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123.呪われたブランチ ~鳥たちの「呪い」?~

…話は、探偵局のメンバーがまだ三名、それも栄司と出会う前の頃に遡る。話数で言うと「18.ネコ屋敷を攻略せよ・4 ~三人目の探偵~」か「19.聖夜は再び 前編」の間と考えて頂くとありがたい。

冬将軍が張り切る町の中で、一羽のカラスが倒れているのを見つけたのはブランチであった。探偵局の一員になったのだからと寒い中でも強制的に連れ出された彼だが、大事な動物たちがあのような事態になっているのは見過ごすわけにはいかない。ただ、タイミングをもし間違えたら危うく彼もあのカラスと同じ事態になるところだった。道路の真ん中で血を流しながらうずくまっている様子と、近くに散乱しているコンビニの袋と弁当やお菓子を見る限り、マナーの悪い人間が捨てた食べ物の残りかすを狙ったがためにこのような事になってしまったようだ。

幸いデュークが急いで辺りの時間を一時止めたため、ブランチは何とかそのカラスを助け出す事に成功した。最初は向こうも突然当たりの様子がおかしくなった事に戸惑い、痛々しい体を引きづりながら逃げようとしたが、駆け付けた主を見て、安心したかのように倒れ込んだ。


すぐに時空改変で止血や痛み止めはしたものの、これ以上の時空改変は逆にカラスにとっては良くない事態になるかもしれない。ここはやはりプロに頼むのが一番だ。デュークが取り出したガラケーを借り、「数十分前」の郷ノ川医師に急いで恵は連絡を取った。過去の時間にあらかじめ連絡をしておけば、相手側もしっかりと準備を整えてくれるからである。そして、準備ができたと言う返信が来るや否や、急いで探偵局の面々はカラスを連れて動物病院へワープした。既に恵は慣れているようだが、まだ当時は新入りだったブランチの方はそれこそ入院患者のように茫然とした顔を見せてしまっていたようだが。


怪我はかなり酷いものだった。もし後少し当たり所が悪ければ、それこそ脳みそが貫かれて即死だったと郷ノ川医師は告げた。デュークの時空改変の応急処置のおかげで、生死の危機という事態は免れていたのは不幸中の幸いだったかもしれない。医師の手際良い治療は、動物相手でも人間相手でも全く変わらず、カラスの傷を丁寧かつ的確に治療していた。細菌が入らないように小さな包帯を巻き、透明なシートで外傷を防いでいるようである。

そんな中、そのカラス…彼女を一番心配そうに見守っていたのはブランチであった。少し前までは彼女たちを始めとするカラスたちも纏め上げていた「親分」として、このような事態は非常にショックだったようで気が気でない様子である。本当に傷は直るのか、もう一度空を飛んでくれるのか…恵やデュークの励ましも、彼の心の動揺は抑えきれなかった。

治療を終えたカラスはそのまましばらくこの動物病院に泊まる事になった。無事に治り次第、そのまま空へと帰る事が出来るという処置月である。あくまで彼女は野生の存在、自分たち人間の医者が関わるのはこういった治療の場合のみにしたい、と郷ノ川医師は告げた。そして、そのまま眠っているカラスを心配そうに見つめながら、ブランチは探偵局の面々と共に去って行った…。


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「それで、治ったって連絡が来たのは…」

「12月の30日、大晦日の前日ね」


前述の「19.聖夜は再び 前編」の直前になって、嬉しい一報がブランチに届いたという訳である。その話に、探偵局のテーブルの上に立つそのカラスも頷いている。あの時は親分に何もお礼が言えないままであった彼女も、年が明けた後に無事ブランチにお礼を言う事が出来、以前よりも素早く空を飛べるようになったようだ。最近この町でカラスの死亡事故が無くなったのも、彼女や仲間たちが他のカラスたちにこの事を教えたためだとか何とか。

ともかく、初めて聞く話に蛍は感心の顔を見せていた。普段はすっとぼけてお調子者、夏は扇風機、冬はこたつですぐに丸くなるブランチだが、彼は「親分」としての実績と誇りが備わっていた。彼女にとっては種類を通り越した頼もしい先輩格である。


