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193.増殖探偵・丸斗恵 エピローグ・5 デュークと「デューク」と「デューク」

 有田栄司の経営する和食専門のレストランに、三つの同じ顔が並んでいる。増殖能力を持つ恵でも栄司でも、はたまたミコやブランチでもない。お揃いの燕尾服に、同じ長さに揃った長髪、そして眼鏡のフレームの微妙なずれも全く一緒、そしてそれを動かす仕草も。今、隣り合った三つの席は、三人のデュークによって占領されていた。そして、この様子を見ながらミコやブランチは少々複雑な表情を見せていた。


「メグはん……よう平気じゃのぉ」

「ん?……ああ、この『デューク』ね」

 

 あの時、恵とデュークが『犯罪組織』を受け入れるか否かと言う判断を求められ……と言うより実質押しつけられ、皆に相談した時に、一番複雑な印象を持っていたのは彼らと長い付き合いを持つミコや郷ノ川医師といった面々であった。それもそうだろう、彼らは何度も組織の一員であったデューク……探偵局の助手であるデューク・マルトから生み出された無数のコピーたちに苦しめられ続けたからである。自分に擬態されたり、罠にはめられたり、時には命の危機にも陥れられたり……そんな事をした連中を受け入れられるわけがない、と彼らは時空警察の判断に真っ向から反論を示したのである。

 ただ、結局折れたのはそのミコたちであった。特に彼女は、折らざるを得ない要因があった。恵やデュークがこの判断を受け入れる決意をしたのは、彼ら自身が大量のコピーデューク、犯罪組織のボス、そして『組織』その物を受け入れるだけの凄まじい力を手にしていたからである。


「なんかお前ら、随分浮世離れしちまってるな……」

「ま、まぁ否定は出来ないですね……」


 栄司やブランチとは以前にも連絡を取った事はあるのだが、こうやって本人を目の前にするのは本当に久しぶりの事。そして同時に本物の町に足を踏み入れるのも久しぶり、と言う事にもなる。ただ、栄司が彼らを見てそう思ったのはこれが理由では無い、現在の二人の『状況』、そして『能力』にある。

 恵の持つ能力は、既に何度も披露しているのでご存じだろう、自分を数限りなく増やす『増殖能力』である。単に分身の術のように自分を増やし続けるだけでは無く、服や思考能力、好きな自然番組を録画し忘れたまま寝てしまった悔しさまでインプットしている新たな自分自身を、体の器官や細胞一辺からでも出現させる事が出来るのである。デュークと共に探偵局を始めた頃は、まだ恵は自分の力を完全にはコントロールしきれておらず、例えば出血など通常では有り得ないとされる要因に出くわすと、自分の増殖を止める事が自らの意志では不可能となっていた。しかし、その後様々な経験を積む中で次第にそれらも制御できるようになり、そして現在は細胞レベルからさらに進み、遺伝子の欠片からでも彼女の考え一つで自在に新しい自分自身を出現させる事まで可能になっているのである。

 まさに『無限』という言葉がぴったりという状況なのだが、正直なところ栄司はこれに関してはそこまで重要視はしていなかった。と言うより、ようやく「自分」の増殖能力に並んだ、という感触だった。何せ恵の能力はそのまま栄司の能力を劣化コピーさせた所から始まったもの。彼もまたあらゆる条件下で自分を増やして増やしまくる事が可能なのである。しかし、どんな時でも自分の余裕を作り、相手に対する妥協を許さない傲慢な彼でも、丸斗探偵局の異次元支局に転任したもう一人の存在……「デューク・マルト」に関しては、敵わないと考えるようになっていた。


「でも、オリジナルは相変わらず」「僕たちのオリジナルだよねー♪」

「やめろ、じゃれつくな!」

「「やーだ♪」」


 そう言いながら両端のデュークは、真ん中で恥ずかしそうな顔の長髪をいじりながら遊んでいる様子である。いつもこういう調子なのか、と呆れ顔で尋ねるブランチやミコに、恵は苦笑いしながら頷いた。どう見ても信じられないが、コピーはオリジナルに絶対に逆らえないのが現実なのだ。


