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180.最終章 復活

「ひぃひぃ……何故拙者がこんな羽目に……」


 夕焼けに染まり始めた町の空を、一羽のカラスが独り言を呟きながら飛び続けていた。つい半日前には大混乱の渦にあったはずの街は、嘘のように穏やかさを取り戻している。いや、ある意味「嘘八百」の世界だったのだが。

 その大混乱を人知れず食い止めた仲間たちの中に、彼女も加わっていた。勝利の女神に力を貸すため、町の動物たちと協力して発電に力を注ぎ続けたのである。しかし、騒動が終わった後もまだ彼女は休めなかった。共に乗り込んだ仲間であるスティーブンイワサザイの亡霊を、元の憑依先である動物園のカカポへと届ける必要があったためである。動物園によくえさを頂戴しに訪れていたという弱みを握られてしまっては断る事は出来なかった。

 何とか動物園の敷地にこっそり侵入して亡霊を送り返した彼女だが、それでも心配事はあった。

 この町の動物たちの憩いの場所である「ネコ屋敷」の主人である美紀さんが、美味しい料理を作って動物たちを待っていると言う情報があったからである。あの後、カラスを除いて全員とも真っ先にそちらへ向かってしまった。今頃料理は全部彼らに食べられているかもしれない、と悲観的な未来を予知しながらも、ようやくカラスは安息の地へと辿り着いた。そこで待っていたのは、満面の笑みを見せるふくよかな女性と……


「おかえりなさい」


 彼女特製、大盛りのケーキであった。

 それ以前に用意していた大量の料理は全部帰還した勇者たちが一気に食べ尽してしまったのだが、それでもやはり腹の容量には限界があり、このケーキを腹に入れることが出来るものは一匹も一羽もいなかったと言うのだ。当然、腹ペコの彼女がこの誘いを断るわけが無い。

 最後まで希望を捨ててはならない。恐らく、カラスがこの大騒動の中で最も強く感じた教訓だろう……。


=======================================


――もしもし?ミコじゃ、ミコ。

――誰が母ちゃんお助け詐欺じゃ!本物じゃ本物!お兄が電話入れたんじゃろうが!


――え、予感?


――うん……うん……なんじゃ、お兄らしくないのぉその怖がり方。母ちゃんや父ちゃんはうちが大丈夫って言っとったんじゃろ?


――あ、あははは、うち結構お兄に可愛がられとる?

――なんじゃその返事、期待させといてからに……。


――ともかく、うちはこの通りピンピンしとる。ただのぉ、お兄の予知能力には勝てんわ。

――さっきまでちょいと色々あってのぉ……うちも結構危ない目にあったけど、何とか無事に帰って来れたっつー訳じゃ。


――……え、何じゃ?デュークはんにメグはん?おぉ、さすがお兄、予知能力ビンビンじゃのぉ。

――じゃけど、何がどうしてこうなったかまでは分からんじゃろ?じゃけぇ、今度久しぶりに帰ろうって考えとるんじゃ。たっぷり話したいことが出来たけぇね!


――じゃろ、今回ばっかはお兄も興味あるじゃろ?家に帰ったら、ぎょうさんお話したるけえの!


――ほいじゃ、最近お天道様がチャランポランじゃけえ体気をつけての。ま、お兄はアレじゃけえ大丈夫だろうけどの。


――べーだ。 じゃ、またの!


=======================================


 夕日に染まり始めた墓の前に、二人の男が立っていた。青い短髪に赤いネクタイ、スーツを着込んだその姿は双方とも鏡のように全く同じ。先ほどまで互いに一つの墓で静かに祈りを奉げた時間も全く同じであった。

 ただ、その後に声を出したのは一方の彼だった。今回の一件で、本当に解決したのだろうか、と。言葉は質問調だが、双方ともそれに関する答えは同等であった。むしろ、解決はしていない、という答えを再確認するためだったのかもしれない。確かに犯罪組織は今回の一件でほぼ壊滅し、各地に及んでいた被害も消えるだろう。クリス捜査官と三人のデュークも、去り際にそのような事を言っていた。だが、今の自分がここにいる以上、いくらこれまでの「犯罪組織」の犯した罪を消し去ろうとしても、一つだけ絶対に消せないものがある。

 時のパズルは恐ろしく強固なものだ。どこか一つでもパーツが欠ければ、完成図とは全く異なった絵が出来上がってしまう。この勝利の図には、彼らの姉の命という大きな犠牲を欠くことは出来ない。もう二度と、彼女が戻ってくることは無いのだ……正確に言うと、「生きて」もう二度と、だが。


 だが、ここで立ち止まることは出来ない、と二人は言葉を交わした。この場所に骨を埋める姉も、恐らくはそう思っているはずだ。一つのことに執念深くなるのは自分の良い所かもしれないが、過去に囚われてそこで立ち止まるというのは「執念深さ」ではなく、ただ臆病なだけ。人によっては手を差し伸べる必要があるかもしれないが、自分にはそのような助けは不要。そういう借りを作られると、後が面倒だ。それが、二人の彼……有田栄司の結論であった。


