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62.有田栄司の休日

【6:00】起床。


 予定より一時間も遅く起きてしまった。本当はシャワーなどを浴びて目を覚ますついでに体を清めようと思っていたがそう言う暇は無かった。仕方が無いのでそのまま本日の朝食作りに行く。


 さすがに10人分を一つの体で作るのは面倒なので、4,5人に増殖して手分けして作る。どうせ食べる相手は俺なのでいつものようにウインナーとスクランブルエッグとサラダを用意する。味噌汁の具について少々悩むが、インスタントのものがまだ余っていたので豆腐の代わりに麩をたっぷり入れる事にする。数ヶ月くらい前に別の俺がマスコミなどを駆使して日本各地の麩を品薄にしたに演出も兼ねて買い占めていたものだが、俺はよく食うのですぐに無くなってしまうのが悩みどころだ。とはいえ、今度はトマトの場所を取らないといけないので大量に入れる。


【7:00】他の俺を起こす。


 残業で疲れて帰って来た俺が小ぢんまりと寝ているのに対して、今日も暇人な俺が増殖して布団や部屋を占拠しているという事実は正直納得いかない。イライラしてきたので大声で起こすが、ラーメン屋の俺が寝ぼけて舌打ちしたのでそいつだけは拳骨で叩き起こす。文句を言われるが知ったこっちゃない。舌打ちしたお前が悪い。


 取りあえずご飯が冷めるからと言うと皆納得して降りてきた。仕事が休みな俺の分担制で動いているので皆辛さを共有しているという証拠である。いい事だ。


【7:30頃】朝食。

 

 姉さんが生きていた頃からずっと使っている長机はさすが便利だ、俺が10人以上集まっても大丈夫である。


 朝食を食べている傍らで、テレビではトマトが品薄であると言う内容のワイドショーが流れている。実に滑稽かつばかばかしい光景だ。ただ、一部の俺には詳細な情報が行きわたっていなかったようなのでここで説明する。恵のように近くでベタベタする余裕が無いのでこういった伝達をする必要があるのは少々面倒だが。


 あの時刑事の俺に何故広告代理店の俺から相談が来たのか最初分からなかったが、どうやら法における犯罪にならない限界を知りたかったようだ。情報漏洩なわけが無い、単なる「有田栄司」の独り言だからな。その時に相談があったのがこのトマトだ。内部の汁の扱いが面倒だとか野菜だとか様々な要因で年々売り上げが落ちて、農家の人たちにもついに影響が及び始めているという事実と、最近巷で流行らせる良いネタが少ないという広告代理店の思惑が一致し、トマトブームを起こそうという話であった。この前のネットゲームのような事になってはならないので、農業関連に努めている俺と相談し、元々あった栄養分の効能を少々誇張して雑誌やテレビで取り上げてもらうようにした。その結果が今の状況なのだが、まさか一週間で品薄になるとは思わなかった。演出上の事も考えて、わざと品薄を見せるために事前に買い占めておいたのも効果があったようだ。どこかのCDとは違って、食べ物の場合は人数を増やせばすぐに消費されて俺たちの栄養になるというのはこちらにも利点は大きい。


 ちなみにデュークや丸斗探偵局の面々には事前にこの情報はリークさせている。というより、しないと不審に思ったデュークの時空改変でばらされてしまう危険性がある。例え仲間でも仕事上は油断大敵だ。真面目すぎる蛍がしばらく未来に行っていなかったのと恵やミコ、ブランチがノリが良かったのが幸いしたのかもしれない。…蛍の件は多分次の話辺りに説明あると思うが、クリス捜査官からの依頼らしい。何なのか聞こうとしたが止められたのでやめておく。


【9:00頃】暇。


 今日は俺は休日。他の俺が出勤していくのを見送った後はジャージで一日中ダラダラする。


 先程からパソコンを占拠している俺がいるので代わろうと画面を見ると、どうやらブログを更新しているようだ。時々事件の詳細を操作する時にもこの場所の名前が出てくる。アフェリエイトとも呼ばれる、金儲けも兼ねた有名ブログのようだ。あまり警察には見せたくないというあいつの気持ちも分かるが、こちらも悪事を見つけて実績を上げなければそれこそクビになるし給料上がらない。この喧嘩になると俺も引き下がれないし向こうの俺も引き下がれないのでお開きにする。


 後ろでドタバタしていた三人目の俺がようやく外出する。どうやら誰かと携帯が被ってしまって捜索していたようだ。たまに機種どころか飾りやアドレス帳の大半まで被る俺が出てきてしまうのは少々厄介かもしれない。


【11:00頃】暇。


 トマトがまだまだ余っているのでおやつ代わりに頬張る。こんなに美味しいのに人気が無かったのは不思議だ。というより、テレビが健康効果を取り上げてようやく動く世間の連中が一番不思議なのは言うまでもない。


