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89.探偵局、西へ! その6・決行!潜入調査

 恵やミコたちが、蛍が泊まる事になった部屋に集結して数時間が経過した。一度お菓子を貰いに下に降りてきたきり、ずっと上からの連絡が無い。念のためのメールにも返答が無い状況に、さすがのミコの母も少し不安になって来た。


「父ちゃん、心配じゃ…」

「上の皆の事か?」

「うん」


 …それが本当に心の全部からの気持ちでは無いと言う事を、ミコの父は気付いていた。いや、リビングで横になりながら、テレビでアジアのイケメンドラマをのんびりと眺めている様子を見れば、どう考えても二人の子供の事を心配しているとは思いにくいだろう。仕事が早く終わって家に帰った時、いつもミコの父を出迎えてくれるのはこういった美形の若い男性が出ているドラマをゴロゴロと眺めている母の姿だ。どんな国でも見境なく好みの美形が出ているとなれば国際情勢など全く気にせず必ずチェックする非常に自分に正直な彼女だが、本当に心配している時は何も見ず、落ち着かない姿を晒しているものだ。


「だいたい、母ちゃんが心配っつったら世の中滅茶苦茶になるじゃろ」

「ま、まぁそうじゃけど…」


 馬の心配をすれば競馬で落馬事故が起き、面白くないと感じればそのドラマは打ち切られる。逆に彼女が本心から怒りを覚えれば、その政治家は栄司らハイエナの餌食にされるのが運命だ。デュークすら恐れると言う予知能力のなせる、未来を固定する力である。だが、娘や息子同様、自分が本心からそうなるかもしれないと思わない限り、その未来にはならないのが陽元家に受け継がれた遺伝子配列の特性である。


「それにミコたちのお友達じゃし、悪い事はせんと思うのぉ」


 そして、彼は言った。あの二人は自分たちの「自信作」、もっと信じてやれ、と。

 ミコの母が父に惚れたのは、決して能力故では無い。困った時や悩んでいる時、どんな場合でも味方になってくれる頼もしさである…。


====================================


 …ただ、ミコの母が抱いていた「不安」を彼女自身はどう捉えていたのかは分からないが、二階で事態は大きく動き始めていた。分身を解き、元の一人に戻った栄司、恵、蛍を含めた一行が囲んでいるのは、小さな銀色のバッジであった。丁寧に彫られたと思われるオオサンショウウオの視線が、不気味に一同を睨んでいるようである。


「…これが、噂の…」

「そのようっすね」


 事態はなるべく早めに解決させた方が良い、それが全員一致の意見であった。各地で頻発している行方不明事件とならば、本人たちの命にもかかわるような事がいつ起こるともしれない。時間の流れも平気で乗り越えるモーターを持つデューク・マルトがいたのは今回も大いに幸いした。

 以前デュークが偵察した場所に瞬間移動して見たところ、店は開いていなかった…というより、まるでそこに無かったかのように佇んでいたのである。そこで、アクセサリーなど流行りものには年相応に敏感な蛍を連れて、店が開いていた「過去」へと一旦戻り、例のサンショー大明神グッズを購入する事にしたのだ。ちなみに蛍に押しつけたのは例によって面倒臭がり屋の恵の指令であるが、カモフラージュの意味もあった。何かが一枚噛んでいるのは既に明らか、凄まじい力を持つデュークが近づけば相手に感づかれてしまうと言う危惧もあったのである。


「見た限りはごく普通のものだな」

「ええ、見た目はそうです。ただ…」

「「「?」」」


 デューク以外の全員が首をかしげたが、彼が言葉を濁した理由はすぐに分かった。女性のものと見間違えそうなほど綺麗な彼の掌に大明神のバッジが載せられた瞬間、まるで部屋の中に台風が入り込んだように周りの景色が歪んだではないか!陽元兄妹や恵が驚く一方、一体これは何だと彼に質問したのは栄司であった。彼も驚愕はしていたが、それだけでは事件の解決には結ばない。ただ、その答えを先に言ったのはシンであった。景色の歪みが落ち着き始め、そこに黒い円状のようなものが浮かび始めたのを見て、彼の勘が働いた。まるで「穴」を思わせるこの形状、もしかして何かの入り口ではないか…?


