22.デューク・マルトの正月報告 後編 / 登場人物解説・3
…どうも皆様、デューク・マルトです。少々時間が変則的ですが、前回に引き続いて正月の出来事を報告しようと思うのですがその前に。前回の最後に局長に買い物を頼まれたと書いたのですが、あの時に「安物を買う」とうっかり書いてしまったのを本人に見られてしまい、また買い物に行かされる羽目になってしまいました…。皆様もネットに不用意な発言はなるべく避けるようにお願いします…。
時空改変でどうにかできるだろうという意見もあるかもしれないですが、局長のように…多分局長とあと一人しかいないと思いますが、分身ではなく「増殖」能力を持つ人にはどうも効果が薄いようでして。
それはさておき、前回は確か…レナが逃げ出してしまった辺りですね。
丁度あの時は僕が二人に分かれていたので、賽銭泥棒の方を狐の夫婦と一緒に追いかける側と、局長と一緒にレナを追いかける側で別行動になりました。結論から申しますと、どちらとも少々手こずりましたが何とか取り押さえる事が出来ました。
賽銭泥棒はクリス捜査官からの連絡通り、未来人の男二人組でした。丁度賽銭箱を狙って近くの神社から知らないうちに奪う所に、僕たちは出くわした訳です。やはり狙いは当時…現在ですね、そのお金でした。特に未来で値打ちの高い紙幣などを重点的に観測していたようです。位相をずらす…例えて言うなら透明人間になって逃げようとしていたようですが、当然そのような手は通用しません。おさい銭と言うのは、その神社やお寺の神様や仏様、そしてそこで働く人たちのための大事なもの、それを私利私欲のために盗むのは言語道断。
ドンさんとエルさんが足止めをしてくれたのが幸いしました。傍目からはただ何もない場所で転んだようにしか見えないのですが、お二人が奥さんであるエルさんの地元で教わった変化術の応用だそうで、特定の相手の動きを一旦止める事が出来るとの事です。お陰で、僕の方も止めがスムーズに刺す事が出来ました。たっぷりのお金…そうですね、丁度1トンくらいですかね、それくらい埋もれれば本望でしょう。あ、念のために言いますが全部使い物にならないパチモノですので大丈夫ですよ。それに、1トンくらいでは肉体改造した未来の人は命を落としませんのでご安心を。ただ、動きと意識は完全に封じられますがね。
こちらの一件は捜査官に任せればいいのですが、もう一件の方は僕はあくまでレナの足止めに屈しました。やはり心の中にはまだ先程述べたような容赦なさが残っています。その態度で接したら、僕のかつての姿を少しでも見聞きした彼女には恐怖心を抱かせてしまうでしょう。
警察は正義を守り、弱いものを助ける仕事。決して罪人を捕まえてやりたい放題にするような組織では無い。局長がレナを説得した中の一節です。未来でもそれを守らない連中は数多くいます。中には様々な犯罪者と根を張り、好き放題する者もいると聞きます。…正直僕もそういう奴をよく相手にしていましたからね…。ただ、そういう奴は最後には必ず悲惨な最期を迎えていたり、迎えさせたりしていました。悪と言うのはより大きな悪に飲み込まれる運命なのです。
ただ、そう言うものは弱者をも蹴散らしてしまいます。サンタクロースに会いたい一心でこの世界にやって来た彼女のように。僕もそのような光景を何度も見てきましたが、あの頃は何も思いませんでした。ですが、今は違います。今の僕に誓って、約束します。
そして、もう一つ。ある意味当時の僕の存在が…今も続いているのかもしれないですが、皮肉ですが時空警察の皆さまの抑止力になっているというのも事実です。現に今、僕に課せられている罰も現在で言う最高裁判所から命じられたものです。今まで働いてきた悪事の分、局長と共に「永遠の」善行を尽くせ…と、また話がずれてきてしまいましたね、すいません。
