42.ツインテールの逃亡者・2 / シークレットレスキュー・1
《シークレットレスキュー》
少しだけ未来。
一人の女性が、過去へ旅立とうとしていた。桃色の長髪をたなびかせる彼女は、既に準備を整えていた。
本当に行くのか、隣にいる二人の男性が年を押した。その隣で、心配そうに一人の少女が見守る。
「俺がついていかなくて…大丈夫なんですか?」
まるで男性を思わせる口調で話す茶髪の少女に、ピンク色の髪の女性は心配いらないと答えた。
彼女は決意していた。確かにあの「自分」が全ての元凶であり、憎むべき存在かもしれない。だが、それでも彼女は知りたかった。自らを生み出した存在が、どのような人物であったのかを。そして救いたかった。あの時、天からも身放されかけた命を。罰は十分に当たったはずだ、その信念が、過去への旅を決意させた。
「確かに『オリジナル』からは大丈夫だってお墨付きは来たけど…」
「念のため、あんまり過去をいじらないようにお願いっすよ」
ピンポイントで時空移動をさせる事で、彼女の近くに立つ二人の男性はタイムパラドックス…過去改変を最小限に抑えるつもりだ。
普段は真面目だが、思い立ったが猪突猛進。彼女の「オリジナル」が、彼女ほどの年齢で財閥の事業の多くを納めていた理由が、分かった気がした。
「それじゃ、『コウちゃん』に『ちー君』、ちょっと行ってくるね!」
「行ってらっしゃい、局長」「頑張ってくださいですワン!」
名前を呼ばれ、一人の少女と一つの「犬の玩具』」は、優しい声で彼女を後押しした。
そして、二人の男性を従えて、桃色の髪の女性―丸斗蛍―は旅立った。
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《ツインテールの逃亡者》
現代…
相変わらず暇な丸斗探偵局。ここ最近の依頼連続と言う状態は結構珍しい状態であった。しかしいくら暇でも物がなくては戦が出来ぬ。そこで、以前のアルバイトで稼いだ金を元手に、今日は町でたっぷり買い物をする事にした。分身して町に繰り出し、我らが増殖探偵丸斗恵は、荷物運び兼助手を引き連れて商店街でいっぱい買い物を楽しんだ。例によって、数名ほど青髪の同じ顔の男と遭遇したのは言うまでもないが。
その帰り道。
「局長…三人一緒に歩くのはよした方が…」
助手のデュークが心配するのは無理もない。一寸違わない三人の美女(自称)と、それを引き連れた長髪の美男子(無自覚)が一緒に歩けばそれは周りの注目の的である。確かに増殖能力は人々の眼を欺くと言うが、こんなにたくさん集まってしまうとその効果は無きに等しい。
「「「気にしない気にしない!」」」
しかし、当の局長の方は、手に品物を抱えてお気楽である。…勿論、それは買ったもののほんの一部で、大半は荷物運びこと助手が持っているのだが。
…と、その時。
「え、きゃぁっ!」
角から何かが飛び出し、局長にぶつかってしまった!ごめんなさい、と謝罪したのは一人のツインテールの少女であった。桃色の髪が、恵の眼に強い印象を与えていた。
しかし、彼女はそのまま急ぎ足で走り去ってしまった。
「なんなのよ、手伝いもしないで…」「「ねー」」
「まぁまぁ。あ、ありがとうございます」
周りの人に手伝ってもらいつつ、不満たっぷりの局長を抑えるデューク。それから少し歩き、人通りの少ない道に入った時、彼女らを呼びとめる声があった。振り向くと、そこにはふわりとした髪型をした一人の女性がいた。ラフな格好が目立つ休日にそぐわないOLスーツ姿だ。人を捜しているという彼女。見せた写真は、先程ぶつかった少女に良く似たものであった。
場所を教えようとした恵たちだが、その女の瞳に、何かを感じ取った。
「ごめんなさい…」「私は見てないですね…」「私もです」
これも探偵のカンと言うものだろうか。同様に答えたデュークも、時空改変を行う事なく同じ事を察知していたようだ。二人の答えを受け、女性は礼を言って立ち去った。
探偵局に戻って来た頃には既に時刻はもう夕暮れ。ブランチは夜の散歩に出かけ、栄司らが来る予定もない。そんな中で、さっそく買ってきた服を試着する恵。何人も局長が並ぶ姿はまるでファッションショーだ。仕事と何ら関係もないその姿に呆れつつも、目をそらす事の出来ないデュークであった。
と、突然ドアのチャイムがなった。慌てて片づけ、一人に戻る恵。何度もなるチャイムの音を聞くと、どうやら向こうも慌てているようだ。錠を外した、まさにその瞬間であった。
「た…助けて下さい!!」
…必死の様相で飛び込んできたのは、先程の少女であった。
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デューク特製の緑茶を飲む少女。時空改変で一流の茶師になったデュークが、先程時を止めた部屋の中でこしらえた逸品だ。
「さて、だいぶ落ち着いたかな?」
突然潜り込んで申し訳ない、と語る少女。まだ周りに怯えているようだが、そこは探偵局。助手の笑顔で、少しだけだが緊張が癒えたようである。
服装は同年代の…ちょうど高校生くらいのものにしては失礼だが、見た目からして古く、ボロボロである。かなり遠いところから逃げて来たのではないか、と恵は推測した。名前を聞こうとするも、彼女は口を詰むんで言わない。デュークが彼女の額に触れ、記憶を探ろうとしたが局長に制止された。当然だ、相手が嫌がっているものを無理やりする事など探偵失格である。
依頼人をもし今帰したら、大変な目に遭うのは間違いない。ということで今夜は恵と一緒に過ごす事になった。
「で、でも私…」
「いいのよ、困った時はお互いさま、この国の文化よ」
それに、頼もしい助手や部下もいる。自分たちに助けられた事を誇りに思ってほしい、と局長は力強く言った。
そしてその夜。
「お風呂入ったわよー!」
恵の家に、その少女は泊めてもらう事になった。このまま探偵局にいても寒いだけと言う事もあるからだ。しかし、女性同士の風呂も格別だという彼女の言葉を、その少女は断った。一人で入りたい、と告げたのだ。
「ちえっ…まぁいいか、お客様ファーストでお先にどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
そのまま先に入る少女を、恵はのんびり待つ事にした。普通こういう状態になった時、恵局長はその能力で分身し、数人の自分同士で会話をしながら暇をつぶす。独り言を言っているのとあまり変わらないのだが、それでもあまり寂しくは無い。ただ、今回の場合は例の少女を驚かせてはならないという事を考え、分身を避けて一人でテーブルにもたれかかって待つ事にした。デュークが見た時は非常に汚かったと言う彼女の部屋だが、あの時一瞬で綺麗になって以降は、自らが大量に分身する事も考え、部屋はしっかり整理されている。床面積をなるべく取るため、壁かけを有効活用している形だ。
(…うーん…単に一人で入りたいから避けた訳…じゃないよね?
…うん、きっとそうだ!決して私に呆れたからじゃない、うん!)
…まさしく探偵のカンが働いていた。
衣服を脱いた少女の背中には、いくつもの傷が塗りこまれていたのだ。悪夢からの逃亡の中で、体に刻み込まれた傷だ…。
※今回のシリーズに関しては、わざと読みにくいような進行にしております…。一応この後の展開の伏線的なものも含んでおりますので、ご了承ください…。