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194.分身探偵・丸斗蛍 エピローグ・6 丸斗恵・リターンズ!①

「え、恵『局長』が」「どんな人かって?」



 前も同じ質問をしたような気がする、という丸斗蛍局長の返答は当たっていた。


 丸斗探偵局で一番の新入りである天城千尋は、現在の局長が新入りだった頃の時代を知らない。彼女や同期の先輩達がよく話す思い出話や笑い話、愚痴などでしかその様子を見る事が出来ない立場にある。その中で、どうしても初代の局長である「丸斗恵」という人物に関して、彼の中でイメージを作る事が難しかった。


 ぐうたらで怠け者、いつも後輩たちの世話を焼かせている。

 仕事は毎日遅れてきて、そのくせ真っ先に家に帰ろうとする。

 

 絵にかいたようなダメ上司であるような事を日ごろから言っているにも関わらず、蛍局長もブランチ先輩も、探偵局の協力者である栄司や郷ノ川先生も、妖怪狐であるドンさんもエルさんも、口を揃えて彼女をこう評価している。『最高の局長』である、と。それが「ある意味」という前句を付けた上での評価と言う場合は何度もある。しかし、時にそれでは説明できないような、まるで憧れているような口調の時もあるのだ。


「本当に凄い人……なんすか?」


 どうしても、千尋は疑問を抱かずにはいられなかった。


「そんなに気になるなら」「本人に聞いてみたら」「「いいんじゃない?」」


 ウインク交じりで左右からそう提案する二人の蛍だが、いくらそういう事をされても千尋本人から直接言える気にはなれない。彼女のようにどんな事でも恐れずどこまでも食い下がる度胸や勇気、そして根性を、自分はまだ持ち合わせていない、そう千尋は感じていた。


=============================================

 

 昼下がりの午後、丸斗探偵局の本部には相変わらず依頼が来ない。しかし、今日は特別な来客が訪れると言う事もあり、普段は掃除をさぼって逃げ出そうとして蛍に怒られるヴィオやスペードも、珍しく積極的に掃除に関わっていた。スーパーコンピュータであるコウも、監視カメラなどを使って探偵局の中をくまなく調べ、ホコリなどを入念に調べている。とは言え、元から蛍たちが積極的に掃除しているだけあって目ざとく見つけでもしない限りは探偵局の中はとても綺麗である。それに、今回の来客は、棚の裏といった見えにくい場所のゴミは全然気にしない、良く言えばおおらか、悪く言えばずぼらな神経の持ち主だからだ。それにも関わらず、妙なやる気を見せているのはヴィオとスペードである。


「いやーやっぱり掃除すると気分いいなー!」

「そうっすよねー、局長?」


 濡れ雑巾を手に持ちながら、燕尾服の二人の青年が白々しく局長に自分の功績を自慢していた。確かに普段の彼らにしては珍しく、四角い部屋を丸く掃くなんて言う真似では無く、念入りに各地を拭いている。まめな働きぶりにコウからも良い評価が下り、千尋も感心していたのだが、蛍局長だけは誤魔化す事が出来なかった。彼女には、なぜこのような事をしていたか丸見えだったのだ。


「そんなにやる気があるんなら」「デューク先輩を毎日呼ぼうかなー」


「ちょ、局長!」

「な、何でそこでオリジナルの名前が出るんだよ!」


『……図星だったようですワンね』「そうっすね……」


 『デューク』という名前が出た途端、二人がそれを打ち消そうと慌て始めた。自分たちは『デューク』の影響なんて受けてない、ちゃんと毎日真面目にやっている。だが、そんな必死な言い訳も、結局蛍局長によって没にされてしまった。いくら時空改変で誤魔化そうとしても、本物のデューク・マルトの力には敵わない、という一言で。

 ヴィオ・デュークとスペード・デューク。二人の先輩から、千尋はよく「オリジナル」……デューク・マルト先輩の事を聞く機会があった。名前が同じ二人の先輩は、双方ともデューク・マルトから作りだされた、いわばコピーのような存在。当時の二人は自分と同じ存在を無数に増やしながら、時空を股にかけて様々な悪事の限りをし尽くしてきたという。しかし、それを止めたのもまた「オリジナル」。彼ら二人は互いに殺し合いにまで発展した喧嘩の末、当時の探偵局の面々や栄司さん、狐さん夫婦、そしてこの「オリジナル」によってねじ伏せられ、自らの罪を悔い改めたのだと言う。もうあのような事は懲り懲りだ、とよく二人はため息交じりに話している。


