46.ツインテールの逃亡者・6 / シークレットレスキュー・2
《ツインテールの逃亡者》
「本当に大丈夫なのか、おい?」
「大丈夫よ、彼女が言ってるんだから…」
あくる日の夜。ブランチを含めた六名が乗り込んでいるのは、警察が使用するバンであった。デュークが各地から拾い集め、恵らが整理した資料を基に、警察などの上層階級にいる栄司たちが連携してHの屋敷を強制捜査する事に決めたのである。それ以外にも、家に帰る前に恵が一瞬目撃したOL姿の女性もこの動きを後押しする結果になった。今、一緒に乗り込んでいる少女『蛍』と同じ姿の女性を。
「私も…皆を助けたいんです…何も知らずにいるみんなを…」
「それに、あのまま家にいたとしても、絶対ばれる可能性がある。デュークが嘘情報流したからって、それがいつまで持つかも不安だし…」
「局長や栄司さんのような能力を持つ可能性もありますからね」
「…だが、絶対無茶はするなよ」
言葉は厳しいが、蛍の頭をなでる刑事の栄司の手は暖かかった。
「このロリコン、ケイちゃんに手を出すなんて」
「誰がロリコンだおい…って『ケイちゃん』?」
本名が違う可能性もあるのに、早速あだ名まで決めてしまっていたようだ。『蛍』の漢字は、蛍光灯の『ケイ』。ちゃん付けをする中で、こちらの言い方が馴染んでしまったようだ…。ため息をつきつつ、デュークは一瞬だけ、自分が恵の「保護者」のような感情を彼女に抱いた。
そんな中で、車はHの豪邸へと到着した。刑事の合図と共に、数名の護衛をつけて栄司が車を降り、巨大な門へと歩いた。その様子を、ボロロッカ号から持ってきた高性能小型モニターでミコが監視する。
「この画像は…」
「監視カメラの画像を、ちょいハックしたんじゃ」
作戦は始まっていた。やはり突然の訪問と言う事で、門の傍で「メイド」と刑事が揉めている。その後ろにいる警官たちは、わざと帽子を深々と下げて顔を影で隠し、見えないようにしていた。当然だろう、今回の作戦上、全員同じ顔であることはばれない方が良いのだ。そして、これから始まるであろう作戦を見せないように、ケイにはなるべく隠れる角度で彼らは画像を見ていた。
そして、口論が、3分00秒00 続いた時。
豪邸の屋敷に、警戒音が鳴り響いた。真の作戦決行の合図だ。
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《シークレットレスキュー》
…ここか。
あの時、過去の自分はずっと車の中に留まっていた。何が起きているのかは全て、『先輩』からの伝達でしか知る事が出来なかった。いざこうして見ると、あのような結果になったのは見え見えだ。ちょうど位相を変え、透明になりながら、未来からの来訪者は眺めていた。少々不機嫌な顔になりながら。
やはり、メイド服を見ると拒否反応が起こってしまう。自分を利用し続けた、別の「自分」たち。既にその化けの皮は剥がれているが…。やはり目に悪いと判断し、ピンク色の髪をなびかせながら、来訪者―丸斗蛍―は建物の中へと入って行った。
そして、彼女のいた場所に、一瞬だけ二人の男性の姿が見えた。髪型や表情は違うが、その顔つきや服は、『オリジナル』と全く同じである…。
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《ツインテールの逃亡者》
一方。
「動かない方がいいわよ」
広い庭で、二人の女性と一人の男性、そして一匹の猫が対峙していた。但し、「女性」の方は遺伝子上の数だが。
勝負は、予想とは違った様相を見せていた。栄司らが門で相手をしている隙に、恵とデューク、そしてブランチが屋敷の中にわざと分かりやすいように侵入、警報を鳴らせて内部の護衛にあたっていた「メイド」たちをおびき寄せた。最初の予想ではここで戦闘に入るのではないか、と思われていたが、相手の側も恵らの実力をある程度は察知していたようだ。
「あなたも同じね、私たちと」
同じ顔が無数に存在し、対峙する。そんな情景が、庭の中で静かに続いていた。ただ、どちらにしろ相手は動きを見せないのでこちらの思うように事が進みやすいのには変わらない。次の段取り通り、恵と同等の力を持つ存在、警官の有田栄司が逮捕状を持って現れた。
…だが、少々誤算が起きた。
「さあ言え、Hはどこだ!」
…有田栄司という存在は恵とは違い、常に分身状態を保っているために毎日複数人が同時に存在している。しかしそれ故に情報伝達が上手くいかない事も多々あった。今回もそのようで、刑事の栄司には事前に伝えていたものの、こちらには届いてなかったようである。
「…どういう事だ、恵、デューク…」
「教えてあげましょう」
そして、デュークは「メイド」たちの目の前で、事の真実を言った。驚きの栄司の一方、当の彼女たちは否定はしなかった。全て事実だったからである。
「『H』はここにいます。
目の前にいる、彼女たちです」
そう言いながら、デュークは睨みつけた。今回の事件の犯人たちを…。