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55.番外編:データ・オブ・クリス~Dの包囲~

「別の宇宙のかけら…ですか?」

『エエ、先程コチラニ連絡ガ届キマシテ…』


クリス捜査官は、自らのアシスタントを務めるロボット相手でも敬語を使う、礼儀正しい性格の持ち主である。自らの意志を持つ有能な部下から、過去に起きた不穏な情報を聞いた時もその態度は崩さない。

彼女がいる未来世界に備え付けられたレーダーが、過去で何らかの「時空改変」が起きた事を察知していた。川に投げた石の波動が広がるように、昔の変化は瞬時に未来にも響く。それらの異変から保護されるようにバリヤーが張ってあるため、この時空警察支局にはその影響は無いが、些細なことでもどんな事態になるか分からない。そして、この事実がクリス捜査官に伝えられたと言う事は…


『マタアノ時間ヘ動キダシタヨウデスネ』

「最近動きを見せないと思ったのですが…諦めたのかと思いましたよ」


それは無いでしょう、というのがロボットの意見であった。あの「デューク」の事、そう易々と引き下がるわけがない。というより、引き下がる理由が見つかるまで、ずっと何度も同じ事を続けるだろう。今回もきっと、デューク・マルトを引きずりこむことが第一目標だろう、というのは双方とも同意の意見であった。

彼女の知る「デュークさん」とは一見大違いに見える偽者。だが、その内面は全く同じものである事を、クリス捜査官は感じていた。だからこそ、今彼女がいる未来がある。


…ともかく、彼女は改めて過去へ直行する事にした。どんな理由があろうとも、偽者たちの悪事は止めなくてはならない。かつて自分が経験したような恐怖を味あわせないために…。


================



正義感に満ちた少女、クリス・ロスリン・トーリが時空警察の対特殊事態対策課に任命されたのは、今から…彼女の時間の「今」から7,8年ほど前の事だ。通常の時空警察が主に武力や権力、そして法律をもって犯罪者を罰し、定められた時間を辿るように調節しているのに対し、この対特殊事態対策課はある意味「超法的」な立場にある。どこか淡々とした彼女だが、その心理ははっきりとしていた。

「悪」というのは決して具現化しない、何かの心に宿る姿なき寄生虫。それを打ち砕かない事には、犯罪は決して消えない。

筆記試験や実技試験でトップ3の成績をとった彼女がこの部署に配備されたのは、この信念があったからかもしれない。自分の責任を他人に押し付けがちな腐敗が続く時空警察の調整役にはうってつけだったからだろう…。


ちなみに、以前に手柄を焦った時空警察の幹部が、デューク・マルトを捕獲しに過去へ飛んだ事は記憶に新しいだろう。この時も、影でこの「対特殊事態対策課」が動き出していた。ニセデュークによる暗殺を食い止める事はこの段階では不可能だったものの、彼の悪事をあぶり出した功績はある。


さて、そんな彼女がこの「第八の大罪」たる長髪の美形眼鏡の担当に回ったのは、デュークが自らこの世界にいることをこの部署に報告したのがきっかけであった。裁判所からの通達で「永遠の善行に励む」という罰を課された大犯罪者の監視…名目だけ見ると非常に物騒で危険な任務に聞こえるかもしれない。ともすれば、時空警察に重い負担を強いる事になるのではないか…という心配は、この事を知り、なおかつこの部署の真意を知らないもののみが抱く疑問であった。


一言で言うと、今のクリス捜査官が行っているのは「デュークを利用」しているというものである。かつての犯罪者時代とは正反対の、その服装共々まるで執事を思わせる風貌の彼は、もはや悪い事をするという形は見当たらなかった。むしろ、自分が犯した数々の罪を背負う囚人と言ってもいいかもしれない。捜査官としてはそう推測していた。

恵局長からあれほどパシリ扱いされても本気で怒らない様子を見る限り。そんな彼を有効な資源として利用しないという判断は、この時空警察には無かった。活用できるものは最大限活用する、無駄を省くのではなく無駄を作らない発想が、彼をこの時代の「防人」として生かすという結論に導いたのである。

現にこの時間に訪れた未来の犯罪者は、ことごとくデュークやその仲間たちによって捕らえられている。ある意味最強の防波堤として、彼らは時空警察の思惑通りに動いていた。とはいえ、いくら彼がまじめとはいえ、その能力には恐ろしいものがある。「再び」敵に回る可能性もゼロとはいえない事は、双方とも知っていた。その地雷原を除去するために選ばれたのが、彼女であった。


