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160.最終章 史上最大の依頼

「……ごめん!ほんっとーにごめん!」


 久しぶりに会う探偵局の仲間たちに、まず恵はたっぷり頭を下げて今まで彼らにかけてきた迷惑を謝罪した。


 彼女はずっと、仲間たちとの連絡を断ち続けていた。いつも元気で能天気、お調子者で怠け者、しかし正義の心は熱い彼女の心は、あの日完全に地に堕ちた。長い間曖昧のままであった自分自身の過去が、そもそも『存在しない』という事実を突きつけられ、自らの存在意義が崩壊してしまったのである。混乱と破滅が脳裏を支配する中で、彼女はずっと探偵局から離れ、ずっと別の場所で籠り続けていたのだ。

 だが、今の恵にはあの時のような自分自身を追いやるような気持ちはすっかり無くなっている。


「で、その分の慰謝料は?」

「ある訳ないでしょ」


 ミコの痛烈だが明るいボケにも厳しくツッコミを返す余裕も戻っている。当然、さらに毒舌家である栄司からの言葉にもおふざけ半分で対処できる。間違いなく、ここにいるのは丸斗探偵局の局長だ。本音がぶつかり合いながらも、その中に互いを信頼する心が見え隠れするこのやり取りに、かつて本音をぶつけ合い、互いの命を奪い合おうとしていたヴィオとスペードは改まった気持ちで恵局長を見つめていた。彼らデュークのボスと恵は、オリジナルかコピーかの違いしかない存在。どちらも何かしらの形で、自分たちのような不思議な存在を惹きつける何かがあるようにも思ってきた。

 そんな中で、改めて蛍たちは彼女に尋ねた。この飛行船の正体である狸の親分たちと合流出来た、というのは真っ先に恵局長の口から出た事実。では、その前は一体どうやって親分たちの飛行船に辿りつく事が出来たのだろうか。まさか松山に遠出までして行方をくらましたのか、日ごろの行いをただすためにお遍路周りにでも行ってたのか、すぐさま彼女の疑問に勝手な推理を並べ立てるブランチとミコの二人の探偵は、当然ながら本人から文句を言われた。


『全くだ、不潔な猫どもは黙っておれ』

「今回ばかりは拙者も擁護出来ないでござるよ」

「み、みんニャひどいニャ……」


 どこまでも一言多い黒猫がまたもやしょげたのはさておき、恵局長が合流に成功した要因は、単に自分だけが先へ進んだからではない、と彼女は語り始めた。あまり深くは言えないが、自分が思い悩んでいる間、ずっと面倒を見てくれた人がいた。最初ははっきり言って拒絶したくなるほど、親身になって対応してくれた。そして、少しづつ自分自身の元気が戻って来た時、彼女が発破をかけてくれた、と。恵の記憶には刻まれていないが、彼女に「母親」がいたら、きっとその人のようなものを言うのだろう、と付け加えた。

 

「というか、深く言えないってのはどういう事だ、恵」

「え、だって言うなって言ってたんだもん、仕方ないでしょ」

「そうだぜ栄司さん、今は重要な問題じゃないだろ?」


郷ノ川先生の助け船には、栄司も黙らざるを得ない。確かに、その人が誰か分かった所で、恵がここまで来る流れにあまり重要ではない要綱である可能性もあるのだ。それに、相手側が言えないとなればさしもの栄司も深く突っ込もうとはしなかった。彼の疑問で話は中断したが、恵は改めて続きを言おうとした。だが、その後の話を語るのは、彼女だけでは無かった。


「その後、恵さんはその場所から徒歩でこちらへ向かいました。その途中で、この狸の親分さんと合流した、という流れですよね? 」


 そう言いながら、いつの間にか彼女の横に現れていたのは、時空警察のクリス捜査官であった。仕事柄か、度々彼女はこうやっていつの間にか話の中に割り込み、自分のペースに持っていくという場合が多い。一緒に町の中を飛び回り、一緒に逃亡劇を乗り越えたはずのヴィオとスペードも、彼女の事をすっかり忘れてしまっていた。ただ彼らの場合は単にぼーっとしていただけという可能性もあるが。

