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187.増殖探偵・丸斗恵 with ハピの暢気な日常 お化けの町の迷子たち③

「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」


 『丸斗探偵局』の中で、何人もの男女がしょんぼりとした顔で、一斉にハピやヌグら向かって謝罪の言葉を伝えました。女性も男性も、皆一様に全く同じ姿形をしています。その横には、腕を抱えて厳しい表情を崩さない美形の男性と、その様子をきょとんとした様子で見つめている銀髪の女性の姿があります。

 

「局長に『僕』、これに懲りて絶対ああいう真似は……」


 説教を始めようとした男性でしたが、その傍らで先ほど謝ったばかりの彼女「数人」は、早速パンダであるハピの元へ向かい、彼の体を気持ちよさそうに触り始めました。悪意のない手つきなので痛くはないのですが、どこか彼もくすぐったい様子です。こうなればもう話を聞く事はない、と呆れ交じりのため息交じりの男性に向けて、全く同じ姿かたちの男性が……


「苦労しているね、オリジナル」「オリジナルも大変だねー」「頑張ってね、オリジナル」

「誰のせいだよ誰の!」


 からかい交じりの口調にすぐさま怒り出した彼……デューク・マルトを見て、ガッザやトトがまあまあと彼をなだめました。先程から見ている限り、どうもこの人間は真面目すぎる分、誰かがこのようにふざけるとつい頭に血が行ってしまう性格のようです。

 無数に並ぶ同じ建物の中で、この『丸斗探偵局』を案内された動物たちは、このデューク・マルトともう一人、銀髪のクリス捜査官と言う人から今回の事情について説明を受けました。興奮状態から覚めて一気に眠気が襲ってきたムーニィを、捜査官は優しく抱きかかえています。普通の人間とも違う丁寧さも混ざる手つきや態度に、最初ビビり続けていた彼ら動物たちからもようやく警戒心が抜け始めていたようです。


「つまり、ワテらはあん時にやっぱ迷子になったっつー事か」

「やっぱりあの星空がまずかったんだね……」

「ええ、あの『星空』が、皆様をこの場所へと案内してしまったようですね」


 そう言いながら捜査官は、頭の中で正確には「時空嵐に巻き込まれた」という言葉で言い表せる内容だ、と自分自身の言葉に補足を入れました。そのような難しい言葉を並べただけでは説得や説明はうまくいきません。捜査官は持ち前の交渉力でしっかりと動物たちに説明しました。この場所は言うなれば「お化けの町」のようなところである、ただしここのお化けは誰かを食べたりするような悪い連中ではなく、むしろ良い事のために動く「正義」のお化けである、と。


「でも、たまに今回のように悪戯をすることがある。ですよね?」

「う、うるさいわねデューク……」「だから反省してるんじゃないのよ…」

「だいたいオリジナルは……」「しつこいんだよ、もう……」


 とは言え、こうやってしっかりとデューク・マルトが彼ら「イタズラお化け」たちをまとめ上げている、という印象、そして彼がいる限り一切危害はないという事は動物たちにしっかりと刻まれていたようです。

 彼ら小蓬莱島の面々には内緒ですが、こうやって動物たちに警戒心を解いてもらおう、とデュークは努力をしていました。自らの持つ恐るべき力を使わなくても、誰かの心を動かすことができるというのを自分に言い聞かせるかのように。


「ソレニシテモ凄イ……イクラデモ自分ノ数ヲ増ヤセルナンテ」


 少しづつ打ち解け始めてきた「お化け」……いや、この探偵局のリーダーだと名乗る女性、丸斗恵に向けて、ヌグは目を見張りつつ言いました。自分が何人でもいれば、確かにあのような大掛かりな包囲網なんて簡単に作れてしまいます。彼も日常生活の中で何度か自分がもう一人いたら、と考えることがありました。それが今、目の前で実現されている……お化けでないと出来ない事だと改めて心の中で言い聞かせているようですが。

