82.熱帯夜のM
「…もう暦は秋なのになぁ、夜の道は相変わらず暑いですね、っと…ただいまー」
「「「あ、おかえりー」」」
「お待たせー、涼しい部屋で留守番御苦労様」
「もう、何言ってるんだか」「そっちの私だって、仕事場クーラーがんがん利かしてたんでしょ?」
「そ、それは別だよ…外も結構暑いし…」
「まあまあ、ちょうど麦茶湧いてるからみんな飲む?」
「「「りょーかい」」」
「「「「かんぱーい!」」」」
「…ふう、やっぱり冷たいお茶っていいよねー、暑い体を覚ましてくれるし」
「え、そんなに外暑いの?」
「当然よ、ニュースでやってたでしょ、今日も熱帯夜になるって」
「あ、そういえば…」「クーラー常備か…」「電気料かかりそう…」
「じゃあ時空改変で何とかする?」
「えー、でもなんかこうデュークが…」「うわ、よく考えたら面倒だね…」「分かる分かる、どうせ注意ばかりになりそうだし」「だいたい無理やり部屋に入ってこられても私が困るよ」
「満場一致で却下決定、クーラーの方がいいわね」「うん、こっちの方が素直だしねー」
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「それにしてもさー、デュークとも結構長い付き合いになってるよね、『私』」「うんうん」
「気付けばなんか新しい仲間が2人も加わってるしねー」「本当、探偵局も随分賑やかになってるし」「まあ最初の頃も賑やかだったけどさ」「ま、まあね」
「確か最初の依頼って…」「落し物の件よ、落し物」
「ああそっか、うっかり落としちゃった財布の件ね」「あれは慌ただしかったわね…」「『デューク』がまだ逃げて来たばかりで慣れて無かった頃だから、無理やり財布を作ろうとしたりしてたし」「やっぱりそこが『デューク』だよね…頭良さそうに見えて力押し」
「まあ最終的には普通に見つかって良かったけどね」「助かったわよ…あれ全財産入ってたんだっけ?」「そうよ、無かったら探偵局のメンツもだけど…」「それは分かってるから大丈夫大丈夫」
「そういえばその後って確か…」
「あれあれ、盗撮の件じゃないの」「ああ、あれね…あまり思い出したくないわね」「本当、女湯覗くスポットになるなんて最低すぎるよ」
「男ってこれだから…」「「「ねー」」」
「ま、でも最終的にボコボコにされたんだからいいわよね」「そうそう、ついでに責任なすりつけで銭湯も守れたし」「力技もたまには使いようよねー」
「お陰で今も銭湯はのんびり繁盛してるし」「定期のお客がいるのは大きいわよね」「うんうん」
「あ、しまった」「「「ん?」」」
「お風呂入れるの忘れてた」
「もう、皆銭湯に来ればよかったのに…」「だって外暑いって言ってたじゃん」「私は暑いの苦手だって…」「もう、私の癖に文句多いってば」「「「むー…」」」
「仕方ないわね、ちょっと入れてきてー」
「…と言う事で、5人になって再開か」
「ボタン押すだけでいいのに増えちゃったし…」「まあ私だから…ね」「蛍ちゃんだったら今頃文句たらたらになってそうだね」「あの子真面目だけど相当頑固だからねぇ…」
「確か蛍ちゃんって漫画とかアニメとかも嫌いなのよね」「うん…メイドとか軽々しく扱うから嫌いだって」「雰囲気自体を気持ち悪がってるって言ってたっけ」「うん…確かにトラウマだっては分かるけど…」「変にこじれないといいんだけどね…」「本当だね」
「そういえばその事で『デューク』はなんか言ってたっけ」「ううん、一言も触れて無いわね」「じゃあ大丈夫…なのかしらね…」「まあ後の事だから、探偵局が何とかするしかないかもね」「難しい問題ね…」
「まあ、でも蛍ちゃんも何だかんだで頑張りやで真面目だから」「そうそう、本当にピンチの時には大活躍してくれるし」「あのパンチとかキックは強烈よね…私絶対当たったら死んじゃいそう」「同感ね…あれ確か1秒間に数千発だっけ?」「やっぱり『デューク』は滅茶苦茶な事平気でやっちゃうから」
「「探偵局は敵に回さない方がいい」」「「「同感です」」」