 彼らにとって「オリジナル」は絶対に越えられない巨大な壁のような存在。いくら努力しようとも、力でも権力でも、彼に勝つ事は出来ないと言う。とは言え、それがさぼったり怠けたりする理由になるかと言うと、それは絶対違うと言うのは千尋の考えである。デューク・マルト先輩の凄さは、決してその凄まじい能力だけでは無い。毎日一番早く探偵局に訪れ、科学書や哲学書と言った難しい書物をたくさん読み、掃除や買い物なども積極的にこなす、まさに誠実さの塊と言ってもよいほどである。そういえば、千尋にとっては先輩格であるコウさんも、彼こそが「完全人間」と呼んでもふさわしい存在ではないか、と言った事がある。


『楽しみですワンね、皆様に会えるなんて』

「メックさんは前も来たし」「先輩たちは一年ぶりだなー」

「ブランチさんは昨日も来てぐーすか寝てたっすよね……」


 黒猫のブランチ先輩はいつも探偵局にやってきてはゴロゴロしてばかりである。確かに喋る猫と言う時点で凄いし、それ以上にこの町の動物の親分という事もあるが、やはり千尋としては、蛍局長の思い出話と現実の光景が中々合致しない。そう言えば、彼が人間の言葉を話せるようになったのもデューク先輩のお陰だったらしいと前に本人から聞いた記憶がある。

 そして、再び「千尋」の脳内に、例の疑問がわき上がってきた。ブランチ先輩以上の怠け者だったと言う先代の局長が、どうして皆からあんなに持て囃されているのか。何故、デューク先輩はそんな局長についていったのか。


「千尋ー」「そんなに悩むなよー」


 ……時空改変と言うのは文字通り『何でも出来る』万能の力。好きなように人の脳内を読んでしまう事も簡単にできてしまうのである。勝手に覗かないでくれとは言うものの、悩んでいた千尋の表情からして、あの時の蛍への疑問がまだ解決していないのは他の四人の探偵からはそんな能力を使わずとも見えてしまっていたようだ。「偉大な」先輩を侮辱して申し訳ないという千尋だが、局長たちは気にしていない、と告げた。見ず知らずの人について色々と自分たちが言っても、疑念がわき上がるのは仕方のない事である。あくまで千尋に言っているのは、四人が今まで見てきた丸斗恵とデューク・マルトのコンビ。百聞は一見にしかず、千尋の「難問」を解決させるには、実際の彼らの様子を知るのが一番だ、と。


『それに、千尋さんのあのお悩みも……』

「ま、まぁ……そうだといいんすけどね」


 今度は逆に、千尋の苦笑いを見てコウの方が謝る番になった。もしかしたら、彼女……いや、「彼」の抱えるもう一つの悩みも、二人なら解決してくれるかもしれない。そんな助言をするつもりだったのだが、まだ千尋の方は半信半疑の様子である。やはり、面と向かわないと事態は進まないようだ。


 ……そして、事態はなかなか進まなかった。


「もう30分も経ってる……」

『完全に遅刻ですワンね……』


 もはや恒例行事と言わんばかりに、蛍局長は二人で顔を見合わせてため息をついていた。とは言え、逆に言うと今からの時間、いつ二人がこの場所にやってきてもおかしくないと言う事でもある。事前にデュークから蛍へと伝えられた内容では、ブランチ先輩は美紀さんのネコ屋敷、ミコさんと栄司さんもそれについて行く形で途中で分かれていると言う。もしかしたらそこで何かしらあったのかもしれない……と、色々と皆の脳内で推理が始まろうとしていた時。探偵局の呼び鈴が心地良く鳴った。そして、インターホンに映った顔を見た途端、蛍の顔がまるで輝くように明るく、そしてどこか初々しいような感じへと変わった。

 本当は時間を厳守していない事を注意するべきなのかもしれないが、今日だけは例外。蛍たちは心を躍らせながら、千尋はどのような人たちが来るのか緊張しながら、ドアが開くまでの数十秒間の間、ずっと二人を待っていた。そして……



「みんなー!ひさしぶりー!」

 

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