そのブランチが今、命の危機を迎えている。


デュークの報告によると、この町や隣町など広範囲でネコが相次いで体の痛みを訴えると言う事態が起きているようだ。それも単なる痛さではなく、体全体を突っつかれるような激痛が絶え間なく襲うと言うとても耐えがたいもの。あまりの辛さに衰弱を見せ始めるネコも現れ始めていた。まさにあの時とは真逆の状況、今度はカラスの方が命の恩人であるブランチが心配で気が気でない様子である。澄んだ声で鳴く彼女の言葉はデュークが同時通訳してくれているため、今回は臨時で会議の中に加わる事となった。


「デューク、私たちを呼び止めた理由って何?」

「今回の一件で、少々気になる事がありまして…」


そう言うと、彼は長い髪の毛を一本抜き、それに息を吹きかけて大きな一枚の資料に変形させた。まるで西遊記の世界のような光景が広がり、あの時のブランチ同様がカラスは非常に困惑している。


「心配ないですよ、デューク先輩は私たちよりも凄い力を持っているんです」


…そういう蛍も人の事は言えない、とツッコミを入れつつも恵は資料に目を通し始めた。長い文章や難しい言葉がでるとすぐに飽きる彼女を考慮し、今回デュークはグラフや図形を多めに使い、より分かりやすく事態を説明できるようにしたようである。先程の蛍の言葉を聞いて、一瞬だけ複雑な、どちらかというと少し哀しげな表情をしたのに気付いたものはいなかったが。

さて、資料の中で特に彼女が気になったのは、今回入院する事態になった猫たちがどのように暮らしていたかをまとめた表である。郷ノ川医師に特別な許可を貰ったうえでコピーしてもらったものだが、この図表を見る限りは各地の野良猫に被害が大きいように見える。ただ、彼らのみならず一部の飼いネコでも同じように痛みを訴える者がいる、と言う所が引っ掛かった。そのほとんどが自由に外部へ出る事が出来る生活環境だったのだ。

ただ、それだけでは原因は突き止められない。外に何かしらの要因がある、という所まではデュークも予想が出来たのだが、それ以上となると時空改変を使わない限りは彼も思い当たる節は無かった。グラフの意味はさっぱり分からないが、皆の悩む様子を見てカラスもかなり難しい問題である事を理解したようである。

そんな行き詰った環境を打破するきっかけを見つけたのは、蛍の一言であった。確かにグラフを見る限り、「ほとんど」の飼いネコは外へ出る事が出来る環境にある。だが、ごく稀にずっと家の中で過ごしているというネコが含まれていたのだ。そして、その飼い主に共通するものは…


「えっ、鳥?」

「そういえば、安全上を考慮したうえで鳥と一緒にネコを飼っている人もいると…」


普通はネコが襲う危険性が合ってこういう組み合わせはあまりこの町では見当たらないようだが、動物好きな人にはこのように「猫」とオウム、カナリア、九官鳥などといった「鳥」を一緒に飼う人がいるみたいである。その場合に限って、この謎の奇病がネコを襲った、と言うのだ。


…一瞬だけ、恵の視線がカラスの方へと向かってしまった。どう見ても疑いの視線である事は否定できず、慌ててカラスは首を横に振ってその考えは違う事を表した。恵の方も慌てて謝罪するも、「鳥」が何かしらのキーワードであることは間違いないようだ。


…と、その時。


「…ねえ、そういえばブランチが前に『変な声』を聞いたって言ってたわよね」


動物園に展示されていたニュージーランドの珍鳥「カカポ」の様子を見た時、人間に変身していたブランチが妙な声を聞いたというのを思い出したのだ。あの時は単なる空耳だとばかり思ってしまい、恵はその内容を失念してしまっていた。ただ、それ以外の二人は幸いにもその言葉を記憶していたようである。まあデュークは当然だが、もう一方の蛍の方も妙に強烈な印象が残ってしまったようで、記憶から離れないようである。


