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91.探偵局、西へ! その8:化けの皮を暴け!

「サンショー大明神」に関する伝説は、その発祥の地を始め、多くの人々に語り継がれている。

かつて、とある村に巨大なオオサンショウウオがいた。数十メートルを超えると言うその巨体で暴虐の限りを尽くし、近隣の村の家畜のほとんどを食らってしまった。倒そうとする者も現れたと言うが、いくら切り刻んでもすぐに元に戻ってしまい、どうしようも無かったと言われている。オオサンショウウオの別名は「ハンザキ」、正式な由来は不明だが食用にされていた時代は半分に裂いてもしばらくの間生き続けていた事が要因ではないかとの噂だ。

…だが、そんな状況はとある一人の侍が来てから一変したと言う。その侍は、皆があれほどまでに恐れていたオオサンショウウオをあっけなく倒してしまったのだ。だが、それで終わりでは無かった。その侍は、やがて恐るべき祟りに遭い、行方をくらましたと言う。死んでもなおオオサンショウウオは怨念を蓄え続けていたのだ。それを収めるため、村人はお堂を建て、怨念を鎮めるべく神様として祭った、これが「伝説」である。


…しかし、過去というものは時が流れるにつれ、その形を自由自在に変えていく。特に、不都合な事実と言う物は人々の記憶から早くに消され、様々なつじつま合わせが起きてしまうものだ。


ここに、その真相を知る者がいる。


「…で、デュークさん大丈夫っすか…?」

「す、すいません…」

「随分苦戦してるようっすね…」


それほどまでに手ごわい相手なのか、というのがシンの言葉であった。

今、デュークはシンと共にオオサンショウウオの姿をした化け物と対峙し、戦いを繰り広げている。背中にシンを背負う形で、デュークは飛び交う光弾を必死に受け止め、また受け流し続けている。だが、それでも情勢はオオサンショウウオ側有利のように見えていた。それほどまでに強い相手なのだろうか…いや、違う。


…デュークの過去は、あまりにも不都合なものが多すぎた。歴史を各地で歪ませ、命すら好き勝手に操作していた彼にとってはもはやつじつま合わせで済まされるようなものは少なかった。

このオオサンショウウオもそうであった。あの時の自分は、自らが推し進めようとしていた「サンプル」としてしかその巨体を見ていなかった。それ故、何の感情も無くすぐに倒す事が出来たのかもしれない。勿論、ミュータントであったその個体が持つ能力を封じ込めたうえで。だが、彼は結局それを持ち変える事はしなかった。「サンプル」としては不完全であったためともう一つ、村の人々に失望したからである。


そして、彼は置き土産を残した。「かつて」彼が支援していた、生物無生物問わず腐食させ、やがて分解してしまう病をもたらす機械だ。当然、その後村中が危機に陥ったのは言うまでも無い…。


その自分勝手さへの悔いが、今のデュークにとっては大きな足かせとなっていた。


…しかし。


「…デュークさん…聞こえるっすか!」

「…あ、はいすいません!」


その事に集中しすぎて、彼は近くでの助言も聞き逃してしまうところであった。


バリヤーを用いて何とかオオサンショウウオの攻撃を防ぎつつ、デュークはシンの話を聞いた。


「そもそもおかしいっすよ…何で一か所でしか売って無いのが突然流行ったのか」

「それは僕も考えてました…うっ!…すいません、でもそれが…」

「それ以外にあるんすよ、妙な所が…」


…どうしてこんな遠い所で、突如としてサンショー大明神の話題を聞く事が多くなったのか。そもそもあれは、隣接する県に伝わるだけの話のはず。そして、シンは自らの決定的な意見を口にした。

まるで「何か」が、そのネームバリューを利用して悪だくみをしているようだ、と。彼は自らの脳内で確信を得ていた。

目の前にいるのは、「サンショー大明神」ではない、別の何かだ、と。


…その言葉を聞いた瞬間、デュークの心から何か重いものが取れた。そして、それとは別に湧きあがる感情が心の中を満たし始めていた。目の前の「何か」は、恐らく大明神を利用しているだけ。足元に広がる異様な光景も、目の前の力も、もしかしたら…!


「シンさん!」


そして、彼は大声で言った。


「予知能力を持つ貴方に、頼みたい事があるんです。

 …一旦下に降りてくれませんか?」


===========================================================



…一言でいえば、なんだありゃ。


地上で大量の男女の肉体に埋もれ続けていたカワウソの兄弟だが、今その意識は上空の光景に集中していた。こんな情景、今まで一度も見た事が無い。「旦那」も「奥さん」でも、あそこまでの凄まじさを見せた事は無かった。


「あ、兄貴…」

「ああ…」


視線の先には、二つの影が空中に浮かんでいた。一方は見た目からして巨大な両生類だが、もう一方は人間と違わぬ姿をしていた。長髪の男性のようだが、遠すぎてよく分からない。…いや、それもあるがもう一つ、その動きがあまりにも速すぎるからである。先程までの防御態勢とは打って変わり、直接的な打撃を何度も両生類側に当てていた。相手側も変化術を用いているようだが、それが一切通用しないようだ。一撃を加えるごとに、周りに巨大な音が広がる。まるで空気を破裂させるような凄まじい音、笑い声の渦もかき消すほどだ。


そのうち、「両生類」の影がついに形を変え始めた。細かい所は見えないが、大きなヒビが何個も見え始めたのは兄弟にも分かった。化けの皮がようやく剥がれ始めた証である。そして、先程までオオサンショウウオがいた場所には、一匹の「狸」が浮遊していた…。


「…すげえ…」

「…っておい、そんな事言ってる暇ないぜ!」


兄は弟を急かした。化けの皮が剥がれたと言う事は、すなわちサンショー大明神の姿はこちら側に取り戻されたと言う事。もしかしたら、「本体」もどこかに眠っているかもしれない、急いで探し出す必要がある…。


…だが。


「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」


…人波は、予想以上に大きかった。動く隙間も無ければ立つ位置も狭い。手段は分かれど、今のカワウソ兄弟に打つ手は無かった。


================================================


…が、その一方で。


「…ここか…」


人生初めてのテレポート経験を今日で二度もしてしまった男、陽元シン。彼が降り立ったのは、大量の男女の中で「偶然」見つけた隙間であった。

デュークからの頼み事は、予知能力をフルに活かす事。そして、その力を持って「サンショー大明神」を助ける事。

…考えに自信を持った今の自分なら、それくらい朝飯前。そう彼は心の中で唱え、そして行動に移り始めた。


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