 突然のまとめに会場はしらけ交じりの静けさが包んでしまったが、ともかく何事も無しに無事に恵が到着した、という事は分かった。ニセデュークからの襲撃も無く、公園に辿りついた所でその上空に巨大な飛行船が現れた、と言うのである。ただ、どうしてその場所に現れると言う事が分かったのか、という疑問が湧きあがる。一つ物事を勧めていく度に、何かしらの形で質問が飛び交っていた。そして、それに応えるべく恵にはもう一人重要な助っ人が控えていた。


「私が偶然、『私』と会ったのよ。だから案内した、ってわけ。

 それで、皆の所に向かおうとしたら……」



 ……数分前、同じ場所で恵が口に出した文章とそっくりな文面で、同じ声が皆の耳元に響いた。

 最初、これがどういう事を示すのか、多くの仲間たちは理解していなかった。恵局長の特技は、自分の数を無尽蔵に増やし続ける事が出来る「増殖能力」。全員が遺伝子の一部分、そこに刻まれた情報の発現までありとあらゆる部分で同一という、分身を超えた能力である。それを知る仲間たちにとって、恵がもう一人現れた事に違和感を持つものは、その様子を始めて間近で見て少々困惑気味の町の動物たちくらいであった。だが、すぐにブランチは、この「恵」が何者かに気付く事が出来た。ただしそれを口に出す前に、先に「恵」の方から動き出したのだが。


「ブランチ君に蛍ちゃん、久しぶり♪」

「…あぁ、アニャザーの恵さんだニャー!」

「お、お久しぶりです!」


 早速握手で再会を喜ぶ蛍の一方、この「恵」の事をよく知っているミコと栄司は困惑気味の狐夫婦やジュンタ、それに動物たちに彼女の事を簡単に解説した。

 今回の騒動の発端であり、全ての根源であるデューク・マルトの力は、恵局長やニセデュークのような命をも簡単に生み出してしまうというのは皆さんも承知の通りだろう。しかし、彼によって創造された「丸斗恵」は、一人だけでは無かった。彼の脳内に生まれながらにして組み込まれている時空改変を司るタンパク質製のナノマシンが一度故障した際に生み出してしまった異次元で、もう一人の恵局長が創造されてしまったのである。元の局長よりもデュークを慕う思いが強い彼女は暴走し、世界を埋め尽くした彼女からデュークは命からがら逃亡した。しかし、その後も世界はそのまま残り、「一人ぼっち」になってしまったもう一人の恵……「アナザー恵」は、世界を飛び越えてデュークの元へと戻ってきたのである。


「まあ詳しい事は本編の67話から81話まで読んだら分かるじゃろ」

「説明省くなおい」


「と、ともかくその後にそっちの恵さんは時空警察にスカウトされて…」

「そ、今は時空警察の捜査官をやってるの。今回もクリスさんと一緒にその件でこっちに来て、『私』と合流したっていう訳」

「ええ。そちらの恵さんは『局長』、こちらの恵さんは『捜査官』っていう事です」


 時空警察の方が儲かってそうでちょっと悔しいと軽口を言いつつ、恵局長は恵「捜査官」と笑顔を交わした。正直、自分の過去に対して向き合う強さは恵捜査官の方が上だった。デュークに生み出されたという過去を自分の糧とし、逆に彼をいじり倒したりしているのを、彼女が探偵局にいる間、蛍やブランチは何度も見ていた。もしかしたら、もう一人の自分を気づかない所で舐めていたのかもしれない、と心の中で局長はこっそりと思った。

 そして、この場にいないがもう一人、この合流に至るまで裏で協力をしてくれた者がいる事をクリス捜査官は語った。てっきりヴィオとスペードは、彼女のアシスタントであるロボットのロボットさんもこの場に来ているものだとばかり思っていたが、格闘漫画張りの戦いが予想される今回の事態には力不足であると考え、未来で裏方に回る事にしたと言う。ロボットさんが未来世界から恵捜査官の元に情報を送り、合流が出来たのだ。

 

