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03.血で血を増やす

基本的にこの小説は「今日も暇な丸斗探偵局」で始まりそうなほど、依頼はあまり来ないここ丸斗探偵局。そして暇そうな丸斗恵。しかし、今日に限ってはそう無かった。丸斗探偵局局長、丸斗恵が今いるのはどこかの廃ビル。口をガムテープで覆われ、体は縛られている。


(完全に油断してた…)


現在、彼女はとある暴力団に捕まっている。何故このようになったのか、説明しよう。


数日前、息子の帰りが遅い事を心配した母親からの依頼があった。それを受け、調査を続けていた恵たちは、次第にある可能性に行きついた。もしかしたら暴走族の一員になったのではないか…というものである。結果は全く関係のないものだったが、本題はここからである。


「やっぱり予想通りだったわね…」

「そのようですね…」


未だに消える事のない暴走族。どうやらその暴走族を金づるにしている暴力団がいるらしい。それに関して助手のデュークが調べたところ、本拠地が近くにある事が分かった。どうやらある大物の暴力団の下っ端が勝手に独立して作ったようで、まだ若い連中が多く、非常に乱暴な一団という内容まで判明。警察もじきに動くであろうという情報も耳に届いている。


「最近、ひったくりや盗難が多いのもこれがあるかもしれません」

「犯人も捕まってない、顔も分からない。もしかしたら…ね」


と、そんな時に恵はとんでもない事を言い出した。やはりここまでわかった以上、手柄は頂きたいものである。普通、このような事例ではデュークは猛反発を行う。自分たちはあくまで探偵、犯人を逮捕するのは警察の仕事。時空改変という力を持つものの、その力を知り尽くしているが故に、それを無駄に多用する事を避けている。ところが…。


「分かりました」


今回はデュークも大いに賛成した。何か理由はあるようだが、恵はそれについて聞く事は無かった。

早速時空改変の能力が発揮される。過去の世界を作り出す様々な法則や法律、書類、そしてそれに基づく人々の考え。それらの書き換えを行い、「行方不明者調査」の名目で暴力団本拠地近くまで行ける事になった。


そして当日の夜。…なぜ夜かというと、悪人をおびき寄せやすいからと、恵が寝坊したからである。

暴力団本拠地近くまで恵が一人で来た時、突然背後から男に襲われ、口に押しつけられたガーゼの催眠物質を吸ってしまった。そして今、彼女は捕まっている。


恵が探偵である事はとっくにばれており、口封じも兼ねて裏商売のAV業者に売り渡そう、と暴力団の連中がその近く談笑していた。

分身しようにも、このままだと紐に詰まってろくに体を動かせない。苦悶の表情を浮かべる女探偵。こんな事なら、自分だけではなくデュークも連れてくれば良かった。そう恵は思った…と書きそうだが彼女はそうは考えていなかった。

突然廃ビルが慌ただしくなった。何者かが乱入してきたのだ。襲いかかる男を軽く退け、恵が閉じ込められていた部屋を見つけたのは…


「悪いけど、人質返してもらおうかしら?」


「丸斗恵」であった。

いざという時のため、もう一人自分を作っていたのだ。これが、彼女第一の奥の手である。


分身したとはいえ、全力疾走の男性をも追い抜く力を持つ恵にとっては、二人で息を合わせれば、硬い紐を引きちぎる事も不可能ではない。自分に礼を言い、ようやく自由が戻った。しかし、当然事態はそれでは終わらない。


「このまま逃げる気か?」


暴力団連中は押しかけて来たもう一人の恵を、双子の姉妹と解釈したようだ。言葉汚く罵る彼らだが、気の強い恵にはそうはいかない。全員まとめて始末してやると意気込む二人の局長。

そして、戦いは彼女の強烈な蹴りから始まった。顎に打ち込まれた衝撃で吹っ飛ぶ男。小娘を捕らえようとする彼らだが、動きやすいジーンズを身につけている二人の恵相手には少々不利な状況であった。 女性という事で油断したからか、予想外の押されぎみの男たちの中で、焦った一人が行動を起こした。


「く、くっそぉぉぉぉ!」



次の瞬間、辺りに聞きなれない音が響いた。この国では、滅多に聞く事が出来ない火薬の音、衝撃の跡。

紐から解かれたばかりの恵が、血まみれになって倒れていた。自分の横で倒れこむもう一人の自分を、もう一人の恵は静かに見つめていた。何を考えているか、動揺しながらも動き出した暴力団員は知らない。当然であろう、まさか次の瞬間あのような光景が起きてしまうのだから。

倒れていたはずの「死体」が、突然光になって消え、そして部屋中に飛んだ血しぶきが人型に膨らみ、次々に「丸斗恵」の姿に変わっているのだ!


「私が相手よ」「私も相手よ」「私もよ」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」…


恐怖におののく暴力団員の一方、恵の数は次々に増え続けた。銃で撃ち抜いても、その分また増え、逆にこの建物を埋め尽くしていく。そしてついに、暴力団員たちは失神してしまった…。


後はこれを警察に送りこめば大丈夫…と思った恵。分身をいったん消す事にした。…だが。


「あ…あれ」「消えない!?」「ちょっと、どうなってるのよ!?」「私も知らない!」「私も!」


消えない。それどころか血しぶきからの分身が文字通り「分裂」を始めてしまった。ちょうどガン細胞が無限に分裂し続けるのと同じように、本人でも止められなくなってしまっているのだ。


「ちょっと、もう入れないわよ…!」」「そんな事言っても…」」「「ちょ、もうやめて!」」」」


しかし、恵の分裂は止まらない。もう部屋という部屋がぎゅう詰めである。このままだと、外に溢れて大変な事になってしまう。

こうなっては、もう局長に残された道は一つ。


―――助けて…!


そして、窓ガラスすら割れかけるほどの缶詰め状態になった時、救世主は現れた。


「局長!大丈夫ですか!」


助手のデューク・マルトだ。手に持ってきたのは簡易型の医療用レーザー。すし詰めの恵たちに当てると、次々に光となって消えた。

たった数分で、ビルを埋め尽くしていた恵は元通り一人に戻った。


「危ない所でしたね、局長」

「そんなものまで用意して…準備は良いけど実行は遅かったわね、デューク」

「すいません、今後は気をつけます」


次の日。新聞には例の暴力団員が全員逮捕されたというニュースが。しかし、あくまで「警察」が全てを行ったかのように書いてある。

局長の能力は見世物なんかじゃない。だから、歴史には残らせない。デュークの得意分野「時空改変」は、主にこのために使われるのだ。

なぜあの時賛成したのかデュークに尋ねる恵。口を濁す「最高のアシスタント」の両頬に、お礼のキスをする二人の恵。顔を沸騰させつつ、デュークは最後に改変の仕上げを行った。過去の自分が「憧れの探偵」のピンチを救えるよう、過去に起きた事件に「情報提供者」として「丸斗恵」の名前を加える、という…。


(言えないよな…さすがにあんな事は)

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