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30.食い逃げ犯を探せ / 登場人物解説・5

デュークが探偵局にやって来た時、珍しく恵局長が先に来ていた。ただし、5人。しかもそれぞれが顔を向けず、ずっと無口のまま居座っている。これは言わずもがな、喧嘩であろう。直感せずとも、時空改変を使う必要もなくデュークには分かる。

理由を聞こうとしたものの、それについても聞かなくても予想が付く証拠が机の上にあった。


「なるほど…差し入れのお菓子ですか」


以前、事例を解決した際に依頼人から頂いたハワイ産のお菓子。デュークもその美味さは聞いた事があるが、どうも今回も味わえそうにないようだ。何故なら、そこに置いてあったのは既に中身が無い空箱だったからだ。


「局長、喧嘩ばかりしてないで何とか…」


しかし、その一言を言い終わる前に5人の局長が見事にシンクロした。


「「「「「絶対こいつが食べたのよ!」」」」」


―――――――――――


口喧嘩を始めてしまった局長5人を何とか抑え、デュークと恵たちは机の周りに集まった。今回の事例は、誰がこのお菓子を食べたのかという事。

取りあえず、今日の朝から今までずっと恵は分身を解除していない。どうやら連続してこの探偵局に来ていたらしい。


「失礼ですが、局長が僕より早く来るなんて珍しいですね」

「結構失礼じゃない、それ」「まぁ、珍しく早起きしちゃって…」

「でも眠くなって二度寝するのを防ぐために、分身を送り込んだと」


まずそれに反応したのは、一人の恵局長だった。仮に彼女を丸斗恵Aとしておこう。他の恵たち(B~Eと仮称する)との証言と、デュークによる診断を照らし合わせた所、Aにのみ4人の自分を送り込んだと言う明確な記憶がある事が判明した。彼女に関しては、盗み食いの犯人ではない事はこれではっきりした。ただ、分身たちに任せておいて、一番最後に来た…つまり遅刻する気満々だった事は見過ごせなかったが。


問題は残りの4人、恵B~Eだ。


「困りましたね…記憶が並列化…同じ過ぎて区別が…」


タイムスリップして観測しようにも、どれも同じ局長なので分からないらしい。


「全員が食べてその後分身したと言う事は…」「「「「私ならそんなことしないことくらい分かるでしょ」」」」「まぁ、それもそうね…」


こうなると、彼女たちの言葉が頼りだ。同じ丸斗恵として、「私」が嘘をつくはずがないと言う恵Aの証言を信用し、改めてデュークは事情聴取を行う事にした。


恵Bがやって来た時間は、Eが来る10分前。

恵Cがやって来た時、恵BはCより5分前に来たと言っていた。

恵Dは、恵Eが来た時既に来ていた。

恵Eは、恵Cを送ったオリジナルの記憶を保持していた。つまりCより後に来たと言う事になる。


さっそく頭を抱える恵A。しかし、既にデュークは4人の恵たちがどのような順番で来ていたのかもう分かっているようだ。


「これは一種の思考問題ですね」

「うぅ…読者の人、答え教えて…」

「何を酷い事言ってるんですか、A局長…」


…探偵としても赤の他人に頼る事はプライド的にもあれだと思った恵たちは、図面を書いてもう一度整理し直した。そして、ついに一番最初に来た彼女が誰か明らかになった。


「誰なのかに関しては、読者の皆様に考えて頂きたい(キリッ」

「局長も調子いいですね…」


早速糾弾しようとする「恵」たち…だが。


「ちょ、ちょっと待ってよ!私が来た時にはもう無かったんだって!」

「「「「「…え?」」」」」


デュークに頼んでその時間帯をもう一度見てもらったところ、確かに今と同じような状況であった。お菓子の空箱が置かれ、ビニールが周りに散らばっている。犯人は、恵では無さそうだ。


「デューク…じゃないよね」


自分では無い事を確認したうえで、数時間ぶりに元の一人に戻った恵が、助手に聞いてみる。だが、勿論彼も違うと言った。


「もし時空改変か何かをしたとしても、局長にはすぐばれると思いますし」


影響を受けにくい彼女には、高度なつまみ食い作戦をするのは無駄である。それに、彼の場合素直に食べたと白状しそうだ。第一印象で決めるのは良くないのだが、彼の場合それが意外に合っている場合も多いのである…。


