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114.柿の木山の攻防・10 / 柿の木山の反撃

狐の隠れ里を襲った二人のニセデュークは、思いもよらない相手の前に敗北し、襲撃された変化動物たちも無事デュークの手によって回復した。こちらでの戦いは、何とか探偵局側の勝利に終わったのだ。その一方で、そこから離れた「柿の木山」でも、二つの力が互いに拮抗しあっていた。いや、「二つ」というよりも「無数」と言った方が良いのかもしれない。

確かに相手は恐るべき能力を駆使し、次々に増殖した恵や栄司を蹴散らしている。彼ら単独では、ニセデュークの前では虫にも及ばぬ弱さである。だが、「虫」というのは自らのその小ささを恐るべき数でカバーしている事が多い。今、森の中は何百何千もの増殖能力者で溢れ、無尽蔵の攻撃を次々に探偵局助手に食らわせているのだ。パンチやキック、チョップ、髪の毛ひっこ抜きなどを食らわれたニセデュークも彼らを消し続けてはいるものの、本物と端末がはっきりしている「分身」とは違い、全員が本物で、しかも別個の存在と言う「増殖」相手だとかなり苦戦を強いられているようだ。


その様子を、蛍は一瞬他人事のように思ってしまった。


「す…凄い…」


今、彼女の体は頑丈な木の根や枝によって縛り付けられ、身動きが取れない状況になっている。何度も力を込めて振り払おうとするも、そのつるで出来た鎖は予想以上に硬かった。分身の術を応用した超短間隔での振動で破壊しようとするも、ニセデュークの恐るべき力も加わっているのか、自然の造形物はびくともしなかった。外側からも、彼女の先輩であるブランチも必死に力を込めてこじ開けようとしている。漆黒のアムールトラに変身している彼は、その頑丈な歯や力強い筋肉で、蛍の体を縛り付けている木の枝を振り払おうとしていた。


「ぶ、ブランチ先輩そこは…」

「わわ、ごめんニャ…」


蛍の胸付近も、茶色の鎖で締め付けられていた。ずっと同じような状態にされている彼女も、次第に苦しみの声をあげるようになっていた。何とかブランチの鋭く硬い牙が木の枝の一つを振り払う事に成功したものの、彼の表情は非常に痛そうだ。これ以上同じような事を続ければ、彼の歯茎が破壊されかねない状況。しかし、トラの手先は上手く使わないと、蛍自身にも大けがを負わせてしまう。それこそニセデュークの思うつぼだ。覚悟を決め、ブランチがもう一度木の枝に噛みつこうとした時であった。

蛍は、左腕に先輩以外のもう一つ何かが触れた事を感じた。


「…?」


本物のデューク先輩か、と最初は思った。もう一人のニセデューク相手に空で戦いを続けている彼が戻ってきたのかもしれない、と。だが、僅かながら動かす事が出来る目線に映った影は、明らかに丸斗探偵局の助手とは違う。いや、それどころか人間ともどこか違うものだ。そして、ブランチの咆哮と共に、その影の主は力のこもった鳴き声を響かせ始めた。それと同時に、森の奥からその仲間たちが姿を現し始めた。


「…お、お猿さん…まさか!」


痛みに耐えながらも、蛍はこの山で丸斗探偵局がかつて解決した事例について思い出し始めていた。

ここにある、一年中実がなる不思議な「柿の木」を、一時的にあのオス猿たちが占拠し、他の動物たちを締め出していた。それに困ったカラスの相談で挑んだ丸斗探偵局は、今回と同様にブランチが巨大なトラとなり、恵やデューク、栄司と共に心底震えあがらせる事で反省させ、柿の木を開け渡したのである。

その後彼らは足を洗い、森のあちこちで迷惑にならない範囲で木の実や葉っぱ、そして花の蜜などの食べ物を得て生活をしていた。だが、そんな中でもあの時の畏怖の気持ちは変わっていない。この森の支配者であると告げた巨大なトラの一声の前に、改めて集結したのである。その様子を、戦いの中で恵や栄司もちらりと見たのか、蛍やブランチに対し笑顔を送った。その直後、あの猿たちも含めて、ここから先は絶対に通さない、と言わんばかりに彼らは大量に自らの数を増やし、壁となってニセデュークに立ちはだかった。


そして、こちらでも改めて蛍の救出作戦が始まった。


「蛍、もう少しだニャ!」


都会育ちのブランチや、文字通り純粋培養の蛍と違い、野生の知恵以外にも経験を大量に持ち合わせている猿たちは、完璧と思われたこの鎖の弱点をすぐに見抜き、そこを歯や腕を使って緩めようとしていた。少しづつ、彼女を繋いでいた鎖が解かれ始めた。足の部分を最初に、首、肩、手、そして胸の枝や根っこが切られ始めたのである。だが、最後にして一番重要な部分がどう頑張っても取れない。ニセデュークは、木の根や枝の中に強靭な芯を用意していたようだ。勢い良く噛んだサルの一頭があまりの痛みで飛び上がるほどの硬さ、当然ブランチでも取れなかった。


