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173.最終章 作戦・成功!

 現在、二組の恵とデュークが対峙を続けている世界は、異次元世界……『犯罪組織』のビルや建物、この世界に突入した探偵局や仲間たちがいる世界とは少しだけ位相がずれた場所。例えて言うなら、道路と同じ空間を歩く事になる横断歩道ではなく、道路と交わる事のない空間に存在する歩道橋に彼らはいるのである。そのため、例え外側の景色が一面に映ったとしても、そこに触れる事もできないし、立ち並ぶビルに落書きする事も出来ない。当然ながら、ミコたちがどのようにして今の状況を生み出したのか、予知能力が恵には分からない。ただ、彼女の横に佇んでいたデュークは、自らの力で全てを理解していた。


 そして、そんな「外」では…。


「「よっしゃあああああ!!!」」

「ヤッタネ、蛍!」「良かったよー、サイカちゃん!」


 漆黒が消え、青々とした空が広がる異次元空間の中で、飛行船の内部は一段と賑やかになり始めた。祝杯の代わりに、激戦から帰ってきた蛍をサイカがハグでその奮闘をたたえている。その近くでは一息をつくクリス捜査官や狸の親分の奥さん。そして、今回の作戦の中心となり、息も絶え絶えながらも満足な表情の動物たちを抱えて優しく撫でる郷ノ川医師の側で、一番の立役者は自分の愛車の椅子に座ってやりきった様相を見せていた。


「随分時間がかかったな、ミコ」

「しゃーないじゃろーが……」


 言葉はいつもの通りぶっきらぼうだが、無理に感謝の気持ちを伝えられるよりは、こういった日常のやり取りをされた方が今のミコには嬉しい。証拠に、ボロロッカ号の中に入り込んだ栄司の顔も、言われた彼女の顔も、疲れを見せながらも笑みを見せていた。


「ミコさんお疲れー!」

「お疲れさまっすー!」


 そんな二人の後ろから、もう二つ新しい人影が割り込んできた。減らず口を維持し続ける栄司は邪魔だと返したが、それは言葉だけ、体の動きは明らかに狭い車内から二人の邪魔にならないように一旦身を引いていた。「今回」の勝利の直接的な切り札になった、ヴィオ・デュークとスペード・デューク……そして、彼らから離れた場所で、柔らかい壁に寄りかかっているメック・デュークの頑張りも、栄司は彼なりに評価しているかもしれない。

 先ほどまで外に無数に溢れていた偽者のデュークの一員であった過去を持つ三人にも、オリジナルのデュークと同じような形で時空改変能力が維持されている。しかし、偽者のデュークたちと異なるのは、彼らは一度その機能が完全に停止させられたという点だ。彼らの体内に宿っているナノマシンは、その異常事態から彼らを元の状態に復旧させる過程で、そのような事態にならないため、不測の事態に備えるために今までとは少々違う形の回路を形成させた。それが、この作戦においては非常に有効に働いた。彼らの時空改変プログラムは停止せず、そしてそれに連なる「安全装置」は作動しなかったのである。

 

 ミコの突き止めていた「ブラックボックス」の最深部に存在していたのは、ほんの数行の、それも非常に単純なプログラムだけだった。何故そのようなものを、凄まじい量のプログラムで覆い隠そうとしていたのか、今のミコには分かる。凄まじい大きな山からとんでもない大きさの地響きがすれば、その中から飛び出すのが一匹のネズミだなんて誰も信じないだろう。恐らく、研究の過程でこのブラックボックスを作った科学者は自分のような存在をも「思い込み」を利用して防御しようとしていたのかもしれない。しかし、一度その厚い壁を突破すればもはやこちらのもの。解析結果から導き出されたのは、三行目の10文字目以降の数値を入力し、一行目と二行目、及び三行目の最初の2文字が表すプログラムを全てのニセデュークから削除する事で、時空改変回路のみならず、デューク全ての行動を停止させる事ができる、というもの。言わば、彼らに対する安全装置のようなものである。そして、先ほども言ったとおりこちら側の勢力にいる三人の「デューク」はプログラム再生の過程でそれらの装置が失われている。影響を受けない彼らの時空改変を利用すれば、偽者のデュークに備わっている時空改変用の生態ナノマシンに直接その消去プログラムをぶち込む事も可能、という事である。そして、その結果が……


「うわー、ホントに硬いですニャー、つんつん」

『全く……汚らわしい脚で触るな、猫め』

「まぁまぁ、落ち着くでござるよ……」


 動物たちが集まる先にある、デュークの形をした「岩」である。まるでダイヤモンドのように、偽者のデュークが白い結晶と化してしまったのである。当然ながら、触っても何の反応もない。調子に乗りかけているブランチが猫パンチを顔面に食らわせようとしていた時、飛行船の中に低く響く大きな声が流れ始めた。今回の作戦における探偵局や仲間たちの根城である、「飛行船」に化けた狸の親分だ。


『ヴィオ君たちからの情報で、局長が向かったビルは既に把握している。

 今から、一気に彼らを助けに行こうと思うのだが、大丈夫か?』


 先ほどまでずっと続いていた激闘で、皆の顔からは疲れの色が浮き彫りになっている。しかし、もう一つの目標を終わらせない限りは、この空間から脱出しても何の意味もない。皆の答えは、勿論一つである。

 そして、改めて気合を入れ直そうとした、まさにその時であった。



 ……飛行船の内部で「石」になったデュークから、欠片が一つ零れ落ちた事に、最初誰も気づかなかった。当然だろう、その大きさは顕微鏡を使わないと見えないほどだったからだ。しかし、そのような大掛かりな道具を使わずとも、この欠片の姿は肉眼でも確認できるようになってきた。そう、ほんの数秒で。

