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48.ツインテールの逃亡者・8 / シークレットレスキュー・4

《ツインテールの逃亡者》


阿鼻叫喚の様相が、屋敷を包んだ。

草木にも炎が燃え盛り始めた中で、庭では蛍と同じ顔のメイドと、恵やブランチ、そしてデュークが必死に戦いを続けている。悪あがきにも似た必死さが伝わるも、探偵局側の怒りはそれ以上であった。


「栄司!デューク!」

「おう!」「はい!」


ミコからの連絡を受け、栄司とデュークは必死に炎の中に包まれているクローンたちを救出するべく燃え盛る寝室へと侵入した。


「デューク、地下室へ向かえ!」

「でも栄司さん、ここは僕に…」

「ここは警官の仕事だ!お前には、お前の仕事がある!」

「…分かりました!」


そう言うと、デュークは栄司に手を当て、彼が決して煙や炎の中で死ぬ事が無いように体を見えないバリヤーで包みこんだ。そのまま寝室へ突入した栄司の姿が何百、何千にも分かれ、燃え盛る炎から「お譲様」を助け出そうとしているのを見届け、地下室へとワープを行った。最後の真相を確認するためである。


やがて崩れ落ちる運命にある、無駄に広い地下室。様々な拷問用具や電子機器が並ぶ中、その中でただ一つ残されていた生体反応に、彼は静かに手を触れた。


なるほど。それがデュークの感想であった。目の前にいる生命体は、かつて大富豪「H」だったもの。クローン技術に足を踏み入れ、その誘惑や幻想に溺れ、次第に傲慢な態度になり、そしてクローンたちに逆襲される。最後のオチは違うとはいえ、やっている事は結局彼女から製造したクローン人間である蛍たちを飼い慣らしていた、メイドたち…反乱を起こしたクローンたちと同じ事。

歴史は繰り返した。一回目も、二回目も、待っていた先は破滅であった。


自業自得、命を粗末に扱い続けた存在は、デュークですら助ける気は起きなかった。憐みの眼を残し、崩れ始める地下室から消えて地上に戻ったデュークは空高く手をかざし、大気の構成を一時的に変化させる事で、この事態の終わりを告げた。大粒の雨が、命を奪わんと暴れた炎をかき消していく。そこにあった、大勢の命の灯と共に…。


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《シークレットレスキュー》


…間に合った!


『先輩』が閉めた扉をその拳で叩き割り、その女性は急いで駆け付けた。

最後に燃え盛る炎は、ここに集められていた。まるでデュークの怒りや憐みのように。だが、今の彼女はその行為を持ってしても止める事は出来なかった。

自らのオリジナルを助けると言う行為を…。


姿がぶれ、彼女―蛍―の体が数人に増えた。裸のまま横たわるオリジナルを背負い、蛍たちはそのまま地下室から脱出し、そのまま姿を晦ました。


…この一連の行動は、彼女と合流し、そのまま未来へと帰って行った、安心顔の二人の男性―ヴィオとスペード―と彼らに心配かけたと謝る彼女本人を除き、この「現代」にいる皆はまだ誰も知らない。無事察知されずに済んだのだ。この事実を知るのは、彼女たちが来た、「少し未来」になるまで待つ事になる。


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《ツインテールの逃亡者》


雨は止み、命は消えた。


恵は怒らなかった。泣き続ける蛍を、しっかりと抱きしめていた。

眠り姫は、二度と目覚める事は無い。栄司たちが救出した、ネグリジェ姿の全く同じ少女たちを診察した郷ノ川医師の結論であった。食事の中に含まれていた睡眠薬の濃度が、全ての命を植物状態へと追いやったと言う。

栄司は自分を責めようとした。何故あの時、デュークの力をもっとあてにしなかったのか。それに気付いていたなら、このような事にはならなかったというのに。

確かに悪党の始末は彼に全て託した。雨に打たれたメイドたちは今頃壊れかけた噴水の中で、微小な単細胞生物へとなり果てている頃だろう。永遠に増え続ける運命を、静かに味わっているかもしれない。というより、そういう神経すらなさそうだが。時空改変能力者なりの罰である。


「だがな…俺は…!」


もしあの時に彼の誘いを受け入れていれば、今目の前に広がる惨事にはならなかったであろうに。悔しさを顔ににじませる彼の肩に静かに手を置いたのは、他でもないデューク本人であった。


「多分、僕が貴方でも、同じ行動を取り、そして後悔したでしょう」


確かに自分の力は絶大だ。森羅万象を自在に操り、不可能をも可能にしてしまう。だが、ほんの僅かでもその力を誤ると、取り返しのつかない事態となる。今回のクローンたちのように。それに、そのような力に頼り過ぎる事は、自らの身を滅ぼすことにも繋がってしまう。


「この家にいた本当のHと同じ状況になり果ててしまうでしょう」


…しかし、その次に出た彼の言葉に、皆は驚いた。


「ですが、僕もこのような結末は望んでいません」


昔どこかのロボットアニメでこんな言葉があった。力はその使い方を知っている者にのみ、その価値を与える。言い方は悪いが、様々な「悪事」に手を染めてきた彼だからこそ、その使用方法は誰よりも熟知していた。

何をする気なのか、クエスチョンマークが頭に浮かびそうな恵の傍に、デュークは来た。そして、彼女と同様、状況が理解できていない一人のツインテールの少女に、彼は優しく声をかけた。


