94.探偵局、西へ! その11:Final?第二の依頼
…そして、それから数日後。
「改めて、お世話になりました」
「ありがとうございます!」
陽元家の門の近くで、大きな荷物を抱えた三人が屋主たちに頭を下げていた。
この数日間、丸斗探偵局は存分に里帰りしたミコとあちこちを遊び回った。勿論、平和を祈ったり神社にお参りをしたりと真面目な事を済ませる時もあったが、商店街での買い物などは大いに盛り上がった。あまり見る所は少ない、とミコやシンは言っていたものの、案外慣れ親しんだ場所やものほどその欠点が目立ってしまうものかもしれない。ただ、その間もう一つやるべき仕事があった…というより、依頼である。
「これから松山行きとは、忙しいもんじゃのぉ」
「大丈夫ですよ、観光も兼ねてますし」
「きょ、局長…」
…心配する蛍だが、別にミコたちの両親は気にしていなかった。彼女の正直さ…というより、どこか少年のような心に感心していたのかもしれない。
栄司から突然委託された、連続行方不明事件に関しての詳細な捜査を、丸斗探偵局は引き受ける事にした。勿論、向こうでの様々な観光などの料金やホテルの手配は全て栄司からのお金という条件で。…普段は何かしら難癖をつけて断る彼だが、今回は引き受けざるを得なかった。何せ松山にいるはずのもう一人の有田栄司が、しばらくの間出張でいないと言う事態になっていたからである。彼から文字通り分かれて広島に捜査しに来た彼も、一応は従わざるを得ない。
「さすがに栄司の家に泊まるのはあれだもんね…」
「やかましい、だいたいこの家の広さと松山の家を比べるな」
なお、ミコやシンの両親には栄司を始め丸斗探偵局の超能力についてばれる事は無いまま済んだ。蛍の特訓に関しても、一応ながら美味く進んでいる模様である。とりあえず、次の任務へ行く準備は整っていた。ただ…
「それにしてもここから松山っつーと…」
「ええ、『船』ですね」
「船酔いに気をつけてな、みんな」
「大丈夫じゃろ父ちゃん、イケメンは船酔いなんてせんけぇ」
「なんじゃその理屈…」
…その心遣いに、少しだけ複雑な気分になった丸斗探偵局であった。何故なら、彼らは「別」の方法でそのまま松山に渡ろうとしていたからである。ともかく、改めてお礼を言った後、恵、デューク、蛍、そして栄司は陽元家を後にした。途中まで一緒に来てくれるというシンとミコの兄妹と共に。
そして、ちょうど見送りの両親や他の人々からの死角となるような、人通りの少ない道に六人は進んだ。そこでなら、時空改変を最低限抑える事が出来るからだ。
瞬間移動で直接松山に乗り込んでもらう提案をしたのは、やはりというか何と言うか、旅費をけちった栄司であった。ただ、デューク本人もある程度はそういう発想が出るのは予知していたようで、心構えはできていたようである。あれほど大きかった荷物も、縮小圧縮されて今や恵局長の掌で持てるほどになってしまっていた。確かに理屈上は、情報をエネルギーに変換する事もその逆も可能と言えば可能なのだが…。
「さすが、未来の技術じゃのぉ…」
何だかんだで、絶対この人には敵わない。そうミコは思った。
家へ戻るには時間がたっぷりあると言う事で、そのまま栄司たちは街に遊びに行くという事となり、彼らともここでお別れする事になった。昨日から土産物ばかりねだるミコ、無事と健闘を祈るシン、そして手柄を取る気満々の栄司…。
「…まともなのシンさんだけじゃん」
「「やかましい」」
「まぁまぁ…とりあえず、皆様ありがとうございました」
「無事に着いたら連絡入れます!」
「楽しみにしとるけえの、蛍ちゃん」
そして、丸斗探偵局の三人の姿が少しづつ陽炎のように薄くなり始め、そして瞬時に音も無く消えて行った…。
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…三人を見送り、そのまま街へ繰り出そうとした栄司に、シンが声をかけてきた。立ち止った二人にミコが声をかけたが、彼女の兄は先に行くように合図を出した。どうしたのか、と一瞬気になる彼女だったのだが、お兄がそう言った事を告げる場合、たいていは重要な要件がある時だ。このまま自分がいるという選択肢をとれば、後で面倒になる事を彼女は予知能力で察していた。
近くの公園で待っている、と言い、彼女が場を外れた後、シンは自らの考えを口にした。
「…デューク、か?」
「…そうっす。栄司さん…」
…あの人には、気をつけた方がいい。
…当然ながら、栄司は冗談じゃないという表情をしていた。あのような時空改変能力を持つ存在、性格は優しく臆病、そして立場も自分たちより少々下に置いているのだが、それを考慮しても相当危険な人物であると言う事は彼も既に認識しているからだ。取りあえず今のところは別に怒らせるような事は何も…
「いや、そう言う事じゃないっす」
「…は?」
「凄い嫌な予感がするんす、俺…」
…栄司とデューク、双方に関し、何か重要なものがある。
そう言われた時、栄司の脳裏で何かの鍵が開いたような気がした。自分も含め、絶対に触れられて欲しくない場所だったのかもしれない。彼の過去でどうあがいても抜ける事が出来ない一番の深み、そして今の自分自身を創りだしたその時間…。ただ、彼はそれでも信じる気は無かった。例え相手が予知能力者でも、あくまで今のは単なる「予感」。彼自身もそう言っている。
「…すいません、かなり気分悪くしたようっすね」
「いくら知り合いでも、むやみに能力は見せびらかすな。恵みたいな駄目人間になってもいいのか、お前?」
「…分かったっす」
…ただ、栄司本人としては、心の内には秘めておく事にした。
そういえば、最初に探偵局の面々と遭遇した時、彼は思っていた事がある。あの探偵局長に、何故か自分は「姉」の雰囲気を感じていた…というより、まるで「姉」ように見えた。その後の付き合いの中で、彼女が姉とは全く違う存在である事に完全に慣れてしまっていた。
もう一度、「自分」の過去に目を向ける必要がある。
…ただ、それは街を思いっきり楽しんでからだ。ミコと合流した後、栄司やシンはそのまま百万都市へと繰り出していった…。