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「でもさー、よく考えたら時空警察も随分黒過ぎるわよね…」
「そうかし…いや、黒過ぎるってもんじゃないわねあれ」「考えようによっちゃ『デューク』をいいように扱ってるんでしょあれ」「神様を遠隔操作するなんて怖すぎるわよね…」「暴走したら…」「考えたくもないわね…」
「でも、クリスちゃん言ってたらしいけど、『デューク』も逆に時空警察の監視役なんだっけ」「「え?」」
「ほら、確か時空警察が束になっても敵わないんでしょ?」「そういえばどっかの植民惑星滅ぼした時…」「あれね、防衛用の戦艦そのものを無かった事にしたっていう」「反則だ…」「本当、『デューク』がまともな考えで動いていて助かるよ…」
「でも、確かに管理人にはぴったりね」「というか、ある意味神様じゃない?他人の願いを聞いてそれに色んな対応をする」「本人は一番嫌ってるらしいけど…でも判決だからね」「そうそう、みんなに迷惑ばっかりかけたから、今度は自分が一番嫌ってる事をされるんでしょ?」「ま、自業自得よねー」「「「「ねー」」」」
「それに、考えようによっちゃお互いさまじゃない?」「「「「え?」」」」
「ほら、そもそもこっちの警察も…」
「あ、栄司君か…」「『デューク』とは別方向でやりたい放題よね…」「あれって確か先天性なんだっけ」「天然ものって天然だから怖いわね」
「同感、だって数が半端ないし、それが連携プレイするんでしょ?」「まあ私も人の事は言えないわね」「でもあいつは…」「…ああ、そうか…」「とことん隙が無いわね…」
「そういえば確か栄司君とブランチ君の間にいざこざが昔あったんだっけ?」「え、何それ聞いてない」「「「私も」」」
「当然よ、今日私も初めて聞いたんだもん」「どんな感じ?」
「まあただのゴミ捨て場の争いよ、今はマナー良くやってるけど昔は酷かったでしょ?」「あー、散らばりっぷりが半端なかったよね…」「それで栄司君側が本格的に追い払おうとしてたんでしょ」
「そう言う感じ、それでカラスの寝床がいくつか無くなっちゃって」「巣を壊されたりとか?」
「うん、ただその後が面白くて、栄司君の家が寝床にされちゃったんだって!」「ふふ、それは自業自得ねー」「でもどうして追い払った奴の家を寝床に?」「え、復讐じゃないの?」
「それがなんかブランチ君が言ってたけど、自分たちを追い払えるくらいの強さを持つ存在の近くなら安心して眠れる、だって」「変な理屈ね…」「でも諺でこういうの無かった?くわばら大樹の陰って」「あったあった、なんとかかんとか巻かれろっていうのも」「さすが昔の人は凄いわね…」
「で、今はどうなってるの?」「栄司君深夜でも仕事してるから家の窓からの明かりが眩しくて…」「あー、それでカラスたちも諦めたのね」「そう言う事よ。でも、あの間カラスのウンチとか羽とかで相当大変だったって栄司君が愚痴ってたわね…」
「やっぱ動物相手だと人間は不利なのかもね…」「「「「そうよね…」」」」
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「…あ、お風呂入ったみたい」
「どうする、このままみんな入る?」「私は良いわよ、さっき向こうで入ってきたし」「「私たちね…一人に戻る?」」「それしかないわよ、うちの風呂は狭いし…」
「じゃあ私サッカー見てるからー」「了解。結果教えてねー」
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…こうして今日も夜は更けていく。家に帰るといつも待っているのは私と同じ人間たちだ。
結構こういう風景を嫌がる人も多いっていうのを私は何度も見た。自分が何人もいるなんて御免だ、なんて言う声も多い。でも、別にそれに対して私は嫌がっても無いし、そういう意見を潰すなんてことはしない。人は人、私は私。ここにいる同じ考えを持つ私がいる、全然孤独じゃない。
明日もきっと同じように日々が進むだろう。だけど、もしかしたら明日何かとんでもない事が起こるかもしれない。ま、そう言う時はそういう時、「私」だからきっと大丈夫、そう信じてる。