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200.ようこそ、丸斗探偵局へ

「……?」


 午後の丸斗探偵局。天城千尋(てんじょう・ちひろ)がトイレから戻って来た時、丸斗蛍(まると・ほたる)局長は一枚の写真をずっと見つめていた。少し懐かしそうに、そして少し寂しそうな顔がガラスに反射してこちらにも分かる。それを見る限り、彼女が何を見ているのか、千尋にはだいたい把握できた。ただ……


「あ、ちー君おかえり!」「わわ、ごめんごめん……ぼーっとしちゃって」


 突然千尋の後ろにもう一人蛍局長が現れ、目の前の蛍局長も慌てた様子で写真を隠した。この写真の中身が、数週間前に開かれたパーティーで撮った記念写真である事は、探偵になってそんなに経っていない千尋でも予想できる。彼女……いや、「彼」の知らない昔、まだ蛍局長がこの丸斗探偵局の新人だった頃の仲間や先輩たちが久しぶりに集合し、大いに盛り上がったあの日である。千尋の方も、ずっと言葉にしか聞いてこなかった様々な思い出を目の当たりにする事が出来るよい機会となった。

 ただ、どこまでも前に進む真面目で頑固な彼女にとっては、こうやって過去の栄光の余韻に浸ると言うのは恥ずかしい事なのかもしれない。とは言え、そこまで恥ずかしがる事じゃないような気もするのだが、というのが千尋の感想である。ただ、それ以前にいきなり双方の耳の方向から同時に話しかけられると、いくら局長が『分身』出来ると言う環境に慣れたとはいえ、やはりドキドキしてしまうものである。


『こちらの方の準備は大丈夫ですワン』

「「ありがとう、コウちゃん」」「どうもっす」


 そんな蛍局長が座る探偵局の局長の机には、マスコットのように犬の玩具……ではなく、この探偵局の情報の要であるスーパーコンピュータ「コウ」がスペースを陣取っている。彼女……いや、彼だろうか……ともかくコウもれっきとした探偵局の一員、蛍に指示された通りに部屋の中の機材を利用し、ぬるめにセットしたお湯がいつでも補給できるようにした。今の時期、あちこちの建物は寒くなるほど冷房が効いている場合が多い。そんな時に舌触りの良いぬるめのお湯と言うのは程良く体を温めてくれるものだ。


「それにしても、随分久しぶりの依頼っすね」

「たはは……本当だね」「確か1週間ぶりだっけ」


 探偵局がこうやって持つのもある意味奇跡だ、と自虐的な事を言いつつ、二人の蛍も準備を始めた。その最初の段階は、二人から元の「一人」に戻ることから始まる。

 正直な所、丸斗探偵局は『依頼』が無くとも十分にやっていける、確かに蛍の言葉通り立場にある。ただ、やはり自分たちは探偵。こういう暇な時間と言うのも大事にしなければならないが、仕事が舞い込まないというのはやはり落ち着かないというのが彼女の心境である。『前の局長』はその状況に満足していたようだが、もしかしたらその反動かもしれない。


「資料はこれっす。後は局長の机の中のやつで完璧ですね」

「サンキュ、ちー君。今回の依頼は人捜しだよね、コウちゃん」

『そのですワン。皆様の力が十分に発揮できそうですワンね』


 そんなやり取りをしている間に、残る二人の探偵局の仲間も戻ってきた。その手にはキンキンに冷えた大きなペットボトルが握られている。ぬるま湯も良いが、やはり夏場と言えば冷たいお茶も忘れてはいけない。丁度切らしていた所だったので、買ってきてもらったようである。とは言え、さすがにこのまま目の前に出すのは少々格好が悪いので、後で改めて急須に移し替える事になっている。温度変化の管理は、スペード・デュークの仕事。気象などを自在に操れる彼の手に掛かれば、エントロピーの法則だって屁の河童になってしまうのだ。


「さて、後は……」

「依頼人を待つだけっすね」「うん」


 スペードは勿論、ヴィオ・デュークの方も、しっかりと鏡の前で身だしなみを整えている。予定の時間まであと少しだ。


 そして、丸斗探偵局の中に呼び鈴の音が響いた。


 依頼も推理も滅多にないけれど、悪党妖怪未来人、どんな強敵も一網打尽、どんな依頼も一挙解決。少々……いや、かなり個性は強いが、正義感と優しさ触れる仲間が、ほぼ100%問題を解決してくれる。そんな彼らの出番が、久しぶりにやってきたようだ。

 扉を開いた依頼人が、最初に触れる言葉は決まっている。この探偵局に依頼を持って来てくれた人物に対する感謝であり、今までも、そしてこれからも受け継がれるであろう言葉……




   「ようこそ、丸斗探偵局へ」




【『増殖探偵・丸斗恵』 終】

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