 そして、突然目の前に現れた存在を見て、誰もが仰天した。


「…え、え…きょ、局長!?」

「め、め、め、メグはん!????」


 紫色のショートヘア、すらりとした体系、少年のような笑顔、そして彼女の性別をこれでもかと表すふくよかながらもしっかりと整った形の胸。先程皆で救出しようと決意したはずの存在が、突然一同の目の前に姿を現したのだ。まるでどこかのアニメが起こしてしまったミスのような光景だが、皆は喜ぶどころか、突然の状況に慌てふためき始めた。特に、栄司や郷ノ川医師といった男性陣や、蛍やクリス捜査官といった真面目な性格の女性陣は、突如現れた「恵」に一番動揺している。動物たちもその反応を聞き、何事かと騒ぎ始めた。

 しかし、そのような状況を見ている局長…いや、恵はただ微笑み続けるだけである。


「あ、あの……」


 意を決して蛍が声をかけたとき。


「うふふ♪」


 彼女を始め、一同の背後からもう一つ、同じ笑い声が聞こえ始めた。次第にそれは、数を増していく。


「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」


 どういう事だ、と必死にミコや栄司が声をかけるも、次々に船内に現れ始めた「恵」はずっと微笑み続けているだけ。一体どうなっているのか、さすがにこの「恵」が何かがおかしいと感じ始めた、その時であった。突然、飛行船の外から二人の男と一人の女の大きな悲鳴が聞こえてきた。恵の体を掻き分けたミコや、動きのすばやいブランチが、面々の中で最初にその光景を目撃してしまった。そして、二人からも外にいる三名……ドンとエル、そしてジュンタと同じくらいの悲鳴が出た。


『う、うわああああああっ!!!』『きゃあああああ!!』『や、やめてやめてやめてーーー!!』


 ニセデュークを蹴散らし、彼らの動きを封じた後も、化け狐と化け狢の三名に関しては念のためという事を考え、怪獣やロボットを思わせる巨体の変化状態を維持し続ける事になった。地面に折り重なった、何十億もの頑丈な「岩」を砕きながら飛行船が安全に飛行できる通路を確保するのも理由である。だが、その方針がまさに仇となった。三名の巨体のあらゆる場所……手足、背中、顔、尻尾、頬や首から、次々に「紫色」が湧き出ているのだ。それらの箇所に共通するのは、全てニセデュークを粉砕したり撃破した際に彼らに触れたり、返り血を浴びたり、攻撃を受けたり、と様々な形で彼らの体の「欠片」を受けた場所。ほんの僅かな欠片だが、押しのけても押しのけても次々に「紫色」は微笑を維持したまま現れ続ける。何人も、何十人も、何百人も、そして何千人も……。まさに、恵局長が一番得意とする手であった。


 最悪の事態をミコが予知し、ヴィオやスペード、メックの心に氷が突き刺さった時には、既に遅かった。

 大量の「岩」が埋め尽くしていた大地、「青」い空が戻ってきた空のあらゆる場所で、「紫」が現れ始め、あっという間にその範囲を広げ……


「あはは♪」


「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「あはは♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」「うふふ♪」…


「な、な、な、何よこれえええええ!!!」

「そ、そんな……!」


 その光景を見て、恵局長は最大限の悲鳴を上げ、デュークも驚愕の表情を見せていた。

 先ほどまで青色で包まれていた空は、今や「恵」一色でぎっしりと埋め尽くされていた。凄まじい洪水は一秒ごとに深さを増し、今や空間の外に映し出された景色には、数え切れないほどの「恵」が蠢いている。しかし、その恵は、「恵局長」ではない、別の自分自身という事実が、恵を驚愕させていた。

 そして、見事に予想通りの展開を繰り広げさせる事に成功したもう一組のメグミとデューク……『犯罪組織』に所属する彼らが、二人に種明かしを始めた。こちら側の『作戦』が成功した以上、隠す必要はもう無いからである。


「悪かったねオリジナル、このことを秘密にし続けて」


 悪戯っぽい口調のコピーのデュークに続き、オリジナルのメグミが偽者の恵に目線を据えて言った。


「確か、そっちの私は血の一滴からでも増える事ができるんだっけ?」

「そ、そうよ……それが何か?」

「ふーん……。デューク、昔貴方が言ってたの覚えてる?『コピーはオリジナルに敵わない』って」

「た、確かに言って……ま、まさか……!」


 普段こういう状態の時は助手に頼りっぱなしの恵局長だが、今回ばかりは何も言わずともデュークが驚いた理由がすぐに分かった。確かに自分は以前のパワーアップのお陰で、血液一滴からでも思い通りに自分自身を再生する事が出来る力を手に入れている。しかし、あくまで丸斗恵局長、及び丸斗恵捜査官は、この犯罪組織にいる「メグミ・マルト」を基にデュークが作り出した、言うなれば偽者のマルト・メグミという訳だ。


 そして、『犯罪組織』の口から、計画の全容が明かされた。


 全ては、犯罪組織側の掌の内にあった。ミコがニセデュークに封じ込められている鍵を解いた時、もう一つの鍵が開いてしまった。生物の中には、いくつかの遺伝子がスイッチのように働き、一方の動きが止まればもう一方の動きが始まるといったものが見られる。ニセデュークの体内に刻まれていたナノマシンが遺伝子を基にした「生体ナノマシン」であり、本物の遺伝子にも密接に結びついていたというのも大きかった。


「……何が言いたいのよ……もっと分かりやすく言ってよ……」

「そうよね、私もよく分からないところも多いし、詳しい事はデュークに聞いて。

 でも、簡潔に言う事は出来るわ。


 私は、全ての『デューク』の、全ての細胞にいたのよ」

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