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157.最終章 集結・丸斗探偵局 後編

 恵局長はいつも助手のデュークの扱いが荒い。いざという時は頼りにしているとは言え、時空改変で無茶が可能なのをいいことに面倒事を押しつけたり、彼に任せてだらけたりばかりであった。さらには勝手に変な事を言い出して真面目な彼を混乱させたり凹ませたりはもはや恒例行事。蛍やミコも毎回突っ込む事態となっている。

…今、そんな彼女が見事にデュークと同じ扱いを受けかけていた。つい先程まで、皆注目が助手の方に向かい過ぎてしまい、肝心の局長について頭から離れてしまっていたのだ…。


「そ、そういえば結局連絡も何も…」

「全くだニャ…ニャんにも…」


再び探偵局の二人は落ち込んだ顔に戻ってしまった。サイカも友達のそういう顔を見ると悲しい気分になってしまう。元気出して、と言おうとした時であった。


「なんだ、あいつか…」

「放っといてもついてくるじゃろ」


…恵を一番ぞんざいに扱おうとしていたのは、彼女と一番関わりのあるはずの二人…有田栄司と陽元ミコであった。当然蛍とサイカは突っかかった。大事な仲間ならもっと心配してもいいはず。どうしてそんな酷い事を云うのか、と。だが、ミコはだからこそこういう扱いをするのだ、と返した。彼女のタフさと図々しさなら、自分の出生という問題など乗り越え、言われずとも堂々とやって来るだろう。まだ彼女が恵から借りた金を返却していないという理由も加えて。栄司もまた、彼女と同意見のようだ。

当然ながら、ミコと恵の仲をよく知らないジュンタやカラス、そして蛍はまだ納得いかない。ヴィオとスペードは、彼らのオリジナルが局長にぞんざいに扱われる時の目つきをクリス捜査官に向けている…。


「ま、まあ落ち着いてくれみんな…」


色々な思惑が絡んで賑やかになり始めた場を何とか抑えたのは郷ノ川医師だった。

丸斗探偵局が初めて協力体制を結んだ彼は、長い付き合いの中で恵局長の扱い方をよく分かっていた。いつも見栄ばかりで威張っている彼女だが、その内面は案外恥ずかしがり屋な所はある、と言った。


「あいつは人の涙見るのが苦手なんだよ。だからハッピーエンドを目指す…デュークが理想としてる事なのかもしれないけどな。だからだろ?」

「ま、そういう事っすよ。だいたいあいつにもっと褒めろとか言われると腹が立つんす」

「え、栄司さん…」


…完全にいつも通りの栄司だ。そして、ミコも郷ノ川医師も。

その様子を見て、クリス捜査官も動物たちも何となく理解できた。色々崇高な思いも必要かもしれないが、やはりこういった大きなプロジェクトに挑む時は自然体で行くのが一番なのかもしれない。それに、彼らは言葉だけでは彼女を見放したようにも聞こえるが、それは裏を返せばきっと大丈夫だと言う信頼の証。

とは言え、さすがにあれは言い過ぎだと蛍は一応二人の協力者にくぎを刺しておいた。彼女もようやく元の真面目で少々頑固な性格を取り戻していた。


「そういえばメックもまだ来てないよね…」「そういえばそうですね」

「メック…誰じゃそれ?」

「覚えていますか、貴方達が前に対峙したニセデュークです」

「…ああ、あいつっすか」


時空警察の任務という形でこの世界に再び降り立ったデュークは、ここにいるスペードとヴィオだけでは無い。もう一人、かつて様々な機械を利用して探偵局を陥れようとしながらも敗北し、身柄を拘束された存在がいた。彼もまたオリジナルの前に降参した際に自分の罪を知り、その懺悔のために各地を回り続けていると言う。そして、その彼と共にやって来たのは、クリス捜査官と同様時空警察に務める…


「え、じゃああのメグはんも来とるのか!」

「もう一人の恵さん…か」「な、なんだか凄い人ですわね…」


彼女もまた、本物…丸斗探偵局でずっと彼らと関わってきた恵と同じようにデュークによって生み出された存在。しかし彼女はそのような特異な出生を逆に自らの武器としている。彼女と何かしらで張りあいがちであるという事も、きっと局長が言われずとも無事に辿りつくであろう、という安心感を生み出していた。

