぜ、これ結構重いし…」

 

 彼は、ヒルたちを「ダチ」「相棒」と呼び、単なる医療器具では無く友人、もう一つの助手として接している。デューク曰く、まるで言葉が通じあっているかのような連携だったと言うが…。

 ともかく準備は整った。一旦他の皆がいるネコ屋敷こと美紀さんの家へと瞬間移動で向かい、彼から詳しい説明を聞く事になった。ブランチも、瞬間移動で一旦こちらへ戻ってもらうようにしているため、再び全員集合と言う形になる。デュークの方も、留守番していた方と融合し、一人に戻った。


「つまり、そのくっさい臭いっつーのは…」

「オダブツ寸前という事…になりますニャ!」

「い、いいんですか!?ここでお話なんかしてても…」

「慌てる奴は儲けは少ない。事前の準備だろ、蛍」


 動物たちも事態が少々深刻である事に勘づき、ざわめいているようだ。郷ノ川医師曰く、この臭いの主は今かなり危機的な状況にある可能性が高いと言う。ベッドから動けず、体が蝕まれていく…。一体どんな病気なのか、と聞いた蛍に返って来た返事は、誰も予想していないものであった。


「ああ、これ宇宙人の病気だ」


 …郷ノ川医師がさらりと言ってのけたこの一言に、辺りが騒然とするまでに少し時間がかかった。確かに前は宇宙生物が未来から送り込まれた事があったのだが、ついに宇宙人まで出てくるとは思わなかったようである。だが、ざわめく皆をデュークが止めた。


「皆さん、今はざわめいている場合ではありません。宇宙人とはいえ、命がかかっています」

「…と、とりあえずはそうね…急いで向かわないと…」

「俺は着いて行った方がいいっすかね、先生」

「おお、大歓迎ですぜ!むしろ刑事さんがいた方がいいからな」


 今から彼らが行おうとしているのは、ある意味ファーストコンタクトとなる可能性が高い。慎重を期するため、地球の法律に詳しい人がついてくれれば非常に助かるものだ。

 と言う事で、まさかの事態にはなってしまったものの、皆は自分たちの任務を遂行する事に決めた。歯車がうまくかみ合えば、どんな難しい事例でも解決に導く事が出来る、それが丸斗探偵局の強みだ。ミコと蛍はそのまま待機して状況を把握、他の皆で急いで向かう事にした。当然、移動手段はデュークの瞬間移動だ。


 そして、彼らは異臭の中、一件のおんぼろの家へと辿りついた。本当に鼻をつんざくような臭いだが、幸いデュークの時空改変でだいぶ和らいでいる様子である。ただ、彼の力とて安易に病気を治す事は出来ない。病人の持つ内部の力を高めなければ、何度も同じ病気にかかってしまう場合が多いからだ。その役目を担う郷ノ川先生の方は、鞄の中にいる「相棒」たちの様子を少々気にしているようだ。


「だ、大丈夫でしたか…」

「デュークさん心配はいらないぜ、瞬間移動でヘロヘロになってる奴はいない、準備OKだ」

「タフなヒルですニャ」


 緊張を高め、真剣な気持ちを大きくする探偵局。何せ相手は他の星から来た者、慎重に行かないと大変な事になるかもしれない。呼び鈴が見当たらなかったのでドアをノックする事にしたのだが、役目は、栄司と恵が少しもめた後、二人で同時に行う事にした。何か借金取りみたいだと自分たちで突っ込みを入れながら、二人は何度かドアを叩き、来客が訪れた事を知らせた。ただ、何度やっても開く様子は無い。静かに叩いたり、大きく叩いたりしても出てくる様子は無い。最悪の手段と言う事でデュークが赴こうとしたその時…。


 静かにドアが開き、中から「宇宙人」が現れた…。


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