 誰もが困難に思えた、コピーデュークたちに『罰を与える』という手段は、予想よりも恐ろしく呆気なく完了してしまった。動かぬ石から元通りの姿に戻ったコピーたちは、彼らの願望であるオリジナルのデューク・マルトの帰還という事実をすぐに受け入れ、彼や恵に忠誠を誓ったのである。良くも悪くも、忠実さや誠実さと言った要素は、悪魔のような存在であった彼らにもそれなりに残っていたのかもしれない。そしてその結果が、丸斗探偵局異次元支局助手であるデューク・マルトの現在である。

 今、彼は恵と共に何十億人もの「自分」を従えている。彼の手元にある黒いトランプ状のカードには、コピーデュークそのものが封じ込まれている。この状態でのみ、彼らは外の世界に出る事が出来るのだ。そして、デューク本人が恵美の許可を得て彼らを召喚する、という形でこのように現れるのである。現在持ち合わせているカードは2枚、残りの51枚は数合わせの単なる黒い紙なのだが、オリジナルの判断次第で、それらのカードも全てコピーデュークにしてしまう事も可能なのだ。文字通り、最強クラスの戦闘員を手札に持つ形である。


 そしてそれ以上に、彼自身の能力も格段に上がった。


 元々デュークが持っている『時空改変』は、何をやっても思い通りに行くというシンプルだがその分凄まじい能力である。しかし、裏を返せば本人が上手く思い描かなければ、本人の技術が上がらなければ、無限にも広がるこの力を使いきる事は不可能、僅かな範囲しか使用できないという事である。コピーデュークたちに欠けていたのは、この「努力」という要素であった。

 彼らとは違い、様々な経験を積む中で人々との交流、仲間たちとの意見のぶつけ合い、迫りくる現実など様々な事態に直面し続けたデュークは、自らの能力をより大きく、強く開拓し続けていた。そして『犯罪組織』壊滅という時、彼は自らの上司である恵の判断を受け入れ、もう一人の自分……犯罪組織を率い続けた一人目のコピーを自らに取り込んだ。犯罪組織のリーダーとなった自分と、丸斗探偵局の助手となった自分、分岐した二つの可能性が元の一つに戻った時、彼の力は凄まじいレベルにまで上がった。

 今のデュークは、自らの『時空改変』が彼らが住む宇宙やそこから繋がりのある異次元のみならず、宇宙の外にある別の宇宙空間にも対応できるようになっている。どんな場所へ行っても、ほぼ100%に近い実力で行動をする事が出来、勿論自分の思い通りに物事を進ませる事も可能となっているのだ。とは言え本人にはそれを使用して他の宇宙を「攻撃」する意図は一切なく、基本的にはいくつもの宇宙を跨ぐ『時空嵐』などの現象の監視などに活かしている。それに、コピーたちにからかわれる本人の姿には、そういったものは微塵も感じさせないようだが……。


「ま、まぁどんな凄い力を持っていても、威張り過ぎると罰が当たりますし」

「デュークさん、やっぱり神様みたいですニャー」


 それは言わないで欲しい、自分はただの探偵局の助手だと苦笑いしながら言う彼だが、最近はそう言われても仕方ない、と自分の中で割り切る事が出来るようになっている。『デウス・エクス・マキナ』……化粧品や健康食品にありそうな名前だが一切関係なく、どんな事でも都合よく解決してしまう、ある意味反則的な存在。まさに、今の二人を表すのにはぴったりの言葉かもしれない。


 冒頭にも言った、ミコが彼らの判断を認める決心をしたのも、これらが一番の要因だった。彼女の持つ、未来をも変えてしまうと言う『予知能力』をもってしても、この決断を選んだ二人には不幸な結末が全く見えなかったのである。親友の明るい笑顔を見れば、いくら強引な彼女でも諦めざるを得なかったのだ。