「結局誰が食べたのか、迷宮入りね…」


そう教授が呟いた時、ふとデュークがある事に気がついた。


「局長…誰か忘れてませんか?」

「誰か…って…え、あいつ?」


そう、三人目…いや、三匹目のメンバー、黒猫のブランチである。確かに彼は少々お調子者でずる賢そうな一面はあるものの、彼は「猫」だ。そう言おうとした恵だが、デュークの発言ではっとした。彼は「ミュータント」、普通の猫よりもはるかに優れた頭脳や肉体を持った存在である、と。只の猫と一緒にしてはいけないのだ。万能たる自分がそれを言ってしまえば、局長の存在意義が揺らいでしまうために敢えて彼は言わなかったという。


「なるほど…私とした事が、第一印象で決めちゃうなんて…」

「そういえば、今日探偵局にずっと来ていませんね」

「あいつ、さてはつまみ食いしてそのまま消えた…!?」


そうならば、これはとっちめる必要がある。彼の行方を探らんと、改めてデュークに指令を出そうとした時、彼女の携帯電話の着信音が鳴った。郷ノ川アニマルクリニックの所長、郷ノ川仁からだ。


『めぐちゃんか、ちょっと病院に来てくれないか!』


―――――――――――


…なるほど。

それが、二人の感想であった。


目の前で具合が悪そうに呻いている黒猫。その横でテキパキと治療の準備を始めている熊。そして、その様子を無言で見つめている恵とデューク。


「ま、あんなに盗み食いしたんじゃ、ああなるのは当然だよな」


やはりというか何と言うか、犯人は身内であった。ずっと事件の報酬であるお菓子を狙い、二人の気が緩んだすきを狙った結果がこれである。普通の猫よりも様々な面が優れているミュータントと言う事も仇となった。頭脳明晰なブランチにとって、鍵を開けたりビニールの封を開けるのは少し牙や爪を使えば朝飯前だったのだ。ただ、その量が猫にとっては多すぎたようである。今の彼の主な症状は吐き気と腹痛。食べ過ぎの兆候だ。頭が良いばかりに、自分の欲望が暴走してしまったようである。

そしてその後、この郷ノ川医師の動物病院があるこの街までやって来た時にこれらの体調不良に襲われ、何とかこの門までやって来た所を、彼の助手であるツキノワグマの龍之介に保護されたという。


「ミュータントに生まれて、ずる賢さも欲もパワーアップした、と言う事ですね。やれやれ…」

「うぅ、気持ち悪いニャ…局長…病気で休む分の手当てはどうニャりますか…」

「え、もうそれは随分頂いたんじゃないの?お腹一杯手当を食べたんだし」


「そ、そんな…ひぃ!注射!注射は苦手ですニャ!」

「そんなに暴れるでねえだ。最新型の針は痛くねえべさ、ほれ」


注射は痛くなかったが、その後数日間、盗み食いをしたブランチはその罰に苦しむ結果になったと言う…。


「でも、僕たちも責任が無いとは言えないですよね、局長」

「そうね…油断した私たちにも悪いところはある。ブランチの事もしっかり考えないとね。

 お菓子とかは猫や犬の手の届かない所に保管、ね!」


…お粗末さまでした。

≪登場人物解説≫


・ドン / ♂

 丸斗探偵局がある町で働く、少々体格が大きめの男性。あまり敬語を使う事がない所もあるが真面目な性格で、過去に自分の想いを叶えさせてくれた探偵局の面々に恩義を感じている。

 その正体は、とある田舎の山からやってきた「化け狐」。普段は人間に化けているが、元の狐の姿や他にも様々なものに変身することが可能。無事に結ばれた妻のエルと協力して様々な幻術を作り出すこともできるというが、デュークの時空改変には敵わないと言う……。


・エル / ♀

 とある山奥に住んでいる化け狐の名家出身のお嬢様。物腰も普段から柔らかく、念願かなって無事に結婚できたドンとは普段から仲良し夫婦である。

 彼女もまた様々な姿に変身することが可能な他、先祖代々受け継がれたお札などを駆使することで様々な幻術を発揮することが出来るようで、丸斗探偵局を様々な形でサポートしてくれる頼もしい仲間である。

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