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186.増殖探偵・丸斗恵 with ハピの暢気な日常 お化けの町の迷子たち②

「え、時空嵐……ですか?」


 これが、『探偵局』の元にやってきたクリス捜査官が、そこに勤めている助手にして、時空警察の模範囚であるデューク・マルトに連絡しに訪れた理由であった。過去から未来へ流れるはずの各地の宇宙の時の流れが、まるで動脈瘤のように詰まったりしたりたこ足配線のように混線してしまい、普通ではありえない現象を引き起こしてしまうという現象「時空嵐」が、この場所の近辺で確認された、と言うのである。念のためデュークも自らの能力を用いて調査を行い、彼女の言葉が真実であることを確信した。


「間違いなく、この世界にも何らかの影響が及んでいます」

「速球に対策をとる必要がある、という事ですね……」


 一応時空警察としては過去に起きた事象を治す、という形で時空嵐の猛威を防ぐことはできるのだが、どうやらこちらの場合、別の「宇宙」と何かしらの繋がりが出来てしまったようである。こうなれば、そこに関与できるのはただ一つ……たとえどのような悪影響が出ようと、それを無かったことにできる力を持つデューク・マルト……いや、丸斗探偵局しかいない。しかも今回の場合、自分たちの住む「家」に被害が及んでいるとならば、自分たちで速球に解決策を行う必要がある。

 デュークが了承したのを見て笑顔を返したクリス捜査官だが、直後何かがこの部屋に足りないことに気が付いた。


「あの、恵さんたちは……」


 その名を言われた途端、デュークはため息をついた。捜査官が来る前にもデュークは彼女……丸斗恵に対してこの世界の異変を告げたのだが、そこから自分たちが解決しないといけないという現実を察した恵は捜査官が来る前に脱走し、眼下に広がる「町」の中に逃げ出してしまったのである……。


「面倒事を起こしていないといいのですが……」

「嫌な予感ほど、当たってしまうものですよ」


 そうですよね、と言いながら、彼はもう一度諦めのため息をつき、準備に取り掛かった。

「……な、なんやあれ……」「サ、サァ……」


 ガッザとヌグ、鳥と恐竜。生まれた時代も食べ物も、そして言葉も違うはずの二人がこうやって互いに自分たちの見ているものに対して言葉を発するという事自体、人間からすると非常識な事かもしれません。ですが、そんな彼らすら、目の前で起きている景色をどう解釈すればよいのかわかりませんでした。

 彼らの生まれ故郷である南の小島「小蓬莱島」でも、群れを作る動物たちというのはよくいます。彼らはまるでそっくりな模様や声を発しているのですが、よく見るとそれぞれ全く違う個性を持つ存在であることが分かります。野生の感を頼りにすることが多いガッザたち動物たちならなおさらです。ですが、今彼らの目に映っている「人間」たちは、そのような個性が一切感じられません。全員とも全く同じ紫色の髪に赤いジャケット、中にはクリーム色がかったポロシャツを着こみ、下は青のジーンズに茶色の革靴という女性が、何十人も道に現れ始めたのです。いや、遠くにも延々と女性の列が続き、その数は100人を超えるのは間違いないようです。

 姿も同じなら、その声も全く同じ。同一の響きが、動物たちの耳にも嫌というほど聞こえてきます。そしてその内容は、一様に先ほどの謎のパンダの捜索に関してというものです。


 再び様子を覗こうとしたハピとムーニィを抑え、ヌグはガッザ、そして心配そうな顔のトトと共に作戦会議を始めました。

 先ほどまで隠れていた影から、何とか「女性」の目の隙を縫ってこの場所へとたどり着いたのですが、その際も同じ姿形の人間の女性を何度も見かけました。そして気のせいでしょうか、彼女の傍らにはもう一つ、黒い人影のようなものが存在していました。男性なのか女性なのか、髪が長かった事以外は分からなかったのですが。

