95.番外編:Dの惑星
…現在よりも遥か未来のとある宇宙。多くの人々が地球を離れ、各地の星で生活を営んでいる。中には自治権を勝ち取り、一つの勢力となっているものも存在する…。
ただ、遠くから見るとあまりその姿は今と変わっていない。中心には光り輝く恒星があり、その周りを様々な惑星がまわり、さらにそれを軸に衛星が丸い軌道を形作っている。
そんな衛星上で、二つの影が寝転がっていた。どちらとも、人間の形をしている。
「…もーやだ…」
「ほんと怨むからな、お前…」
「なんだよ、君のせいじゃんか…」
…ずっと長い間、二人は互いに悪口を言い合い続けてきた。最初の頃は殺い合いにすら発展しかねない状況だったが、今そのような関係で無いのは本当に幸いかもしれない。何せこの二名、それこそどんな法則も大混乱させるほどの力を取り戻していたからである…。
「…それにしてもさぁ…これって元々…」
「仕方ないよ、原因はどちらにしろ僕たちだし」
「ああやだ…」
先程から口に出るのは愚痴ばかりだが、彼らの任務は既に完了していた。二人の眼下に広がるのは、緑と青に輝く巨大な一つの惑星。所々に点々と見える銀色の円状の物体は、この惑星に住むロボットと地球からの移民たちが協力して作り上げた街である。今、この星ではロボットと人間、そして地球からやってきた動物たちがバランスよく生活している。
…地獄のような光景から、今のような理想的な環境へと戻す。それが、「時空改変能力」が戻ってきた二人の犯罪者へ課せられた刑罰の一つであった。そもそも、この殖民惑星を壊滅させた犯人も、未来の大犯罪者「デューク」であった。何故その事がばれていたのかは謎であるが、コンピュータ事態に細工をし、そのうち人類側に不満を持って反乱に及ぶように仕向けたのは間違いない。ただ、直接的な要因はこの星そのものの地殻を変動させる事であった。火山の噴火で、何もかもが消え去ったのである。
それを元に戻すように宣告されたのだから、二人の気が滅入るのは当然かもしれない。一度自分が目茶目茶にした過去ほど、それを償うのは非常に困難だからだ。だが、その力をこの二名は持っている。デューク・マルトから産まれた分け枝である彼らは、嫌々ながらも時空改変で自分たちの罪を晴らし始めた。
喧嘩が起きそうになればその原因を取っ払い、火山の噴火などの事態が起きればそのエネルギーをどこか別の場所に放出させ、とにかく惑星の安定化に努めていた。長い年月がかかったのは言うまでも無い。だが、結局は全て丸く収まるという能力を持つ二人…というより丸く収まるようにという命令が下された二人、何とか星が平和に発展するまで持ちこむ事が出来た。
「これでいいんだよな、一応…」
黒い燕尾服を衛星の大地に埋もれ、ヘトヘトになっている二人の元に、もう一つの影がやってきた。髪型など細かい部分は違うものの、三人とも顔の輪郭や服装、全てが同一である。だが、その影を見て二人はどこか嫌そうな顔をしていた。元は全員とも同じ「デューク」なのに、何故彼だけ扱いが自分たちより上なのだろうか、と。
「お二人とも安心して下さい。『今回の』役目は無事に済みましたよ」
「よ、ようやくか…」
「何してたんだよお前はずっと!」
「私も色々と…サンタクロースさんの雪崩を直したり、村の人たちからナノマシンを…」
「楽でいいよな…」
愚痴は口を開けばどんどん出てくるものである。
…とは言え、彼が嘘をつく事など有り得ない。色々と奴も大変だったのだろう、と思うしかなかった。
確かにあちらは模範囚として任命され、自分たちを監視する役目も担っているのだが、かつての自分が滅茶苦茶にした事柄を一つ一つ元に戻していくのは非常に大変な作業である。何せ「一人」だった時代からではない、自分たちが大量にいた後の時空改変も担当する必要があるためだ。先は果てしなく長い。
「とりあえず、お疲れ様です。ミルクティーでも飲みますか?」
…空気も無い荒涼とした大地で、燕尾服の三名の男がミルクティーを飲みながら輝く惑星を見る。どこかシュールな光景である。
「…なあこのまま休もうよもう…」
「いえ、まだまだ仕事はたっぷりあります。休んだら、再び仕事ですよ」
「「はぁ…」」
なんであいつはそんなにやる気なんだろうか。
とは言いつつも、もう命を奪う気にはなれない。あそこまで「オリジナル」の自分から念を押されて怒られてしまえば、到底逆らう気にはなれないからである。というか、逆らったら自分たちの命は無いとはっきりと言われてしまっている…。
「あ、ところでクリスさん元気?」
…愚痴ってばかりもいられない。短髪の男が、ふと気になった質問をした。
自分たちの担当となっている未来の時空警察の係の人と、最近全然連絡を取っていなかったのを思い出したのだ。
「ええ、無事に生きてますよ」
「生きてるって…」
「もうちょっと言い方を…」
相変わらず手書きの字は下手らしいが、それでも元気である事を知った。何だかんだで自分たちを見守る存在、心配はしておいた方が良いだろう、という判断であった。
次の目的地へ動く前に、三人はもう少しだけ、この緑と青の惑星を見守る事にした。色々とここまで愚痴愚痴言ってきたが、自分たちの努力の結晶は美しく宇宙に輝いている。今までの生活では、決して見る事が出来なかったであろう姿だ。
オリジナルが「正義」とかいうものに目覚めた理由が、少しづつ分かってきた二人であった…。
時空警察に身柄を拘束された三人の「デューク」、その刑罰は永遠に続く。