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 ……ただ、強さというのは単に能力の強弱のみで決まるものではない。どんなに凄い力があろうと、自然界には必ずそれを打ち消す別の力が生まれてくる。それは、人間の常識を超えた存在が集まっている丸斗探偵局やその仲間たちでも例外では無かった。


 そろそろ話も済んだ所で、恵とデュークが丸斗探偵局へ向かおうとした時だった。残りの三名はネコ屋敷の美紀さんの元に用事があるためにここで一旦別れる事になっていたのだが、オリジナルのデュークがコピー二人を元のカードに収納しようとした時、それをミコが制止した。彼女の予知能力が、この二人にどこか既視感がある事を教えてくれたのである。そして、まるで獲物をとらえたかのように彼女の口元がにやりとした形となった。


「そーいやー、ニセデュークはんには昔から色々と悩まされたのー、うちら」

「す、すいません……」「ご、ごめんなさい、ですからその手を……」


「うちもこうやって嫌がっとったのに、あんた平気で『陽元ミコ』っつー美人に化けたじゃろ!」


 ……図星だった。数年前、デュークが犯罪組織の面々にさらわれた際、大暴れしたニセデュークの一人が彼女に化け、探偵局の面々に危害を加えていたのである。一応それに関しては最終決戦で石に変えた事や、ヴィオやスペードにボコボコにされた事ですっきりはしたのだが、あの時は敵わぬ相手への反抗という形、こうやって自分の方が()()()()()にいるという機会は滅多にない。

 そして、そのような考えを最も得意とするであろう栄司に向けても、ミコははっきりと言った。こっそりオリジナルの背中に逃げ込もうとしたもう一人のコピーデュークも、以前『有田栄司』に化けて、探偵局の牽制のために現れた奴であるという事を。


「あー!お前あの時芋虫の化け物に変身した奴だニャー!」


 ブランチに言われて、栄司もようやく納得した。どうやら、今日は仕返しするには良い日だったらしい。


「へー、これはなかなか良い『偶然』ね、デューク」

「そうですね、局長。いい機会ですから、栄司さんにミコさん、二人に仕事を命令するのはいかがでしょう」

「そ、そんなオリジナルー!」「こき使われるに決まってるじゃん、助けて!」

「やーだ♪」


 ……どうやら、こういった少々子供っぽいと言うか飄々とした態度というのが、ある意味ではデューク・マルトの本質に近いようである。

 そして、数分後。


「おい、早くしやがれ」これも洗えよ」ちゃんと拭けてねーじゃねえか」もっと腰入れろ腰」……


 明後日にでも久しぶりに店の掃除をしようと考えていた店長の栄司だったが、どうやら手間が省けたようである。コピーデュークの能力を使えばこのような状況から逃げ出すのは朝飯前なのだが、相手はそういった「時空改変」能力者が苦手とする増殖能力を駆使した十数人もの栄司。そして、彼らを監視するオリジナルのデューク・マルトや丸斗恵。嫌悪感を顔に示しながらも、二人のコピーの取る手段は丁寧に店を掃除するという事しか残されていなかった。


「なんかあの様子を見とると、お茶が美味しく感じるのぉ」

「でも栄司さん、ちょっと厳しすぎな気もしますニャー」

「ま、僕たちも後で手伝える所は手伝いましょう。せっかく御馳走になった事ですし」

「えー、だって時間が無いじゃーん」


 珍しく時間を守るとする恵だが、時間をオーバーしても恩を守るとするデュークには敵わなかった。普段と立場が逆転しているのだが、今の彼はそういった柔軟な対応が出来る余裕も生まれているようである。


 この店の掃除が終われば、いよいよ二人にとって待ちに待った時間がやって来る。蛍局長は元気でやっているだろうか、ヴィオやスペードは相変わらずさぼってやしないか、コウちゃんの調子は万全だろうか。

 ……そして、もう一人。新しく加わったと言う、探偵局の新人は、どんな人だろうか。


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