 そういえば、どこか空も微妙に暗くなっているような気がします。


「や、やっぱり言うた通りや……」「ナ?ヤッパリココハオ化ケノ森ダッタンダ……」


 最初は半信半疑だったのですが、いざ自分の目で「女性」がわらわらと現れているのを見てしまうと、納得せざるを得ません。

 こうなれば逃げる他ない、と言うガッザでしたが、彼が次に出した提案……「たんてーきょく」へ向かう、という意見にはトトが猛反発しました。今、彼女たちは自分たちを狙って次々に活動を開始している。あの時は『アニキ』を油断させて、信じ込ませたんじゃないか、と。名前を言われた当のハピ本人は、ムーニィと共にきょとんとしていましたが。

 一方、ヌグのほうはガッザと同じ意見でした。あの時の女性の態度は、間違いなく一切の嫌悪感や悪い心は無かった、と言うのです。ハピがパンダだという事に気づくのにワンテンポ遅れたのが、その何よりの証拠だ。だから、信じるべき内容なんじゃないか、と言いました。ですが、お化けと聞いてすっかり恐怖心が支配してしまったトトは納得できません。仲が良いはずの彼らは、次第に言い争いを始めてしまいました。そして、冷静さを失った彼は、つい……


「だいたい、二人が押してくるからこんなことに!!!」


 ……大声を出してしまったのです。


「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」「誰!?」……


 次々に辺り一面に、女性の声が響き始めました。完全にこの場所に自分たちがいるのがばれてしまいました。


「や、やばい!みんな、逃げるで!」

「わーい、やまびこだー」「ヤマビコー」

「呑気ナ事言ッテル場合ジャナイ!」「アニキはこれだからもう……」


 相変わらず状況を飲み込めているのかいないのかわからないハピとムーニィを急いで背中に乗せ、しっぽの付け根に慌ててしがみついたヌグは、急いでこの場所から抜け出しました。彼の後ろで、女性たちが自分の影を見て驚いているのが聞こえてきます。

 獰猛な肉食恐竜ドロマエオサウルスである彼の瞬足は、並大抵の人間をあっという間に追い抜いてしまうほど。群がっていた群れから逃げ出すことに成功することができました。ですが、問題はこの「群れ」以外にも、あちこちで次々に新しい女性の大群が現れ始めたことでした。延々と続く灰色のジャングルの至る所から、紫色の髪をした女性たちが数人、数十人、数百人、と時間を追うごとにどんどん増え続けている様子が、トトやヌグの目にははっきりと見えていました。


「うわー、あっちにもいるよー」「コッチニモー」


 そんな状況下でも、相変わらずマイペースなのはハピとムーニィ。とは言え、今回彼らが向かう目的地を作ってくれたのは間違いなく彼ら。今、四人から離れた空からは、美しい青色の翼を日の光に当てながら、ガッザが目的地である「たんてーきょく」を捜索していました。彼らが普段訪れる……そして、今日も訪れるはずだった場所でよく辞書などを積極的に読んでいたお蔭で、彼はある程度の漢字は把握しています。恐らくハピが言っていた目的地は「探偵局」、人間の世界でどんな問題でも解決してくれるという探偵という人たちが集まる場所のことでしょう。そして、人間は大概の場合そういった大事な場所には目印として看板をつけているはずです。それさえ見つけることができれば、もうこちらのものです。

 そして、延々と続く高層ビルの森林の向こうに「探偵局」という看板の文字を見つけた、まさにその瞬間でした。


「……!?」


 ガッザが上空に浮かぶ黒い雲……いや、それに似た謎の物体が、不気味に動き始めたことを察知したのは。よくはわからないのですが、雲ではないというのは間違いないようです。そしてその瞬間、彼は気づいてしまったのです。今、自分自身は何百何千の「目」によって監視されている事、そしてその目の持ち主は黒々とした服や髪の持ち主である、という事、そして……


「「「「「「「「「「「「「みーつけた♪」」」」」」」」」」」」」


 一斉にこちらに向けて、笑顔を送ってきた事。


「ひいいいいいいいいいいい!!!!」


 悲鳴と共にガッザは慌ててヌグたちの元に降りてきました。お帰り、と返すハピの一方、心臓をドキドキさせながら彼は今見た状況を一文一句逃すことなく皆に伝えました。空にもお化けの群れがいることに対し、皆が震え上がったのは言うまでもありません。とは言え、目的地の場所はわかりました。今はそこへ向かうことに集中するのみです。


