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47.ツインテールの逃亡者・7 / シークレットレスキュー・3

《ツインテールの逃亡者》


クローン人間を製造し、それを人身売買用に利用していた悪徳大富豪L。しかし、ずっと表立った活動をしていない「彼女」の正体を、恵やデュークは見抜いていた。


「その顔を見ると…他の貴方から連絡なかったのね…」

「後でとっちめるぜ…しかし、どういう事だ?」


しかし、彼らと同盟を結んでいる栄司サイドの方は、肝心の現場に関わる「警官」の有田栄司へその事が上手く伝達されていなかったようである。今彼らの目の前で対峙している、無数のツインテールのメイドたち…あのクローン人間と同じ顔をしている連中こそ、Lであるという事が。


「なかなかいさぎいいわね、反撃してこない所を見ると」


挑発気味に語る恵に対して、Hたちも返す。


「どうして、そう考えたの?」「説明してもらおうかしら」


…さすがに予知能力があるミコのカンである、とは言い返せない。

珍しく探偵らしい事をしてきた恵は、彼女や仲間たちで得た証拠を口に出した。


この考えに至った原因は、今回協力してくれた栄司から持ちこまれた情報。

セレブ界や各地の富豪との晩さん会などに出席しているとマスコミなどでよく聞くHだが、明らかにその時間がおかしい。普通の人間が、わずか一時間で欧州と中東、二つの会場を行き来できるはずがない。嘘ではないか、ねつ造だとも疑い、戦闘機を使うという可能性も考えたが、そのようなものは隣の助手の力を使っても確認する事が出来なかったという。…最後の一文は内緒だが。


「そんな情報、いつの間にお前の所に…」

…なお、情報提供者である有田栄司は今彼女の隣にいる「有田栄司」とは別の「有田栄司」である。ややこしい。


そして、郷ノ川医師の情報がそれにより重みを加えてくれた。

Lはバイオテクノロジー分野でも様々に出資をしていた。どのようなジャンルかは明確にされていなかったのだが、そこからクローン技術が内部に有るのは可能性として十分に考えられる。

こちらもデュークに確認を取ってもらったのは内緒だが。


そして、決定的な証拠を、彼女は既に握っていた。


「貴方達が培養してきた『家畜』がね、勇気を振り絞って伝えてくれたのよ」


その言葉に、余裕を保っていたように見えたHの顔が変わった。

悪事と言う物は、その被害をこうむっている者の訴えで全てが変わる事が多い。例えその声が無駄に終わっていったとしても、絶対それを聞き、真摯になって考える者がいる。ただ、それが自分のためであったりする場合も多いが。「家畜」は幸運な例だったのかもしれない。


「随分甘い飴と痛いムチだったようじゃない?」


勿論、その飴は自分たちのもの、そのムチも自分たちの優越のため。

そして、恵たちに目線で振られ、栄司は勇ましく告げた。今すぐクローンの少女たちを解放しろ、と。だが、目の前のHたちも負けてはいなかった。


「解放したからって、どうなるの?」「路頭に迷って」「捨てられるだけよ」

「普通の人間ならそうなるだろうな。

 だが、あいにく…」


自分たちも普通では無い。そう言いながら、栄司とデュークの影が一つから複数に分かれた。それと同時に、後ろで構えていた一匹の黒猫も、一匹の巨大なトラへと変貌する。その咆哮におののく様子を見る限り、戦況は完全にこちらへと傾いた、誰もがそう思った時であった。

突然、屋敷の一角で大きな爆発音がした。横を見た恵や栄司、そしてデュークらの目の前で、巨大な屋敷が炎の中に消え始めたではないか。


全ては終わった。自分たちに勝ち目はない。ならば、残された道は…。


======================


その様子は、車の中の画面にも映し出されていた。


「な…!」

「じ、自爆しやがった…!」


驚きの声を上げる郷ノ川医師とミコ。最低の悪あがきを見せられてしまった彼らも、目の前の様子が一瞬信じられなかった。

その一瞬、画面に気を取られていたその時間に、車のドアを開く音が聞こえた。ふとその方向を見たミコは、大変な事に気がついた。


「ほ、蛍ちゃん!?」

「何!?」


まさか、と思うミコの予言はかなりの確率で的中する。あの燃え盛る炎の中に、彼女のクローン…「お譲様」が大量にいる寝室があるという、今回の予感も!


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《シークレットレスキュー》


「おい、連絡は!」

「連絡は届いてる、だけど返ってこない…!」


炎が燃え盛ると同時に、建物が崩壊を始めた。あの時彼女たちが経験した通りに、この小説の内容は進んでいる。時空干渉が起きていない証拠でもあるが、とても二人には楽観的に捉える事が出来なかった。普段は非常に楽観的、余裕な態度な彼らでさえも…。


赤縁の眼鏡の男が、厳しい表情で相棒を見つめた。左の頬に傷を残すもう一方も、同じような顔だ。いつも無茶をするあの女性を、彼らなりに心配しての事であった。いつも怒られてばかりだとしても、彼女は特別な存在だからである…。


「スペード、僕たちでも助けに行くか?」

「やめとけヴィオ、そんな事やったら余計に混乱する…」


そうだな、と言い返す他、「ヴィオ」には出来なかった。「スペード」の考える事は、自分にも当てはまるからだ。


既に彼らの座っていた屋根も炎に包まれ始めていた。しかし、二人の男には火の粉一つかからなかった。「丸斗蛍」とは違い、彼らは何があっても「大丈夫」なのだ。だからこそ、彼らは落ち着かなかった。彼女も「大丈夫」である事を知っていたとしても…。


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そして、当の彼女は、炎の中を必死に駆けていた。

自らの持つ「力」を応用し、燃え盛る地面や倒れる柱に触れることなく、高速によって産み出される残像を残しながら、彼女はまるでホタルが放つ眩い「光」の筋のように、目的地まで急いでいた。事前の調査は既にしてある。進み方も何度も『先輩』に頼んで練習してもらった。


だが、やはり実戦というのは訳が違う。彼女―丸斗蛍―は、少々戸惑ってしまった。今いる場所が本当に合っているのだろうか、自分は大丈夫なのだろうか、と。

そして、彼女は一端外の庭に出た。外では燃え盛る炎に包まれながら、ブランチや栄司とメイドたちの激闘が続いている。この位置なら、過去への干渉なしにもう一度建物へ入り、目的地まで行けるはずだ。そう思った時であった。


その炎の中に入ろうとした、一人の少女が目に留まったのを。

考える事、行動する内容は、たった一つであった。心の中で、仲間たちや先輩たちに詫びを入れるのを忘れずに…。


そして彼女―丸斗蛍―は、全てを知った。あの時の言葉が、誰のものであったかを。


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《ツインテールの逃亡者》


「だ、大丈夫…!?」


炎の渦に巻き込まれそうになった蛍を助けたのは、見慣れぬ女性の人影であった。

暗闇の中の逆光で姿形を見る事は出来なかったが、その声はどことなく自分に似ている、そんな気がした。だが、それだけしか意識が向かなかったのも事実だ。

そんな唖然とした彼女に、その女性は言った。


最後まで仲間を信じてほしい。

彼らなら、絶対助けてくれる。



…ミコや郷ノ川医師が駆けつけた時には、もう既にその女性は蛍の前から姿を消していた。

だが、その言葉だけはしっかりと心に刻み込まれていた。自分の力ではどうにもならない、そういう時こそ仲間の力が大切になる。


「…ミコさん!」


そして伝えた。蛍の指さす建物に、彼女と同じ遺伝子の持ち主が眠っている事を。

ミコの予言は、今回も的中した。

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