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74.MEGUMI and MEGUMI ~Dと逆襲とアプリケーション・1~

恵局長の家は、探偵局から少し離れた所にあるマンションの中にある。部屋の中は広く蛍やデュークが来ても苦に感じないほどである。しかし、元は一人暮らしを前提にした部屋であり、そんな中で二人が暮らすのは少々狭かった。


「「…はぁ」」


特に、今のように悩んでいる時だと。

月明かりに照らされ、二つの同じ影がリビングに映し出されている。背中あわせに座り込む女性は、肩を下ろしながらため息をシンクロさせた。


「…スカウトされたのね、私」

「言葉だけ見ると良く聞こえるけどね…」

「うん、言葉だけ」


そう、見方を変えれば丸斗探偵局を離れ、「局長」という職から退くという事。

クリス捜査官も、この依頼を彼女に伝えてきた時空警察「特別局」の事については何も分かっていなかった。いや、知らされていないと言った方が正しいとしっかりと彼女は告げた。時空警察の最後の切り札である事は彼女も理解し、世間でも噂にはなっていたが、その活動内容を見た人は誰ひとりとしていないのだ。調べようにも、まるで元から無かったかのように情報は掲載されていなかったという。それは、その存在を知って壊滅させようとした「過去」のデューク・マルトも同様であった。


「って、本人が言うなら信用するしか無いけどね…」

「胡散臭いけどクリス捜査官が嘘つくなんて思えないし」

「そうよね。ま、デュークは色々胡散臭い…とは思ったのよね」

「うん、デュークは誤魔化す時は本気で誤魔化すわよね」

正直、いくら時空改変能力を惑わす力が恵に宿っているとはいえ、彼の凄まじい力を目の当たりにしてきた以上、裏が無いとは絶対に考えられない。しかし、それは言いかえると彼が皆に告げる内容は裏が本当に無い、真実の情報。丸斗探偵局局長としては、優しすぎる罪人である彼を信用する義務があるのだ。


「でもさ、やっぱり…ね」

「うん、私が同じ立場でも行きたくないわよ…」

「「はぁ…」」


確かにこれは栄転に近い話だ。しかし、これはまるで「二人」を「一人」に戻す厄介払いではないか…。


===============


結局、結論はその夜のうちに定まる事は無かった。悩みに悩んだ二人の局長を待っていたのは寝坊とそれに伴う遅刻という、いつも通りの現実であった。ちなみに遅刻連続記録はずっと更新され続けているのは言うまでもない。

ただ、今回は蛍やデュークの叱咤が飛ぶ事は無かった。二人の局長が悩んでいる事は皆もよく分かっていたからである。

探偵局の全員に共通するのは、皆何かしらの形で故郷から離れた事。デュークは犯罪組織から、ブランチは猫屋敷、蛍は自らの豪邸を捨ててこの場所へ集まった。ただ、ブランチ以外は皆故郷へ帰る思いは無い。アナザー恵が持つような思い入れの心を消してやって来たがために、彼女にどんな言葉をかければよいか分からなかった。

ただ、こういう場合一番真剣に考えていないのは、当の騒動を引き起こしていた本人側なのがこの世の道理である。


「あの、局長…なんで僕を見て吹き出したんですか?」

「なんか真剣に悩んでるデューク見たらつい…ぷぷぷ」「そうそ…ぷっ」

「「あははははは!」」

「局長…僕、どういう顔したら…うぅ」

「局長、そんな事言うともう私たち真面目に考えないですからね!」

「「ごめんごめん、冗談だって!」」

「「「「冗談でも酷すぎます!謝ってください!」」」」


彼女に対して相変わらず押しが弱いデュークに代わって恵局長を叱るのはどうやら完全に蛍の役割になったようである。気の強さで押し通すお譲様が一度怒ると、のらりくらりと批判を避ける恵もさすがに及ばず、デュークに土手座をする羽目になった。


============

…そう、恵が見るデュークは「全知全能の助手兼使い走り」。しっかりとした常識や正義を身につけている、なんだかんだで頼もしい美形(と皆は言っているので恵も仕方なく認めている)。特に、彼への愛情がより強めになっているアナザー丸斗恵…異次元よりはせ参じたもう一人の恵に関してはそれが強かった。


だからこそ、彼女は信じられなかった。脳内には彼が悪魔級の犯罪を何度もしているという知識はある。しかし、どうしても彼と同じ姿の存在が各地で悪行を続けてる事を説明しても…


