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63.丸斗蛍・片付け大作戦! / 登場人物解説・8

デュークやクリス捜査官が生まれたのは、蛍が生まれた遥か先の未来。当然常識も違えば文化も変わってきている。サンタさんも妖怪も、この未来世界では本当の意味で存在を否定されているという。ただ、そんな中でも昔ながらの風景はちゃんと存在していた。それも、負に近い風景が。


「…え、クリスさん…」

「何ですか?」

「本当にここに住んでいるんですか?」

「ええ、そうですが」


余りにも汚すぎる。蛍の率直な感想が、クリス捜査官の胸を貫いた。困惑顔だが、その中にはしっかりと反省の色が現れているようだ。

彼女二人の目の前にそびえ立つのは、様々な物体で形成されたゴミの山。その近くには、人がやっと通れそうな僅かなスペースが床と共に顔を覗かせていた。片付けが苦手なクリス捜査官が作り出した、昔ながらの負の芸術品である。後ろでアシスタントのロボットさんが呆れる通り、何度か修復するチャンスはあった。だが何回片付けても最終的には梱包剤や使い古した機械、そして食べ残しで山が形成されてしまうようだ。…ただクリス捜査官任せにするのは良いにしても、さすがに一年近く掃除してないのはいかがなものか、と心の中で探偵局の新人が突っ込んだのは言うまでもない。

ともかく、デュークが以前語った恵局長の家より酷いという事が分かった蛍は、彼ではなく自分が呼ばれた理由を何となく理解した。


「大丈夫ですよ、捜査官。私やデューク先輩は笑ったり怒ったりはしないですから」

「そう言ってくれると有り難いです」


そして、何故今になって呼ばれたかも分かった。害虫である知識は蛍にはしっかり植え付けられているが、だからと言って、目の前のゴミの山に開いた穴から恐る恐る顔を出しているご存じ「あの虫」を格段に怖がったりはしない。それは捜査官も同様だ。ただ、それと同時に彼らが出るという環境が何を意味しているのかは一目瞭然であった。単に汚いだけではなく、今いる未来世界のように電子機器が重要となっている場所では相当な危険要因となるからだ。

かくして、丸斗蛍初の単独依頼にして秘密任務が幕を開けた…。


====================


最初は楽に進んでいた。上に何気なく積んだものを片付けるだけで済むからだ。デュークから授かった分身能力の練習も兼ねて、数人に分裂した蛍がクリス捜査官に流れ作業でゴミを渡し、それをロボットに分別して廃棄してもらうという、21世紀流の掃除の仕方である。ちなみに、中から慌てて飛びだす虫さん一家に関しては騒いだり慌てたりせず、冷静に対処していた。


「「「「それにしても、結構量が…」」」」

「全クデスヨ捜査官…」


思考回路や流れる情報が同じ蛍たちの声は、日常風景のように自然にシンクロした。そして全員とも疑問は一つだった。未来世界はデューク先輩曰くペーパーレスが実現していたはずなのに、クリス捜査官の家には大量の紙類が散らばっていた。そして大半が彼女のメモ用紙に使われていたようで、英才なお嬢様(一応)である蛍は度々汚めな字を目撃していた。


「…で、これは…」

「蛍さんのアドバイス通りにしてみたのですが…」

「…多スギデハアリマセンカ?」


そして最後の疑問が、クリス捜査官の後ろに出来た新たな山であった。蛍とロボットの途中に立って、必要な書類を退けていくという発案をしたのは蛍だが、まさかこんなに堆くなるとは予想していなかった。紙の弱点は、このように嵩張ってしまうところである。


「クリス捜査官は、紙が大好きなんですか?」


疑問をようやく投げた蛍に、彼女はその通りだ、と答えた。

文化の違いがここにも現れていた。蛍の世界では何気なく使われ、消費される紙だが未来では一つのレトログッズになろうとしていた。在りし日の記憶媒体だと言う有識者もいると言う。ただ、中には紙の持つ真の利点に気づいている人もいた。


「蛍さんは聞いた事がありませんか?地球で一番保存に優れた記憶媒体は何か」

「え、えーと…いっぱい保存だから…大容量のコンピュータですか?」

「いいえ、残念ですがそれは全く逆です」


精密になればなるほど、外部からの刺激に対して弱くなる。大容量のコンピュータでも、基盤に一つ傷がついたらその時点でおしまいだ。だからこそ、クリス捜査官は紙を愛していた。古代の文明から人々の様子を伝え続ける最高の保存容量と耐久性を持つ記憶媒体を。

ここまで熱く言われたら納得せざるを得ない。何とかこれらを片付けなければ、と動き出した彼女たちの作業を中断させたのは、アシスタントのロボットさんだった。「彼」の記憶媒体に、それらを保存できないかと申し出たのである。確かに、保存と言う面では自分たちコンピュータは紙に劣るかもしれない。ただ、こちらにも負けていない部分がある、とこちらも熱く語った。