「駄目だ…ニャかニャか最後が…」

「もう一度…もう一度お願いします…!」


そして、皆で最後の一本を引き抜こうとしたその瞬間であった。落ち葉を貫くような大きな音が響いたのは。

舞い散る土に一瞬目を覆った蛍やサルたちの視界が目にしたのは、戦友の名を叫ぶ恵の元と、うずくまり苦しがる栄司の姿。ニセデュークの猛攻の前に不意を突かれ、リタイアしてしまったのである。体中に激痛が走っているのは、その苦痛に満ちた表情でも明らかであった。恵の方も息絶え絶えの様子である。

そして、彼らの目の前に、不敵な笑みを浮かべながらその犯人が現れた…。


「ふふ、意外に隙は生じるものですね」

「あんた…栄司に何言ったのよ…!」


耳元で何かを囁いた直後、栄司の動きが突然弱まり、分身も解けてしまった。彼が抱えている何か大きな弱点…それも、何か心をえぐるような弱点を突いたに違いない。しかし、その追及を受けても、ニセデュークの顔からほほ笑みは消えなかった。

その様子を、唖然として見守るブランチやサルたち。栄司も倒れ、恵もピンチなこの状況、もう自分たちに成す術はないのだろうか…。


と、その時であった。ブランチの横から、かすかな歯ぎしりと、何かうめくような声が聞こえ始めたのは。

その声の主の輪郭は歪み始めていた。まるで蜃気楼か錯覚のように、大量の残像が目に焼きついている。ブランチの超感覚のみが、何が起きているのかを把握していた。そしてサルたちも野生の勘からか、その場から少し遠ざかっている。

昔、ブランチはこんな状況に遭遇した事がある。女性を狙った卑劣なひったくり犯を目の前で見た時の表情。あの後、彼女は分身能力をフルに活用し、電車よりも早い速度で一気に犯人のバイクに追いつき、相手をひっ捕らえた。確かに立場は探偵局一番の新人。だが、一度彼女の脳天の噴火が始まれば、その力は誰にも止められなくなる。その様子を見て、ブランチは決意した。


「みんなも一緒に、手伝うニャ!」


一度で駄目なら何十回でも、何百何千、何万回も。分身を凄まじい速度で出し入れし続ける蛍の力に、最後の鎖が解き放たれようとしていた。それと同時に、外からもサルたちやブランチが協力し、もろくなり始めた木の根を食いちぎったり引きちぎろうとしていた。そして、皆の力がほぼ同時に放出された瞬間、ついに「鎖」は消滅した。倒れこむ蛍を、急いでブランチは支える。


「ほ、蛍…大丈夫かニャ…」

「大丈夫です…大丈夫ですが…それよりも!」


確かに体はボロボロ、服も一部が破け、赤紫色のブレザーの下に着込んだブラウスが露わになっている。スカートから見える脚も傷だらけだ。だが、そんな事など今の蛍にとっては些細な事。栄司や恵、そして隠れ里の人々を目茶目茶にしたあの笑顔に対し、彼女の正義の怒りは既に江戸を燃やしつくした大火災レベルの状態であったのだ。怒りの表情を隠さぬ彼女が何をしてほしいのか、ブランチはすぐに把握した。大事な後輩のため、自分もできる事がある。

漆黒のアムールトラに跨り、戦地へと向かおうとする蛍だが、その直前に猿たちの声が後ろから聞こえた。そして、そのうちの一頭が彼女の元にあるものを渡した。一瞬彼女は驚いたが、それを手に取った時、サルたちが自分に何をしてほしいかが分かった。例え怒りに震えていても、自分のために協力してくれる者には感謝しないといけない。笑顔で受け取った蛍は、そのままブランチと共に目の前の敵へ一気に迫り、そして大声で叫んだ!


「きょくちょおおおおおお!!!」



戦いで疲労困憊した局長の体でも、大声に一瞬油断した相手の隙はいくらでも取れる。自分たちが向かう反対側から突如聞こえた声に反応した偽者の背中に、五人の恵の強烈なキックが炸裂した。痛みと共にバランスを崩し、前にのめり込むその顔に目掛けて…



「くらえええええぇぇ!!!!」



…そして、偽者は声も出ないまま、脳と眼鏡を貫いた衝撃でその場に倒れ込んだ。


=========================================


遅れて駆け付けた猿たちと共に、蛍とブランチは二人の先輩たちの元にいた。


「ケイちゃん…大丈夫…?」

「わ、私は大丈夫です…それより恵局長と栄司さんは…」


「私は心配しないで…それよりも…」

「…ふん、くたばるにはまだ早いぜ」


幸い、ニセデュークの意識が途絶えた直後に栄司の激痛も収まったようで、元の皮肉屋な彼が帰ってきた。


そして、その傍らで涙も見せながら笑顔を見せる蛍の手に握られていたのは、猿たちから託された未成熟の、青い柿の実であった。

童話では蟹に重傷を負わせ、命をも奪ったという伝承もあるほどの固さを誇る柿の実。一年中美味しい実がなるはずの「柿の木」が何故このような実をつけたのかは分からないが、普通の柿よりも抜きんでた力を持つ個体が持つポテンシャルは相当なものであったのは間違いない。何せ、蛍の「技」によってリニアモーターカー並の速さで飛んできた柿の実によって、偽者は時空改変用のナノマシンもろとも意識を失ってしまったのだから…。


ヘトヘトの面々だが、何とか強敵を打ち破った功績を互いに笑顔でたたえた。そして、上空で戦いを繰り広げているもう一人の仲間へは、サムズアップで。

残るは、上空で激突する四人目のニセデュークと、本物のデュークの戦いのみだ。

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