「それで、なんて言ってたの?」

「それが…」


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「え、『祝ってやる』?」

「アホかメグはん、『呪ってやる』じゃ!」

「へ、変換ミスよ!」

「文字でしか分からないボケを唐突にしないでください…」


…確かに今回で連載一周年なので本来は祝うべき日なのだが。


ちょうど同じような会話が、ネコ屋敷でも続いていた。こちらはカラスでは無く、ミコが会話に積極的に加わっていたが。

この屋敷の持ち主である美紀さんも、探偵局同様気が気でない状態だった。いつも優しい彼女の事、屋敷の猫たちが次々に痛みで倒れていくのを見て心配のあまり食欲が全く出なくなり、犬やコウモリも心配するほどにげっそりとした表情になってしまった。顔からもいつもの笑みは消え、悲しみと嘆きの言葉しか出てこない。

そして、そんな彼女の傍らで、一匹の黒猫…町の動物の親分格であるブランチが静かに横たわっていた。幸いデュークが取り出した痛み止めと麻酔薬で症状の進行は抑えられたのだが、もし彼がもう一度目覚めた時に、あのような激痛にのたうちまわり、悲痛な叫び声を上げるような事態が襲わないと言う保証は無い。特にブランチを襲ったその症状はほかのネコよりも酷いものだったようで、他の猫は「眠る」だけで済んでいたものが、ブランチに限っては完全に「意識を失う」という事になってしまった。


ただ、それが本当に「呪い」なのか、ということに関して、探偵局内の意見は中々まとまらなかった。呪いと言うのならその根源を断つか、そもそもそれを無かった事にすれば簡単に症状は治まるので病気よりは楽だ、というのがデュークの意見であったが、そのためにはその根源が何かを探る必要がある。蛍がブランチから聞いた言葉が正しいとすれば、恐らく関係するのは例の「カカポ」という事になる。

確かに、カカポがあそこまで希少種になった要因には外来種というものがある。人間と共に移住した多くの動物たちによって、抵抗する手段を持たない古来の動物が次々に狩り尽くされたり餌を奪われたり、多数の種が絶滅してしまっているのだ。だとすると、今回の一件はそのカカポによるものなのだろうか…?ただ、早急に誰かのせいにするというのは決してあってはならないというのは探偵局やミコのモットーである。


「…そうじゃ、そういえば確かデュークはんやメグはんの知り合いに、妖怪がおったじゃろ」

「「…ああ!」」


以前、隠れ里で探偵局と共に大暴れをやってのけた狐の夫婦は、現在この町のアパートに戻って普通の暮らしを送っている。餅は餅屋という言葉もあるが、こういった呪いなどのオカルト分野には、オカルトそのもので挑むというのが一番賢明な手段かもしれない。ミコの判断を、探偵局一同は信じる事にした。

そういえばミコはまだ彼らとあまり面識がない。この機会にぜひ彼らとも交友関係を持ちたいというので、夫婦の元にはデュークとミコが急いで向かう事になった。一方、局長である恵と一番の新入りである蛍は、このまま探偵局の大事な一員であるブランチの様子を見守るという判断をした。


「それでは、ブランチの事を頼みましたよ」

「分かったわ、デュークにミコ」


探偵局側の自分にも連絡をし終わり、二人の探偵は協力者の元へ向けて一瞬でその立ち場所を変えた。


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…そんな頃、この町に住む探偵局の協力者の方も、この異変を僅かながら感じ取っていた。


「…ネコ、最近見ねぇな」


まだ例の奇病の事実を知らない栄司は、事態を軽く受け止めているようだった。

それよりも、今の彼にはもう一つ重大な事がある。自分の人生にも大きく関わりかねない、ある要因だ。その決心を固めるべく、彼は一路墓地へと向かっていた。その場所には、一人の女性が美しい純白の骨となり、静かに眠っている。


有田栄司の姉、その名は有t(※続きは時空改変により消去されました)

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