 なるほど、と取りあえず皆が納得した所で、先程までうずくまっていた町の野良犬の一匹が何かに気づいたように吠え始めた。捕食者でもある犬が少々苦手な狐夫婦は驚いてしまったのだが、別に食べる訳では無く、ブランチに通訳を頼んだだけであったようだ。ただ、彼もまたその事を言われて大変な事に気づいてしまった。探偵局の大事な仲間の一人である、動物たちの憩いの場「ネコ屋敷」の主人である美紀さんの安否がまだ報告されていないのである。

  少しざわめく飛行船の中だが、すぐにその問題はメックによって解決された。ニセデュークによって町が乗っ取られた……言い方を変えると「町が奪われた」際、彼女はターゲットから外されたと言う。すなわち、彼女に危害は与えられていないという事だ。仲間の無事に安堵する一同だったが、決して安心はできない、と彼やクリス捜査官は釘を刺した。


「先程逆算してみたのですが、丁度犯罪組織の『私』によって町が完全に奪われた時間は、恵さんとこちらの狸のご夫婦が出会った直後のようです。正解でしょうか、捜査官?」

「ご心配なく。つまり、そこから先は完全にあの町は皆さんの知る場所では無くなっています」


「へー……じゃあ、あたしたちってぎりぎり間に合ったって事?」

「狸サン、ギリギリセーフダナンテスゴイナァ…」

「違う違う、逆。全然凄くないよ」「むしろ狸さんたちも『僕』にマークされてるんすよ!」


 ヴィオとスペードに自分の考えを訂正され、サイカははっとした。この狸夫婦もかつてニセデュークを打ちのめした事があるし、自分自身も蛍からニセデュークの秘密にかかわる重大な情報を漏らされてしまった身だ。恐らく彼らの言う事に間違いは無いだろう。ここにいる町の動物たちやイワサザイの亡霊のような存在は半ば巻き添えという形なのだが、ここまで事態が進んでしまった以上、もう町に戻る事は出来ないのは確かだ。


『…つまり、進むしかない、という事だな?』


 室内に、低くて渋い声がこの会議をまとめるかのように響いた。この大きな飛行船に変化している、狸夫婦の旦那である坂上玄、狸の親分である。今、「彼」の周りにはヴィオとスペード、そしてメックが張った擬態用のバリヤーが何重にも張り巡らされ、「町」の遥か上空でデュークに見つかる事が無いように待機している。ただ、これがずっと続くものではないと言う事は、ここにいる大半の面々は痛感していた。それに、先程までずっと彼らはこの場所から抜け出すべく、前に向けて進み続けていた。そしてそれでも逃げ場が無いと分かった以上、やる事はたった一つしかない。


「随分と大きな話だなぁ、局長さん」


 二人きりで始めた丸斗探偵局が最初に協力関係を築いた外部の人間である郷ノ川医師が、感慨深そうに恵局長ら探偵局の面々に語った。何が言いたいのかを彼は敢えてぼかしていたのだが、その中に秘められた真意はすぐに周りの面々にも伝わっていった。隠れ里の狐の歴史でも、ここまで大規模な物は滅多にない、とは狐夫婦のエルの言葉。長生きすると興味深いものを見るものだ、というイワサザイの亡霊の言葉にはすかさず近くにいたジュンタが突っ込む。探偵局と関わると碌な事が無い、とまたもや悪口を言うミコと栄司だが、その顔には一切の悪意も浮かんでいなかった。

 そして、次第に皆の視線は、ブランチと蛍、そして恵へと向けられ始めた。


「……ホタル?」

「……うん」


サイカの言葉に蛍が頷いた。


「ブランチ殿……」

「心配ニャいニャ」


カラスの目線にブランチは元気そうに返した。


「どうする、私?」


そして、もう一人の自分からの言葉に…


「……分かったわ」


恵は、自信満々な顔を見せた。


丸斗探偵局に、本当に久しぶりの依頼が入った。恐らくこんな規模なものは金輪際無いだろう。

内容は二つ。丸斗探偵局助手であるデューク・マルトの奪還と、『犯罪組織』の撲滅。

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