「ツ、次ハドッチダ!」

「み、右や!あ、そのあとすぐに左!」

「はやいはやーい!」「ウヤー!」

「お化け怖いよおおお!!」 


 トトが完全に涙目になり始めている状況ですが、ガッザのアシストやヌグの瞬足のお蔭で何とかお化け軍団の隙を縫い、彼らは走り続けました。幾つもの曲がり角を抜け、細い道を走り抜け、そして一度も迷うことなく前へ進み続け、ついにガッザは先ほど空で見た目印のビル群が目の前に迫っていることを確認しました。この通りをまっすぐ行けば、「探偵局」にたどり着く……



 ……そう、彼らは「探偵局」にたどり着くことは出来ました。『丸斗探偵局』という看板が設置されているビルが建っているのを、確かに皆は目にしました。ただ、問題が一つだけありました。探偵局の建物は、一つだけではなかったのです。


 右を見ても『丸斗探偵局』。

 左を見ても『丸斗探偵局』。

 前も後ろも『丸斗探偵局』

 更には、探偵局の建物の上にもまた『丸斗探偵局』。

 どこを見ても『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』『丸斗探偵局』……


彼ら動物たちを待ち受けていたのは、何百何千、何万もの目的地のフラッグだったのです。


 一体どの場所が本物の探偵局なのか、腰が抜けた彼らにはもはや探す気力は残っていませんでした。そして、ヌグが辺りを見回そうとしたとき、彼らは既に「お化け」たちによって包囲されていました。どこを見ても、道にいるのは全く同じ女性の大群。さらに上空には、あの時ガッザが見た「目」のお化け……いや、黒い燕尾服に身を包んだ長髪眼鏡の男性が幾重にも存在していました。翼も生えていないのに、平気で空に浮かびながら。


「こ……こうなりゃヤケッパチや!おら、かかってこいや!」

「近ヅクト爪デバッサリダゾ!」

「そ、そうだ!オイラの歯だって痛いんだぞ!」

「なんだかお花畑みたいだねー」「ハバターケ?」


 動物と言うのは、切羽詰まったときに凄まじいパワーを発揮するもの。無数のお化けを相手に、いまいち状況をつかみ切れていないような気配のハピやムーニィを守るかのように、三人の動物たちはそれぞれの武器を見せつけながら、反撃をしようとしていました。見た限りですと相手は少しひるんでいるようですが、相変わらずこの包囲網が解かれる気配はないですし、いつ自分たちがお化けに食べられてしまうかわかりません。一触即発という状態が続こうとした……


 ……まさにその時でした。


「……やっぱり、みんなここに集まっていたんですね」


 文字通り、空から降ってきたかのような声が響いた途端、「お化け」たちの動きがにわかに騒がしくなってきました。無数の声が飛び交う状態だったのですが、明らかに全員とも集中は空のほうへと変わっています。唖然とする動物たちでしたが、彼らの五感は、その声にお化けたちがある程度恐怖を感じており、この後彼らにはそれなりの「罰」が与えられる、という事の成り行きを感じ取っていました。

 そして次第に辺りから人影が消え始めたのと同時に、いつの間にやら今までのものとは全く別の人影が現れていました。銀髪を首元まで伸ばした、青い服の女性のようです。当然ながら最初は驚き、先ほどのように敵意の姿勢を見せかけてしまった面々でしたが、彼女はそのまま片膝を地面につけ、彼らに忠誠を誓うようなポーズを取りながら、言葉を発しました。


「この度は、皆さまへのご無礼をお詫びいたします」

「お……あ、アワビ?」「へ、ワサビ…?」


 ……いきなり難しい言葉が飛び出し、余計に困惑してしまった動物たちを見て、改めて女性は優しい言葉で彼らに言いました。


「私たちの友達が、皆様に迷惑をかけてしまったようですね」


 ごめんなさい。

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