今回も、未来からの名裁きによって三名に判断が下りました。先程の犯罪者二人はあの時のお金に埋もれた事と…僕ですね、「犯罪者デューク」を目の前にして完全に尻ごみしてしまい、反省しっぱなしだったようでした。しかし罪は罪、盗んだお金の分、未来でただ働きの刑に処せられる事になりました。これでお金の大事さも分かったでしょう。そして、レナの方。確かに彼女はある意味夢が無くなりつつある未来の闇に囚われた被害者かもしれませんが、それと同時にやってはいけない事を犯した犯罪者であることは認めなくてはいけません。彼女の諦めに似た顔を見るのは、局長やブランチ、そして狐の夫婦には忍びなかった事でしょう。ですが、そこを大目に見る事は出来ません。
彼女に課せられた罰は、自らが未来世界において毎年サンタクロースとなる事でした。
大変な思いをさせたサンタさんや仲間のトナカイの気持ちをしっかりと身をもって経験する事、そして彼女が自らと同様の思いをしている子供たちを助ける事。別にそれは、僕のように時空改変をしなくても出来る事です。クリスマスの日に誰かにメリークリスマスと声をかける。子供たちにプレゼントを届ける。今よりも技術は進んでいますし、それに時空警察のお墨付きです。…さすがに他人の部屋に入ると言う本物のサンタさんのような事は出来ませんので、あくまで形だけとなってしまいますが。
ちなみに、僕たちしか見ていないはずのこの出来事をどうやって未来の裁判所が判別しているかにつきましては、申し訳ありませんが今回は説明を省略させて頂きます。確かなのは、皆様のプライバシーに関しましては保証していると言う事です。…ただ監視していると言われても反論はできないようで、レナも正直驚いていました。ただ今回は、彼女に違法なプログラムを提供した犯人が捕まった際の証言が主な証拠となっていましたので、この方法は使用していないとの事で…あれ、説明省略どころか言及する必要もなかったですね、すいません。
ともかく、少々強引なところはありましたが今回も無事解決に導く事が出来ました。日本の正月をドタバタながらも味わう事が出来たレナは、クリス捜査官と一緒に未来へ一旦戻る事になりました。夢ばかり見て現実を見ないのも行けませんが、現実を追い求め過ぎるのも考えもの。ちょうど今手元にある紙幣の美しさのように、数値のみでは表す事が出来ない「美しさ」…というのがどの時代にもあります。それは色々な形で眠っているのですが、いつか僕が未来にもう一度戻る機会を得た時、彼女がどこまでそれを目覚めさせる事が出来るか、楽しみです。
それにしても…今回とは別に、今後非常にまずい事態が起こる可能性が出てきました…。捜査官からの連絡なのですが、どうも件の「犯罪組織」に何かしらの動きがあったという事です。そこは僕が逃げ出した場所、ある程度は予想してましたし、相手の手は一応知り尽くしているのですが、それでも警戒しないと恐ろしいのは確かです。…でも逆にここの時間にそいつらを引き寄せられたら…おっと、これ以上は今は言えません。局長やブランチもこれを覗いているようですし。理由ですか?…間違いなく、近いうちに判明しますので。
それでは皆様、僕たちの街に来て、何か困った事がありましたら、丸斗探偵局をご利用ください。では、また次回。
≪登場人物解説≫
・郷ノ川・W・仁 / ♂
丸斗探偵局の隣町で動物病院を経営している医者。デュークよりも背が高く、あごひげが目立つ顔通りの豪快で明るい性格。ただし仕事に関しては当然ながら非常に真剣に挑んでおり、隣町の人々からの信頼も厚い。一方、その裏で恵やデュークと言った不思議な力を持つ存在を治療する仕事も受け付けている。
治療用にチスイヒルを多数飼育しており、「相棒」と呼んで大事にしている。個別の名前もあるようで、ヒル側からの信頼も厚い様子。
探偵局とは昔から深い繋がりがあるが、デュークでも油断ならない力を秘めているようで……?
・月影龍之介 / ♂
郷ノ川医師の動物病院で副院長を務めている「ツキノワグマ」の医者。見た目は見まごう事無く二足歩行のツキノワグマで、白衣やスーツを着こなしていると言う珍妙な格好だが、いつも優しいその姿勢から種別を超えて隣町の人たちから親しまれている様子。当然人間の言葉を話す事も可能で、何故か東北訛り。
特に不思議な力は持ち合わせていないが、彼の存在自体が不思議なのかもしれない。
過去に郷ノ川医師に助けられた過去があり、それがきっかけとなり現在の道を進み始めたと言う。