「やっぱり駄目ね…受け入れられない」

「…どうしても?」

「うん、貴方の記憶にはあるみたいだけど…」

「合体した時に頭の中を覗いたんですかニャ?」

「「試してみたら出来たのよね…」」


一体を撃退しても新たな個体が襲い掛かる。デュークの偽物は何人いるのかという問いや正体は何なのかという疑問に、未だに胡散臭い(局長曰く)オリジナルは何も答えていない。どうしても言えない事情があるのだろうが、問いただしても無駄なのは承知せざるを得なかった。何せ全知全能、都合が悪い事態は封じ込めてしまうだろう。前述したが、彼が語る言葉は、文字通り真実となってしまうのだ。


様々な思惑を抱え、探偵局の空気は次第に重く、静かになり始めた。


…と、その時。


「…あの、局長…さっきから呼び鈴が何度も…」

「分かってるわよ…」「絶対あいつしかいない…」


空気など全く読まず、マイペースに依頼を持ちこんでくる相手は絶対あいつしかいない。鳴りやまぬ呼び鈴に、堪忍袋の緒が切れる音が二倍になって窓の外に聞こえた。


「「うるさいわね!早く上がってきなさい!」」


お前らの方がうるさい、と典型的な返し文句が帰って来たのは、ミコと共に上がってきた栄司の口からだった。双方とも恵たち以上に不機嫌な顔を浮かべている。その理由が双方の間に起きた争いである事を、互いの間に流れるよどんだ空気を垣間見た蛍や、野生の勘で察知したブランチは気付いた。恐れ戦き気味の二人に代わって、二人の恵が対応する事になった。


「「え、冤罪?」」

「当たり前じゃ!いつもお世話になっとる家電の店に、あたしがクラッキングなんかすると思うかのお、あぁ?」

「うっせえ、俺のパソコンの腕舐めるなよ、ああん?」

「ふ、二人とも落ち着いて…」


名刺を見る限り、今回の栄司はインターネットの防衛機構に関わるエリートのようである。最近各地で急増してきたネット上の犯罪やハッキングに、仕事場の空気が少々悪くなって来た時に、突然この街の家電量販店のコンピュータが何者かに侵入されたという情報が入って来たのだ。

仕事上での重要なパートナーであるミコの腕を、有田栄司は評価していたのは間違いない。彼女の手法は跡を濁さず何事も綺麗にこなす手法だったからである。だが、今回は何かが違っていた。まるでミコの普段の私生活のように散々に荒らされた機密情報上には、彼女のアドレスを示す配列がしっかりと組み込まれていたのである。


「正直俺も信じたくは無い、だから探偵局に来たと言う訳だ」

「じゃったらなんで逮捕状とかそういう話になるんじゃ!?」

「お前に俺みたいな真似は100万年早いんだよ」

「なんじゃと!?」


「待って下さい!」


二人の喧嘩を止めたのは、まるで濁った空間を切り裂くようなデュークの一喝であった。今の二人は、互いに妄想のみで話を勧めようとしている、それでは真実など見える訳が無い。そもそも、この探偵局に来たのは、そのような状態を打破するために時空改変能力者の自分に依頼するではなかったのか。最後の方は次第に尻すぼみになり、謝罪の一言で〆た彼だが、この部屋の皆…特に、アナザー恵は驚いていた。確かに要所要所で知識を出してサポートし、悪い事は悪いと言える彼とはいえ、はっきりと自分の意見を貫くとは予想外だったようだ。

ともかく、この一言は文字通り探偵局内部の空気を「改変」した。依頼とそれに伴うたっぷりの報酬さえあれば、丸斗探偵局は依頼を断る事は無い。早速二人の局長の指令で、デュークは過去へ向けて飛び去った。


「相変わらずデュークを便利屋扱いだなお前ら…」

「なんか未来の警察に行っても、ロボットに任せて怠けてそうだのぉ」

「「うるさいわね…」」


何とか冷静さを取り戻した栄司とミコの方も、少しづつ仲が緩和されているようだった。

それから少したった時、二人の局長の間、背もたれで遊んでいたブランチの丁度目の前にデュークが戻ってきた。だが、その顔はまるで深刻な事態が起きたかのように目を見開いていた。そして、彼はミコにある名前を告げた。これを覚えているかと聞かれても、彼女は忘れる事は出来ない。


「あの…その、何でしょう、『OTENTO』プログラムって…」

「おい、それが何の関係があるんだ」

「ニャニャニャ?」


事態を知らない者たちの反応は三者三様の一方、知っている…というより関わった者たちは皆一様に驚いていた。何故なら、この『OTENTO』と呼ばれる恐るべきプログラムはこの丸斗探偵局が関わった一件によって存在がほぼ抹消されたはずのものなのだ。しかし、これと同じ配列を持つプログラムがミコのIDを名乗って機密情報の中に現れたというデュークの情報を基にすれば…


「「「復活した!?」」」

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