「シンさんの言う通りです。間違いありません、このグッズは『鍵』です」

「鍵って…この変な穴の中に入るっつー事かの?」

「と言うよりも、無理やり穴の中に引きずり込むと言った方がいいでしょう」


 早速飛び込もうとした恵やミコは当然デュークや蛍に止められた。特にミコの場合、予知能力を持っているにも関わらず何も考えずに動く事が多い。シンから冷たい目線が飛んだのは言うまでも無い。ただ、逆にミコが飛び込もうとしたとなると、ここ最近連発していたあの連中とは何かが違うようだ。


「デューク先輩の偽者が作った…んですか?」


 蛍の疑問を、デュークは否定した。その場合なら、今頃クリス捜査官から連絡が届いているはずだ。だが、今回はそれとは違う。彼から出た言葉に、またもやシンは驚かされる羽目となった。


「え、動物!?」

「そうですね、一番近い存在で言うと…ドンさんやエルさんのような、化ける能力を持つ動物の仕業でしょう」


 幻覚を操って相手を惑わせる事が得意な彼らだが、時には未来人の技術にも匹敵するとてつもない力を発揮する事は栄司もよく知っていた。神社を破壊して争った二体のニセデュークを食い止めたのは、あの狐夫婦の造り出した異次元のお陰もあるからだ。ただ、行方不明事件と関わっているとなると、今回この空間を創りだしたのは悪意のあるものの可能性が高い…。

 …この総意のせいで、揉め事が発生してしまった。「穴」の中に入るという段階で、恵やミコが入るのを渋り、デュークに一任しようとし始めたからである。


「だって、狐や狸が敵なんて怖いでしょ!」

「でも局長、デューク先輩に任せすぎですよさっきから…」

「仕方ないでしょ、私は局長なんだから」

「お前とミコはどうせサボりたいだけだろ」

「なんじゃとおい!」


…もしかしたら、シンやミコがこの防音部屋を選んだのはこういう未来を予知していたのかもしれない。基本的に丸斗探偵局やその仲間たちは自分自身の思いをはっきりと述べる者が多いため、意見がまとまらない場合はこのような言い争いになる場合が非常に多い。不真面目な恵とミコ、それを批判するしっかり者の蛍、火に油を注ぐ栄司。この四人の意見がぶつかり合うと、押しの弱いデュークではなかなか止められない。だが、このままでは言い争ったまま日も落ちてしまうし、先程からずっと空いたままの「穴」が消えてしまう可能性もある…。


その時であった。


「ストップ!」


耳に響く低音が、4人の言い争いを止めた。そして、声の主は言った。自分が、この空間に入りこむ、と。当然ながら皆は驚き、それに対して批判をした。特にミコは、実の兄がこんな危険な所に行く事に対して不安を持っているようだ。しかし、彼の勘は何かを訴えていた。


「ミコは知っとるじゃろ、こういうオカルトは俺が大好きじゃって」

「じゃけどのぉ…」

「だいたいのぉ、俺は記者じゃ。俺には真実を見なきゃならん役目がある」


 探偵が事件を未然に防ぎ、警察が事件を解決するとならば、マスコミはその事実を正確に記録するという役目となる。ミコにはこの作品にはよくありがちな展開だとからかわれるものの、意外に頑固な兄を止めるのは難しいと言う事を知っていた。予知能力をやたらめったら使うものではないと厳格に教えていた父の特性は、彼に受け継がれたようである。恵や蛍、栄司も今回は彼に一任する事にした。初対面の時からあまり時間は経っていないのだが、彼の能力に賭けてみようと考えたらしい。


「…と言う事で、デューク先輩とミコさんのお兄さんがこの中に…」

「蛍、大丈夫か?」

「大丈夫です、局長や栄司さん、ミコさんと一緒に絶対ここは守ります!」


空間を保持したまま、デュークは蛍にバッジを渡した。局長に渡さなかったのは、彼女には携帯電話での連絡を託したためである。もし何かあった場合は、自分からこの携帯の端末を通じて緊急避難するためだ。糸は見えないが、立派な命綱である。


「シンさん、念のためにもう一度聞きますが、本当に大丈夫ですか?」

「…心配はいらないっす。俺の予知は、当たりますから」


 …世界を自在に操る時空改変能力と相反するような力である予知能力者が言うとなれば、さしものデュークも納得せざるを得ない。でたらめに組んだ積み木の城でも、予知能力者は既にその手順が書かれている説明書が脳内に作られているからだ。デュークが自身を神では無いと証明できる数少ない手段でもあり、また同時に彼が恐れている力でもある…。

 という説明はともかく、思い立ったが吉日というのは世の中の常識、鉄は冷めない間に打つのが丸斗探偵局の基本方針。挨拶もそこそこに、デュークとシンは暗い闇の中に入りこんでいった…。


====================================


…一方、その穴の中では。


「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」『あ、兄貴ー!聞こえるかー!』「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」『き、聞こえるがなぁ…むぎゅぎゅ…ぐへへ…』「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」『兄貴!そんな事気にしてる場合じゃねえだろ!』「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」『で、でも仕方ねーだr…ぐぐ…どうすりゃいいってんだよこれ…』「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」『ぐぐぐ…』「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」


 化けカワウソの兄弟が、延々と広がる「一組」の夫婦の大群に埋もれていた。

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