 しかし、恵は「凄い」という言葉については否定しました。むしろ彼らの隣にいる長髪の男性、デューク・マルトのほうが凄い、と。


「だって、いつでも皆を法蓮草島に送り届けることができる力があるんだもんね?」

「ええ。ただし、僕が送り届けるのは『ホウレンソウ島』ではなく『ショウホウライ島』ですよ局長」

「う、うるさいわね、わざと間違えたのよ!」「わざとよわざと!」

「「……ぷっ!」」


 二人(?)のやり取りを見てついトトやガッザは吹き出してしまいました。あの時とても怖かったはずの存在が、いざこうやって対面すると愉快な存在だと知った時の反動というのは結構大きいもの。顔を真っ赤にして笑わないで、と言う恵ですが、何とか双方に出来かけてしまった壁は解かれ始めたようです。


「恵はんに、デュークはんに、クリスはんに……えーと、あんたらもデュークはんなん?」

「うわー、かみのけながーい。ほらほらー」

「わわ、ちょ、ちょっと引っ張らないで」「オリジナル何とかしてよ……」「そ、そうですけど……」


 『デューク・マルト』と呼ばれる男性は、皆お揃いの黒い燕尾服に黒い長髪、太縁の眼鏡をかけ、ガッザたちには全く見分けがつきません。しかしその一方で、何人も集まっているデューク・マルトのうち、リーダー格に関してはほかの彼らから「オリジナル」と呼ばれているようです。確かオリジナルと言うのは人間の言葉でいうと「本物」というものと同じ意味。どんな意味合いはあるのかと興味を持ったヌグの問いに、「オリジナル」デュークは少し言葉を悩んでいましたが、その隣にいた恵があっさりとその答えを言ってしまいました。


「ま、要するにこのデュークはあのデュークたちの『お父さん』なのよ」

「え、局長!?」

「そうそう、僕たちと、あと恵さんのお父さんなんだよねー」「そうだよねーオリジナル♪」「嘘は言ってないよねー」

「いやいや、ちょっと待ってよちょっと…!」

「真実ですよ、デュークさん」

「そ、捜査官まで!?」

 

 ……どうやら、ヌグの質問はまずいところを突いてしまったようです。何とかその場は彼が慌てて謝り、捜査官が皆をなだめることで収拾しました。ちなみにその間、ずっとムーニィはおねんねを続け、ハピは近くにいた恵にずっと撫でられていい気分のようでした。

 相変わらずマイペースだ、と語るトトでしたが、逆にデューク……オリジナルの彼は、ある意味彼らは大物だ、と言いました。どんな存在でも一切恐れを知らずに立ち向かった事が、「迷子」事件の解決へと導くきっかけを作ってくれた、と。もしかしたら、ハピはそんな未来を知っていたのかもしれない、という彼の言葉に、いくらアニキでもそんな大げさな事はないと笑うトトでしたが、心の中ではどこか彼の言葉に納得するような気持ちが湧いてきました。そういえば、自分がこうやってハピのことを「アニキ」と呼ぶようになったのも……


「「「「「「「?」」」」」」


 突然、何か大きな地響きのような音がしました。「お化け」たちの視線があちこちを向く中で、動物たちはこの大きな音の主が誰なのか知っていました。顔を真っ赤に照れくさそうなハピが、お腹をさすってご飯を食べたいことを示していたのです。そして同時に、動物たちもそれにつられてお腹の大きな音が鳴り始めました。

 困った顔の彼らを見たとき、クリス捜査官はある一つの提案をしました。


「エ、オ化ケノゴ飯!?」

「ええ、珍しい味でもいかがでしょうか」

「で、でもお化けの料理なんて、オイラたちのほうが料理されそう……」

「心配ないよ、そういう『悪いお化け』は僕が退治するからね」


 恵たちを参らせた彼が言うなら、間違いありません。

 いつでも帰ることができるという安心感を持って、小蓬莱島からの来訪客はもう少しこの「お化けの町」を楽しむことにしました。どこまで行っても同じ景色に同じ住人、確かに奇妙な街ですが、もうそこに住むお化けを怖がることなんてありません、彼らもまた自分たちと同じように、不思議な世界で生きる住人だという事を知ることができたのですから。


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