最終的な判断は上に委ねられてはいるが、クリス捜査官本人にも決定権の一部はあった。しかし、彼女はこの任務に遂行する意志があった。むしろ、望んでいた所もあるかもしれない。

自分の先祖の命を救ってくれた存在に会える事が理由であったが、もう一つ、どうしても触れてみたい謎があった。

今彼女がいる段階での時空警察にある、「立ち入り禁止」の時間である…。


===============


まだ新人の頃、彼女は一度その時間に立ち入ってしまった事がある。腕時計型タイムマシンの故障など、様々な要因が重なって起きたのも要因だが、今となってはこの時の好奇心があの恐怖の原因ではないかと彼女は推測している。


…そう、何故この時間が「立ち入り禁止」になっているのか、その理由を身を持って体験したからだ。


「へぇ、クリス・ロスリン・トーリか…」


「は、はははい…」


その顔はにこやかだった。目も笑っていた。だが、表情は死んでいた。

まだ彼女は知らなかったが、この時にクリス捜査官を呼びとめ、そして包囲した「デューク」は、本物ではない。何もかも瓜二つだが全くの別人、以前の狂気を残した「ニセデューク」である。


「確か捜査官やってるんだって?」「そうらしいね、この世界は立ち入り禁止のはずなんだけど」「どうして入ったのかな?」「教えてほしいんだけどなぁ」


「へ…へへ…へ…」


恐怖のあまり、言葉にならない。1人だけでも恐ろしいのに、それが5人。皆全く同じ燕尾服に身を包み、同じ眼鏡をかけ、そして同じトーンの声で彼女を包んでいた。


「言えないの?」「じゃあ仕方ないね…」


ルールを守らない者は消し去るのみだ。

5つの声が重なり、目の前の存在を抹消しようとした…


――それ、見事にブーメランっすよ。


…そららの存在は、一つの声と同時に固まった。丁度クリス捜査官の目の前にいたニセデュークの体がまるで感電したかのようにけいれんを起こした後、そのまま気絶してしまったのだ。そして、もう4人がその声の方向を睨みつけ、そちらに一瞬だけ全員の気が取られた時、クリス捜査官の体が宙を浮き…


そこから先の記憶は、少しの間途絶えている。この謎も、今の捜査官にとっては解いてみたい部分だ。だが、その後どうなるかははっきりと覚えている。何せ、やがて自分がそうなる事を知っているからだ。


クリス・ロスリン・トーリを助けたのは、クリス・ロスリン・トーリだからである…。


===================


無茶は良いが無謀はするな。それが、未来の自分からの叱咤であった。

あの時の罰則は、自らの受けた恐怖とその後の時空警察規則の手書きの書き写し400ページの刑で行われた。一番罪を分かっているのは彼女自身であるという、ある意味自己責任であるというのも大きかったようだ。


それ以後、彼女は「無茶」と「無謀」をしっかりとわきまえるようになり、凄腕と言う響きも聞こえ始めるようになるまでに至っている。


「えーと…」


そんな真面目な捜査官だが、弱点が一つあった。


『チャント整理整頓シナイカラ…』

「あーしまった…探してくれませんか?」

『了解イタシマシタ…』


暖簾屋ののれんは白いという意味のことわざを以前デュークから聞いたクリス捜査官は少々苦笑していた。脳内や仕事の整理は非常に得意なのだが、簡易オフィスも兼ねているはずの自宅には、服や書類が散らばっている。彼女のアシスタント及びこの家の家電の管理を担当しているロボットすら呆れてしまうほど整理整頓が苦手なのだ。情報の保存と言う面で見直され始めている紙だが、彼女にとっては大の天敵のようだ。数分間あちこちを探しまわった末、ようやく今回の参考書類を見つけた。


「何とかいい方法は有りますかね…」

『効率的ナ片付ケ方法ハアリマスガ、ソレ以前ニ貴方ガシッカリシナイト駄目デスヨ』

「分かっていますが…」


ふと、彼女は思い出した。時空警察の史実通りだと、確か丸斗探偵局に新しい仲間が加わっていたはず。「彼女」なら、何かいい解決法が見つかるかもしれない。仕事が無いと嘆いているはずの局長さんに、一つ貢献する事が見つかったようだ。

そして、テレポート用のマシンに乗り込んだクリス捜査官は、一路目的地へと向かった。物語が進む、丸斗探偵局へ…。


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