もしかしたら、メックは何かしらの形で合流しているに違いない…と話が進もうとした、その時であった。突然、目つきをかつての悪霊時代の如く鋭くしたイワサザイの亡霊が、皆に静かにするように言った。一体どういう事なのか、ブランチや街の動物、ドンやエル、ジュンタを始めとする野生の勘の持ち主たちは感じ取り始めたようだ。そして、彼ら以上にヴィオとスペードは異変を察知していた。やがて、他の皆も何かが外でへし折られ始めているような不気味な音が少しづつ大きくなり始めている事で、この廃工場での会議はここで終了しなければならないのに気付いた。


「…来ましたね」

「おい、バリヤー張ったんじゃねえのかよ…」

「張ったのは『僕』だよ?『僕』の作ったバリヤーの解き方を『僕』が忘れるわけがない…」



どんな複雑なパスワードを作っても、忘れない限りはどんな複雑な方法でも結局「自分自身」には開かれてしまう。音が数個どころか何十何百と不気味なハーモニーを作り始め、もはや一刻の猶予も無い事を皆に告げていた。

真っ先に行動を起こしたのは、化け狐夫婦のドンとエル、化け狢のジュンタであった。自分たちの元から一旦離れろと言うや否や、手持ちの鞄からそれぞれ一枚の葉っぱを出し、それを頭に当てた。そのまま宙に飛び、一回転した彼らを見つめる皆の目線は、次の瞬間驚きに変わった。犬や猫の驚きの声が響き、サイカが悲鳴のようなびっくりを表す声を出す中、廃工場の中に現れたのはとんでもない代物だった。


『さあ、早く乗ってくれっすよ!』「急いでください!」


デュークたちには劣る部分もあるが、元々彼の時空改変能力のベースとなった事象の一つが、食肉目(ネコ目)の動物が特異的に有するこの変化能力。封じ込められている遺伝子が発現している状態ならば、彼らはどんなものにも変身できるのだ。

今、三名はまさに脱出と逃亡にふさわしい巨大な乗り物に変わった。ドンは大馬力の巨大トラック、ジュンタはそれに引っ張られる大容量の巨大トレーラー、そしてエルは凄腕のドライバー。ミコの愛車であるボロロッカ号を乗せてもまだ十分空間があるほどの巨大さだ。このような非常時ぐらいでしか公道を走る事は不可能だろう。

ともかくこうなってしまえばもう怖がってなどは要られない。とにかくこの場から逃げるのが最優先である事を感じ取った一同は急いで少々薄暗めのトレーラーの中へと入って行った。先程までの中で足をくじいてしまったという老犬も、郷ノ川医師が抱えて乗せることに成功した。そしてもう一つ…彼も大事な「相棒」と共にトレーラーの中へと。


『よし、全員乗ったか!?』「大丈夫です」「ちゃんと全員揃っとるでー!」

「ブラックボックスも無事です!」「それも肝心だニャ!」


大自然に漂う霊力を駆使したクリーンな大馬力エンジンを吹かし、エルがアクセルを踏み込んだのと、ヴィオが張ったバリヤーが一気に破られ、そこから一斉に大量の黒い影が空間を埋め尽くすかのように侵入したのはほぼ同時だった。幸い、先制を切ったのは探偵局側の方、ドンの化けた強靭なトラックのボディは、時空改変の隙をついてニセデュークを数名はね飛ばすのに十分の強さだ。


だが、安心できるという保証は一切ない。既にこの町には大量のデュークが侵入している。


「…ネエ、ドコヘ逃ゲルノ…?」


…心配するサイカの声に、まだ誰も回答は出来ない状態だった…。



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…そう、彼らはまだどうこの状況を打破できるか分かっていない。どうやって異次元に突入するのか、本当に大丈夫なのか…。

その疑問の鍵を持ち合わせている存在は今…


『…そうか、お前たちは…』

「ううん、心配しないで。私はもう大丈夫」


『さすが局長、強いんだね』

「そうよ、だって『私』だもん。これくらい強くないと、ね」

「ええ、その通りです」


…空高く飛ぶ、飛行船の中にいた。

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