「君の仲間を、君の力で救いたい。協力してくれないかな?」


…本当に救えるのか。そう言った彼女に、デューク・マルトは優しく頷いた。


そこからの光景は、恵たちですら見た事が無い光景であった。

眠り続ける少女たちの方向にデュークが手をかざすと、その体が次第に光に包まれ、やがてその姿を小さな光の粒へと変えた。その粒は今度は寄り集まり、一つの手のひら大の光の球へと変わった。デュークの掌に乗ったその玉は、やがて蛍の胸の中から彼女の体へと入り始めたのだ。全てが収まった後の彼女の様子から見ると命などに別条は無かったようだが、それでも驚きは隠せない。一体何をしたのか、問いただす恵やミコに、万能の男は静かに応えた。


「少女たちの命を、蛍に託しました」


物事を都合よく行わせる存在「デウスエクスマキナ」。それが、彼―デューク・マルト―である。

なお、決して臼やエックスでもマキノ駅ではない。


「それに、田楽いもやサックスや巻物なわけはもっとありませんよ局長…」

「何で田楽いもなんだよ」「ノリよ」「ノリか」


===================

…少々話は脱線してしまったが、現代。


―丸斗探偵局が、また少し賑やかになった。


「「す、凄い…!」」


拍手をする恵やデューク、ブランチの視線の先には、一つの体から二つの体に、たった今自らの意志で分かれた一人の少女がいた。

あの時、デュークが行った「時空改変」は、一つの力を彼女に授ける事でもあった。ある「物質」を利用されて半強制的に分裂増殖を強いられてきた彼女。それは無意識のうちに彼女を閉じ込める鎖ともなっていた。だが、もしその鎖を奪い返し、自らの武器にしたらどうなるであろうか。悪い事、怖い事だから欠点というのではなく、逆にそれを自らの利点、長所として活かす事が出来たら…。

能力的には恵局長と被ってしまうのだが、芸術や知識などの面では「お譲様」であった彼女の方が上。まだ使いこなすまでには時間がかかりそうだが、もしこれを自在に使いこなせるようになれば、無敵に等しい存在となる事が出来るかもしれない。それに、これを用いればいつでも大事な「仲間」、もう一人の自分たちと会える事が出来る。


「記憶は屋敷の中でずっと並列化…全く同じになるようにされてきたらしいので、実質いつでも自分と会える状態になっているでしょう」

「相変わらずチートなこった…。でも、ナイスプレイよ、デューク」

「さっすがですニャ!よく分からニャいですが」


…そんなブランチのために分かりやすく言うと、要するに蛍は「分身の術」が使える探偵になったのである。

ちなみに、今回もデュークには特別ボーナスが支給されるようだ。


「…ふう、元に戻れた…。

 恵局長、デューク先輩、ブランチ先輩、こんな感じで…」

「ニャハハハ!さすが俺の後輩、ニャかニャか上出来だニャ!…ってイテッ…」

「あんまり調子に乗らない事、先輩。」

「局長も、注意して下さいよ」


心からのにこやかな笑いが、探偵局を包みこんだ。


「さ、改めて仕事を始めますか!午後からも、皆宜しく!」

「了解です」「ニャ!」

「勿論、ケイちゃん…じゃない、蛍ちゃんもね」

「は、はい!よろしくお願いします!」


蛍改め、丸斗恵の義理の妹、丸斗蛍(まると・ほたる)。甘い水を探す虫のように静かだが力強く灯を守り続ける、頼もしき新人。

新たなる仲間を迎え、総勢四名となった丸斗探偵局の勤務が始まった。

…結局今日も依頼は来なかったのだが。


「どうせ暇だから田楽いも買わない?」「な、何でしょうかそれ…」

「局長、ネタを引っ張らないでください…」


少し未来。


過去の自分への接触と言う時空干渉に関して、「先輩」たちから彼女に怒りの声が響く事は無かった。あくまであの程度の助言なら、そこまで歴史が代わる事はない。もし戻らなくても、ミコから直接あの部屋の情報は栄司らに知らされていたであろう、と。


「だけど、蛍が重要になるのはここからよね」

「ええ、その通りです」


そう言いながら、「先輩」たちは先程までの優しい顔から真剣な顔に変わった。

自分たちは一度、あの女性の命を見捨てようとした。それが賢明な判断である、と自らの中で確証したからだ。だからこそ、ここからは全て彼女の判断に任せる事にした。先輩たちがそのような事をしたからこそ、自分は過去へ向かい、それとは逆の行為をしあのだ。

反対の立場である自分がこれ以上干渉すれば、決してまともな判断が出来そうにない。それが二人の「先輩」の決断であった。それが正しいかはまだ分からないが。


「…でも二人の判断、正しいと思います。先輩たちの言うとおり、これは私の自己責任ですから…」


ただし、本当に困った時はいつでも助けになる。責任と言う者に押しつぶれるな。

そのアドバイスを付けたしながら、二人の「先輩」は優しい顔に戻った。彼女の覚悟を図っていた事を、ようやく蛍は悟った。


それにしても、「オリジナル」の体力や精神が回復した後、話す事はものすごくたくさんありそうだ、と蛍は先輩たちと苦笑した。

自分たちの身の内。あの研究の真実。世界の動向。

そして、ツインテールだった頃の自分が先輩たちと共に過ごし、そしてロングヘアーの自分が今その看板を背負っている、丸斗探偵局の雄姿を…。



―――分身探偵・丸斗蛍

――《シークレットレスキュー》

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