「私タチコンピュータノ得意技ハ、情報ノ整理整頓ナノデス」


先程までの捜査官の部屋のように大量の情報が無造作に置かれても、コンピュータはその情報をすぐに読みとり、解析して素早く整理整頓が出来る。先程までの自分の不甲斐なさを言われてしまったら、さしもの捜査官も否定はしにくい。苦笑いでロボットの指示に従う事にした。「彼」の眼に映った紙の情報は、字が汚くても紙にしわが寄っていても、正確にロボットの脳内に刻まれていった。保存に優れているとはいえ、しっかりと整理しておかないとただのゴミになってしまうのである。


こちらに刻んだ情報はいつでも取り出せるようになったと言う事で、クリス捜査官は一旦全ての紙を捨てる事に決めた。21世紀にはどうしても思い切りが足りず、ゴミが溜まる負のサイクルから逃れる事が出来ない人が多いようだが、未来に生きる彼女はどうやら大丈夫だったようだ。

…と、ここでもう一つ仕事が残っている事に気がついた。にこやかに話す三名の一方で、先程から死の恐怖に震えていたのは黒い虫さん一家。近づいてきたロボットに対してすぐに逃げ出そうとした…が、その脚は止まった。彼らの耳にしっかりと、安心して欲しいと言う声が響いたのだ。


「ああ、そういえばああいう資料も…」

「クリス捜査官、ロボットさんは何を…?」


…某虫さんたちと会話していると聞いて、目が点にならない21世紀の都会の人はいないだろう。ただ、あのすばしっこい黒色の塊が、落ち着いた様子で静かにたたずむ様子を見る限り、それは真実のようだ。少し経つと、静かに彼らは捜査官の家のドアから出て、近くの排水溝の入口へと去って行った…。


「話ハ完了シマシタ。排水溝デノンビリ過ゴス事ニ決メタソウデス」

「ありがとうございます。あそこの方が彼らの姿も見かけないですし、安心ですからね」


未来世界においても彼らは害虫であることには変わりない。双方とも接触しない道を取る事以外、命を奪うような事態を避ける事は出来なかっただろう。ただ、自分の部屋の汚さのせいで彼ら一家を右往左往させてしまい、ちょっと申し訳ない事をしたとクリス捜査官は心の中で思ったようだ。

それにしても、昆虫とも会話できるとは一体どのような未来の技術なのだろうか。改めて蛍はロボットと捜査官に尋ねた。ただ、その後に返って来た返答が、この未来世界に来た彼女を一番驚かせたのかもしれない。


「…き、狐…ですか!?」


確かにドンやエルのように化け狐が本当にいる事は蛍も承知済みだ。だが、まさか未来の科学が彼らの変化術の秘密をも暴いてしまっている事は予想できなかった。先程のようなあらゆる生物の声を聞き分ける「聞き耳」もその一つだと言う。狸なども得意とする「変化術」も既にその仕組みが判明してしまっていると言う噂があるようだ。

ただ、この件はあまり過去では語らないでほしい、と捜査官は頼んだ。この世界は妖怪にとって地獄のような場所、プライバシーすら奪われている時代だ。そこから持ちだされた炎で、過去の古き良き世界を燃やしつくすような光景は想像したくない。そう彼女は告げた。ただ…


「これはあくまで私の考えです。貴方は探偵局の一員、デュークさんたちや貴方自身の考えに従ってください」

「…はい!」


…そして、無事に一仕事終えた蛍はクリスの導きで過去へと戻ったのであった。



「…アノ、話ノ最後ニナッテイウノモアレデスガ…」

「どうしましたか、ロボットさん?」

「ソノ『ロボットさん』トイウ私ノ本名、イツニナッタラ変エルノデスカ…?」

「分かりやすいのがいいと言ったのは貴方では?」

「ソウデスガ…」

「では『ポチ』とか『タマ』とか…」

「…捜査官、ねーみんぐせんすモ鍛エテクダサイ…」


…いつの世も、助手の苦労は変わらないようだ。

≪登場人物解説≫


・クリス・ロスリン・トーリ / ♀


 遥か先の未来にある時空警察に務める女性捜査官。


 かつてデュークや恵に先祖が救われた過去を持ち、それが縁となり実刑を受けているデュークの監視や丸斗探偵局と未来を繋ぐ連絡役を務めている。いつも冷静であまり感情を表に出す事は無く、どんな任務も真面目にこなす捜査官には理想的な姿である。しかしその一方で真面目さが過ぎて天然ボケな一面もあり、整理整頓が苦手、書き文字が下手、ネーミングセンスが壊滅的など意外に弱点も多い。

 現在デュークが住んでいる「過去」の文化に興味を持っており、コンピュータやロボットに頼り過ぎない生活に憧れを抱いている。


 射撃の腕が抜群であり、不安定な足場でも狙った標的を逃す事は無い。基本的にお気に入りの銃は定めていないようで、どんな場合でも最大限の力を発揮する事を優先させている。



・ロボットさん / ?


 時空警察に務めるクリス捜査官の補佐を務めるロボット。「ロボットさん」は本名で、製造された直後の配属時にコンビを組む捜査官に決められてしまった。

 

 常に捜査官の補助を務め、最大限の力を引き出せるように努力しているしっかり者だが、真面目さゆえに天然な所も多いクリス捜査官には振り回されがちな様子。汚い部屋など彼女の私生活にも文句を言う事も多いが、あまり聞いてくれないようだ。


 ロボットだけあって情報管理が得意で、どんな情報でもすぐに引き出す事が出来る。

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