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97.郷ノ川医師が行く!(推理編)

 探偵は様々な要件に対し、それに関する適正な結果や内容を報告するという仕事もある。浮気調査やもその一環だ。今回はその中で、「隣人調査」という部類に当てはまる事例のようだ。以前のドン・エル夫妻の時はまだ人脈が少ない頃、デュークと恵が互いに協力して二人の恋を実らせたのだが、今の丸斗探偵局には頼もしい仲間が数多くいる。頼むには色々とお金やら食べ物やらで交渉する面倒臭さがあるのだが、デュークとしてはこちらの方が理想的だそうだ。

 ただ、探偵局の一員であるブランチ関連、すなわち彼と交流がある町の動物たちとなれば別だ。まだ残暑が残る町の中へと飛び出した彼を追って、探偵局や仲間たちは外へと出た。向かう先は動物たちの憩いの場、通称「ネコ屋敷」だ。


「美紀さん、お久しぶりです」

「ちょっとお邪魔してもいいっすかね」

「おじゃましてもいいっすよ、みなさん」


 変な口癖を伝えるな、とミコに突っ込まれつつも、栄司たちは久方ぶりに訪れる場所を見た。普通ネコ屋敷と呼ばれる場所では床は滅茶苦茶になり、壁もズタズタにされているはずなのだがここは違う。ブランチが仲間になった一件から、この屋敷の主である美紀さんの事を第一にという約束を動物たちの中で交わす事になったからだ。彼女の料理の腕前は、どんな動物でも舌を唸らせるほどだからというのも理由なのかもしれない。


「でも都合良い話じゃのぉ…。デュークはん、本当に何も関わっとらんの?」

「ほ、本当です…僕は何も…」


 …とミコが疑うのも無理は無い。ブランチが集合をかけたとはいえ、多種多様な動物たちが集まっていながら皆最低限の汚れしか家に付けていないからである。今回呼び出したのは、例の家の中に関する情報収集のためだ。あの近辺にはゴミ捨て場があるため、匂いに誘われてよくカラスやスズメ、ついでに野良犬野良猫が訪れる事がある。そして、今回有力な情報を届けてくれた動物のように、珍客も訪れるのだ。


「え、親子…?」

「そのようですニャ、ニャかで住んでるって情報ですニャ」


 カラスやスズメのような鳥類以外にも、最近の街中では夜中には空飛ぶ動物が見られる。ガやカゲロウのような昆虫もその中に入るが、それよりも目立ちやすい大きな体を持つ動物がいるのを忘れてはならない。今回有力な情報をもたらしてくれたのは、逆さになって窓の様子を見つめていた新婚さんのコウモリのメスであった。ただ、もう一つ気になる情報が二匹からもたらされた。皆様ご存じの通り、コウモリたちは主に超音波を使って様子を探る事が出来るのだが、夏場に空いていた窓から跳ね返って来た音響は、今目の前にいる人間や他の動物たちとは明らかに違うものだったと言うのだ。


「あんな感触は今までにニャかったって言ってますニャ」

「コウモリ世界は俺たちにはよく分からねえが、気になる情報ではあるな」


 …コウモリの話を聞いて思い出した他の動物たちからも、似たような証言が返って来た。犬の鼻には嗅いだ事のない異臭、ネコのヒゲには妙な違和感、そしてカラスやスズメも最近はあそこから漂う妙なオーラを嫌がって近寄らないと言う。

 この屋敷の主人である美紀さんにも、かいつまんで今回の一件を報告した。今の所確かなのは、あの家には親一人と子供一人が住んでいて、そして動物たちも近寄らないオーラが漂っているという事だ。丁寧なデュークの説明には彼女も大いに納得する事が出来た。ただ、その時彼女から出た言葉は、意外なものであった。


「…なんだか、かわいそうですね」

「可哀想…ですか?」

「わるいひとじゃないのに、きらわれてるかもしれない。かわいそう…」


 …誰も、反論は出来なかった。今、丸斗探偵局はそこに住んでいるであろう親子の事を一瞬でも「道具」としか捉えていなかった事を、美紀さんに指摘されてしまったような気がしたからだ。何故あんな事になっているのか、考えていなかった。そういえば、今回依頼に来たおばちゃん二人も、あの家との交流が無いという。もしかしたら、誰にも相談できないまま、何かを悩んでいるのかもしれない…と思いかけた時、決定的な一言が動物たちから漏れた。


『でも、そういう場合は「病気」の可能性だってある』

『放置しておくのが対処法じゃないか』


 …決して栄司では無い。彼よりもドライな考えを持ちながら生きているカラスや野良犬たちの一言であるが、その言葉を聞いたブランチははっとした。そういえば、確かに自分たち動物でも、体に何か異常があった時は、表面から妙な匂いがするものだ。そして、丸斗探偵局の一同も、その発想は思い浮かんでいなかった様子である。


「デューク、あんた何で思い浮かばなかったのよ!」

「す、すいません局長…髪引っ張らないで…」


 いくら百科事典が内蔵されているとはいえ、それをどう活用するかは彼の意志による。それが時空改変というものだ。ただ、一度スイッチが入ればもうこちらのもの、森羅万象あらゆるものを活かす事が出来る、それもまた時空改変の姿である。

 先程局長に引っ張られて今にも抜けそうな長髪を一本取り出すと、それが一瞬で小さなカメラロボットになった。本当は法律違反なのだが、それを守る立場の栄司が乗っていると言う今の状況、これを使って内部の様子をブランチに観察してもらうという作戦だ。そして、同時に彼らはもう一人の仲間を手配する事にした。隣町の名物医者と言う事で忙しいのだが、得体の知れない相手には彼の手を借りるのが一番だ。


「私とデュークで今から郷ノ川さんの所へ行って来る。ブランチは例の家の方に。ケイちゃんと栄司とミコは、ここで情報解析をお願いね。あ、デュークは…」

「ええ、僕は局長と一緒にいる方と…」「この家の滞在班の二人で大丈夫ですね」


 あまりにも自然に分身したデュークに動物たちが驚く一方で、美紀さんは全然動じていなかった。意外に彼女は肝が据わっているようだ。…それとも、よく分かっていなかったのかどうか。


 …ともかく、丸斗探偵局は今回の事例に関して本格的な捜査に動き出した。


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