12.丸斗恵の定例報告 / 登場人物解説・2
みんな、結構寒いけど元気にしてる?丸斗探偵局の美人局長こと丸斗恵です。…助手、笑うな。
私も時々「小説を読もう!」とか「にじファン」とか見てるけど、なんか自分の代わりが欲しいから新しい自分を作る人を見かけるよね。確かにその考えは正しいし、そういう能力持ってる私もたまにしちゃう。でも、基本的にそれって自分を大事にしない、自分に優しくないって思わない?自分を堕落させると、必ず大きなしっぺ返しが来るのが、この世界の鉄則ってわけ。
…え、なんか納得いかない?…もう、そんな困った人のために、今日はちょっとこういう話を用意したわ。これを見て、今日は話を進めていこうかしら。
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この前の事件で私たちに協力してくれたミコって人、覚えてる?あの人年中ホットパンツだけど寒くないのかな…というのはさておき、デュークが持っている盗聴やコンピュータの知識の多くは、彼女から得てるのよね。うちの助手は特殊能力ですぐに相手の情報をコピペするから油断ならない。
ミコと出会ったのは、前の事件みたいにどっかの工場の人が情報漏えいの疑いがあるっていって私たちを頼って来た時ね。まだ探偵局を建ててからあまり経ってない頃かしら…。
助手のいる未来では、盗聴はレベルを変えてより巧妙化してるんだって。なんか位相がどうたら言ってたけど、そんな居候なんて知ったこっちゃない。でも、そのためにあの時のデュークはこれらに対する知識を持ってなかった。確かに時空改変でどんな存在にもなれる彼だけど、ごっこ遊びじゃなくて本気で挑む時にはやっぱり経験が必要なんだって。
…まぁうちの助手が本気出すと宇宙ヤバイというのは多分皆知っての通り。
私もあいにく盗聴まで頭が回ってなかったという事で、ちょっとお世話になってる別の人の紹介で…人なのかなあのおじさん…まぁそれはさておき、ミコに協力を依頼するようになったという事。ただ、あいつはなんでああカンが鋭いんだろう…。デューク曰く時空を固定とかなんとか言ってたけど、要するにゴキブリに対する殺虫剤みたいな感じかしら。デュークがゴキブリだとすると、ミコがその得意分野を封じる殺虫剤。でもゴキブリはそれに対する耐性を身につけて…え、なにデューク、なんで自分がゴキブリなのかって?なんとなく。
そんなこんなで、あれは結局盗聴器とそれに関わるハッキングが全ての要因と言う事が判明、犯人宛にはミコからウイルスがたっぷりプレゼントされたみたい。いい気味だよね。
…さて、ようやくここで本題に入ろうかしら。
デューク、前の資料ある? …ああこの袋、さすが整理整頓出来てるわね、いい助手だ。
…うるさい、私だってたまには整理整頓するわよ。
さっきも言ったけど、今のデュークの盗聴関連の専門知識はミコから得たもの。でも彼女も結構がめついところがあるのよね…報酬で何が欲しいって言ったと思う?特殊能力よ特殊な。しかも何故かよりによって私と同じ分身ときたもんだ…。
どうやらあの時に何人かに分かれて情報捜索を行った私を見てティンと来たらしい。でもね、私はあまりいい気分はしなかったな…。だって考えてみてよ、まずこの分野は私が先駆者なのよ?その私におとがめも無くって変じゃない?…いやデューク、これはあくまで一つの理由よ、まだあるっつーの。
あのね、私みたいな慣れてる人はまだいいんだけど、慣れてない人が分身とかすると絶対碌な事にならない。カンが鋭いはずのミコだけど、あの時は絶対欲に走ってたわね。
分身が専門分野の私には分かってた。ミコ、絶対自分の身代わりが欲しいんだって。そして自分はぐーたら楽をして、儲かりたい。
…ただ結局デュークに押し切られる形で、彼から能力もらう事になったんだけど。あの後だっけか、私が結構本気で彼を怒ったのって。
…いいのよ、私もかっとなりすぎから。まぁ自分が同じ状況だと涙目になるのは当然よね、四方八方から同じ声で説教なんてよっぽど変な体質の人じゃなきゃ怖くて泣くにきまってる。え、私?…私だって嫌だ。
で、やっぱり案の定だった。
あれから数日経って、うちに依頼が来たの。珍しく団体さんかと思ったら、全員なんかフード被ってやってきた。しかも大勢。デュークのナイスアシストがなきゃこの探偵局が満員電車になってたわね…。
そしてフードを脱いだその姿に、私のカンは見事に的中した。全員、ミコだったの。みーんな同じ衣装で同じ髪型。そして皆どこか怒ってる。
原因はやっぱりオリジナルのミコだった。あれから仕事をじゃんじゃん増やして分身たちをじゃんじゃん出して、そしてその分身をこき使ってたらしい。上下関係が生まれちゃったみたいなの。私の場合は情報共有とか出来てるからそういう事はないと考えてほしいんだけど、慣れてないとこういう事態になる事が多い。気がする。
さすがにデュークも自分の起こした事態を重く見たらしい。満場一致で、依頼を受け取る事にした。
「本物の陽元ミコへの復讐及び分身の人権侵害の告発」
そしてここから、作戦報告よ。いやー、結構おもしろかった訳で。デュークにも全面協力してもらって、街の構造ちょっと変えて大掛かりないたずらを仕掛けたわけ。
まず、助手に時空改変でこの街そのものを一旦時間止めて封印した後に、それとそっくり同じ街を創りなおしてもらった。そのままでもいいんじゃないか、って思う人いるかもしれないけど、未来の法律にギリギリ抵触しないでこれをするにはこれが最適なんだって。…まぁ昔相当ワルだったみたいだし。で、その後空き家になってるその家に人を配置。誰って?勿論私よ。デュークのお陰で全員見た目はそこの家の人に見えるようにしてるんだけどね…本物のミコだけには。そして、ミコの分身たちに各場所へ行ってもらって、これで準備完了。凄いでしょ、作戦フィールド完成よ。
さぁ、そこからがまた楽しかった。…え、イタ電?変な事言わないでよ、これが作戦だって言ったのどこのどいつ?