 勝利記念のパーティーはもう少し後、しばらくはこの平和な世界を堪能するまでだ。


 墓標を前に一言礼を残し、青い影は一つに戻り、静かにその場を後にした。


=======================================


「はい、お疲れ様」

「いやぁ、センセ本当にお疲れ様だったべー」

いでで…龍之介力入れすぎだぜ……。俺の肩が吹っ飛んじまうじゃねえかよ……。

「あわわ、センセすんませんだ……」


それにしても、『メグさん』のアドバイス、本当に役に立ったぜ。本当危機一髪だったからな……。

「えへへ、でしょー?経験者は語る、よ?仁君」

経験者って……あのときの解決方法は違ったんだろ?俺も龍之介もいなかったし。

「ぎくっ……ま、まあそれは置いておいてさ」


「だども、なしてメグさんははっきりと言わなかっただ?例のワクチンが大事だって……」

おいおい龍之介、今さっき言ってただろ?メグさんが同じ事を経験した時に、俺たちは『いなかった』んだぜ。

「そうそう、私の時はデューク一人が治してくれたんだけどさ、多分こっちだと仁君が黙っちゃいないなと」

「そっか……いやこれは失礼しましただ……」


……とは言え、これでだいたいは俺たちの『仕事』は完了、っていう訳か。いやー、何年もかかったぜ……。

「私たちの付き合いも結構長いわよね……どこの世界だったっけ、初めて会ったのは」

「うーん、長すぎてオラも覚えてねえだよ」

さまざまな宇宙を彷徨うさすらいの探偵さんと会って、俺たちも結構経つからなー。

「そうそう、この宇宙から遠く離れた、全く別の地球で……」

「オラとセンセが、メグさんとデュークさんと出会って……」

そのお陰で、俺たちはこうやっている訳だけどな。

「そうそう、メグさんにこの世界を斡旋してもらったべなぁ、動物病院が開けるって」

しかも病棟とかもデュークさんたちにお世話になったし、メグさんたちには頭が上がらないぜ俺たち、なぁ……。


「うーん、でも礼を言いたいのは私たちの方よ。完全に二人を我がままにつき合わせた格好じゃない、結局」

いや、気分は凄い分かるぜ。ちゃんとメグさんの願い通り、「メグちゃん」は行動をとった。それにあの時、しっかりと言ったんだろ?

心配しないでもいいぜ、ちゃんと未来は変わったんだよ。

「あの時こうすれば良かったって言うのは、オラだってよく考えるだよ」

そうだよなー……この世界は、全員にとって最高……じゃなくても、少なくとも不幸になった奴はいないと俺は信じる。


「仁君、龍之介君……」


ま、堅苦しい事は後々!せっかく世界を救ったんだ、この宇宙で一番気持ちいい銭湯でも楽しみたいぜ!

「お、そうだね。ちゃんと向こうにも『私』がいるから、宜しく言っておいてねー」

了解!龍之介、どうだ一緒に?

「さ、さすがにオラが入るとお風呂の水が流れちまうべ……」

たはは、やっぱりそうか……。


じゃ、また後でな!


=======================================


 コンビニの傍で待つ恵とデュークの元に、ブランチと蛍が戻ってきた。一方は動物たちのパーティーを抜け出し、もう一方は親友のサイカを彼女の家へと送り届けるという任務を終えたばかりである。どちらとも相手や仲間との会話をもう少し楽しみたい気分はあったのだが、それ以上に、探偵局の局長と助手と一緒の時間を過ごしたかったのである。サイカや動物たちがそれを察してくれた事もありがたかった。

 そして、恵とデュークの方も、先程まで狐夫婦や狸夫婦、そして単身赴任中の化けムジナと別れの挨拶を交わしてきたところである。今回の一件で、間違いなく彼らとの絆や交友関係も深まっただろう。


 四人の向かう先は、既に決まっていた。


「久しぶりよねー、あそこに向かうのは」

「なんだか凄い長い時間が経ったような気がしますね……」

「数ヶ月もかかった気がして、ニャんだかヘトヘトですニャ……」

「皆、お疲れ様」


 紫髪のボーイッシュな女性、黒い長髪をたなびかせるガーリッシュな男性。陽気な黒猫に、桃色のツインテールの少女。ずっと我慢していたものを開放するかのように、会話が弾み始めた。今回ばかりはブランチも人前で平気で人間の言葉を話し続けている。普段は控えるように注意するデュークだが、たまにはこう言う例外も必要だし、自らの持つ能力を使わないと体が鈍ってしまうからである。

 そんな中、ふと蛍はある事が気になった。確かに目の前にいるのは丸斗恵局長とデューク・マルト助手。間違いなく、自分が尊敬する二人である。だが、そんな姿に不思議な違和感を感じたのだ。決して悪いことではないが、何かが進化した、そんな不思議な感触を受ける。そのことを尋ねようとしたのは、先輩であるブランチも同様であった。


「ニャンかあったんですニャ?」

「なんだか、普段と少し違うような……」


「……ちょっと、ね?」

「ええ」


 結局、見事にはぐらかされてしまった格好だが、それでも蛍とブランチは本物の二人が戻ってきただけでも満足だった。

 

 そして、彼らは目的地に着いた。このドアを開ければ、普段どおりの日々が戻ってくる。ずっと暇だが会話が弾み、悲しいことも忘れてしまう、そんな日々が。


――たっだいまー!


……丸斗探偵局最大級の事件は、こうして無事一件落着となったのである。

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