 その旨に関して、やはりネットでは批判が多いと言う事がブログ運営をしている俺の口から出た。ただその内容を聞くたびに俺たちの顔ににやけは隠せないようだ。あの連中、口だけは大きいが批判しているのは裏で起きている問題を全く取り上げる様子が無いテレビ局や新聞社の事ばかりだ。それに何を間違えたか芸能人のせいにしている奴らまで現れている。広告代理店の問題を取り上げる奴は少々惜しいが勿論それも外れだ。まさか今回のトマト品薄の元凶がたった「一人」のごく普通の人間だとは誰も考えつくまい。…いや、この小説読んだ読者や丸斗探偵局のあいつらは例外だ。画面見てるお前ら、誰にも言うなよ。


 確かに全く俺たちにブーイングが飛ばないという滑稽な光景を眺めるのは楽しいが、矛先は違えど画面に批判ばかりと言うのもそろそろ見苦しく、馬鹿らしくなってきたので、この健康効果は嘘だったと流そうかとも考えたが、いちいちそれをすると俺が捜査っぽい事をするのが面倒だ。それに、今回取り上げたのは全て本当の情報なので非難する余地もない。それより、これがきっかけでトマトの売り上げがブーム関係無しに伸びてくれれば農家の人たちも嬉しがるだろう。こんなに美味しいのだからな。


【14:00頃】ミコが来訪する。


 昼飯を食べて眠い時にオファーを了承するんじゃなかったと若干後悔している。しつこく呼び鈴を鳴らされるとは思わなかったからだ。ただ今回例のトマトブームに協力してくれているのだからあまり大きく文句が言えないのが腹が立つ所だ。


 ただ、いざトマトを食べるとそういう気分はすっかり薄れてしまった。人工であれ自然であれ、光をさんさんと浴びて育った野菜はとても美味しい、姉さんが昔から言っていた通りだ。ミコの奴も美味そうに頬張っていた。そういえばあいつの視線から見ると、今の俺の家の状況と言うのは少々異様らしい。同じ顔が十個も並んでいるのはやはり世間一般では気持ちがられるし怖がられるというのは、どの世界でも変わらないようだ。だが最近はそういうアイドルも多くなっているようで、姉さんが生きていた頃とは少しづつ何かが変化しているような気がする、というのが今回の結論だ。


 ちなみに、ミコ本人がこのページを見ている前提で突っ込むが、お前あの時修理用に俺から借りたマイナスドライバーを早く返せ。


【17:00頃】デュークが来訪する。


 ミコと違ってデュークは丁寧だ。ちゃんと俺たちが夕飯を用意している事を前提に、しっかりそこに邪魔する事を謝った上で用件を伝えに来ている。さすが未来人は違うな。


 その中身はやはり恵だった。あいつもトマトが欲しくなって俺からおすそ分けして欲しいと助手を使い走りにさせたらしい。従うデュークも相変わらずだが、今回は彼から各地の情報を聞けて幸いした。やはりトマト品薄という情報を聞いて走るのは、最近の若い連中を非難してばかりの叔母様一同のようだ。たくさん買ってきて無理やりトマト嫌いな子供に食べさせているババアもいるようで、情けないという顔をしていた。そんな無理強いさせて普通は通用する訳ねえだろ。デュークも以前郷ノ川のおっさんから聞いたらしいが、そういう嫌いなものというのはある意味野生動物…ブランチのような感じの味覚が残っている証拠かもしれないと言う事だ。そのうちこの美味しさが分かる日が来る、だとさ。


 こうやって話すと、やはりあいつが大犯罪者だと信じられなくなる時がある。あんな物腰の低い執事にそんな裏があるなんて、第一印象で分かる一般市民なんていないだろうな。ただ、こいつの偽者がよく現れる状況を見る限り、俺たちはどうやっても信じざるを得ない状況がある。時空改変で思考も読み取られるので油断も出来ない…となるが、幸いなのはちゃんと礼儀をわきまえている所だろうな。


 図々しいミコや恵と違って、デュークはトマト10個を頂いて世間話をしたらすぐに帰った。これでこの家は再び俺の「一人暮らし」に戻ったと言う事だ。このまま飯を食って資料を整理した後、いつも通り風呂に入って寝ようと思う。明日は色々用件が詰まっているので早起きをしなければならないのが厄介だが、拳骨されるのもごめんだ。


 ちなみに最後に連絡しておくが、野菜はしっかり食えよ。いちいちブーム起こさないと誰も食わないなんて面倒な事を俺たちにさせるんじゃねえぞ。あとトマト貰いに来てももう無いぞ、次の日のサラダや野菜カレーで使い切ったからな。

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