…ま、まぁする事と言えば、本物のミコに電話をかけるだけ。勘の鋭い彼女だけど、やっぱり予想通り、最近さぼってばっかだからえらい鈍ってたんだって。デュークが状況を監視してたなんて全然気付かなかったみたい。
で、その時の内容が「仕事内容の注文」みたいな感じなの。さすがフットワークの軽い彼女、「重要な要件」って言えばすぐにやって来た。さぁこの後が名探偵丸斗恵の見せどころ。クレーマーの如く烈火に怒った私はミコが行った用件が全然上手く行ってない事を散々に言う。慌てるミコだけど全部自分がやったんだろ、って詰めかければもう否定できない。分身がやった可能性もあるからねー。
ま、勿論全部ウソ。ちょっとデュークの力借りて、脳内にその記憶を一時的に作ってもらったからさすがの彼女にも嘘がばれなかった。そして怒った分を直してる時に、彼女の携帯にもう一回別の私が連絡をする。この後は説明しなくてもだいたいわかるかしら。…え、説明した方がいいって?いや、どれも一緒でしょ?行った先でまた怒り、そこからもまたクレームの電話。それの繰り返しじゃない。さすがに10回もすると彼女も頭に来たらしい。怒って分身を呼び集めようとした。
ここからが分身のミコたちの出番。ちょうど彼女がいる傍の家で待機してたミコの分身の一人に、ドアをけたたましく開けて全速力で走ってもらった。こんな状態で大きい声で「コラーッ!!」って言えば、まずい状況をした事が嫌でも分かるでしょう。で、わざと本物のミコがそれを確認しやすい場所でそれをやってもらった。
それを見たミコ、見事餌に引っかかった訳。追いかける彼女の後ろで、また同じような事をやってみた。さぁどうなるか。今度はそっちの方に気を取られる。そしたら次にまた。そっちに行く。そしたらまたまた…。これを何度もやっていくと、さすがのミコも参り始めたみたい。でもまだ反省まで至ってないようだったので、念押しでもうちょっと増強してみた。
本家増殖探偵たる私、人員補給はお任せあれ。あっちのドアからもこっちのドアからも、どんどん自分が出てくるような状況になると、さすがに分身能力を持つ怖さっていうのが身にしみたみたい。だってそうでしょ、やめろって言ってもどんどんと自分が増えて道を覆うあの感じ。私はもう慣れっこだけど、慣れてない人は大変だと思うよ。あの怖がりようを見れば。
…で、後はもうこっちのもんだった。分身たちをこき使った事、自分だけ楽しようとした事。怖かったと抱きついて泣きながら私に謝った。正直謝るのは分身たちの方だと思ったけど、もうその時には他のミコは本物と一体化して消えていた。多分心底反省した事を感づいたんでしょ。だって消える直前笑ってたもん。
その分身たちから貰うはずだった報酬は、ミコの稼いだお金から貰う事になった。
…まぁそこまで多くは無かったんだけどね、正直言って。うるさいわね、金額って大事なのよ。助手みたいな何でもありじゃないのよ私は。
勿論今のミコは分身能力なんて持っていない。デュークに消してもらったからね。でも、それから彼女は結構各地で様々な人脈を持つほど大活躍してるらしいわね。良い事じゃない?体が一つだけあるからこそ、いろんなところで大活躍できるってこともあるのよ。
あ、ちゃんと町は元に戻った。タイムカプセルみたいな状態にしてたから、すぐに人々は元に戻れたんだって。昔はそうとう悪い事に使ってたみたいだけど…どんな事かは怖いから聞かない事にしたけどね。
と、まぁ今回はこれくらいにしておこうかしら。デューク、ちょっとこのファイル戻してきて。…はいはい、どうせ私も面倒臭がりですよーだ。
じゃ、次回もお楽しみにね。
≪登場人物解説≫
・陽元ミコ / ♀
丸斗探偵局に協力してくれるフリーの探偵。中国地方の大都市出身で、言葉はかなり訛っている。金色に染めた髪に、タンクトップや半パンと言うラフな格好をしている。
普段は愛車「ボロロッカ号」を駆り、各地で盗聴関連の依頼を受け取って活動しているが、探偵局からの依頼要請があれば(その分の料金を条件に)どんな場合でも協力をしてくれる頼もしい存在。恵とは昔からの親友で、笑いながら突っ込みを言い合えるほど。性格も似ており、お金にがめつく図々しいがいつも明るい楽天家。
ボロロッカ号の内部に詰め込まれたコンピュータを駆使した捜査も得意技だが、彼女の真骨頂は生まれながらに持つ『予知能力』。彼女の脳裏に浮かんだものは、ミコが信じ続ければ未来に起きてしまうと言い、デュークの時空改変にも干渉しかねないほど。ただし彼女の信念が影響するため、自身がない場合は例え良い未来を予知しても実現しないらしい。ちなみにこの力は代々陽元家に受け継がれているようで、先祖は予知能力で儲けていたとか。