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112.柿の木山の攻防・8 / 予想外の援軍

特異点を超えた未来の科学は、妖怪などの能力をあっけなく凌駕する。今、狐たちの隠れ里は深刻な状況であった。既に彼らに意識は無く、この近辺で動いている動物と言えば、上空で戦いを続ける三つの影のみであった。


「二人がかりか…!」

「いや、逆に聞きたいね」「なんで一人だけだと思ったのかな?」


油断大敵だ、と二つのデュークの声が重なり、左右同時にオリジナルの体を飛散させる。何とか元に戻らせて反撃に出るも、一方に向かおうとすればまた一方がこちらの隙を狙い続ける。狐たちの村を戦闘に巻き込んではいけないという焦りから、戦いの場を必死に遠ざけようとする本物だが、それをあざ笑うかのように二人の偽者は彼への攻撃と同時に、隠れ里の周りを吹き飛ばし始めた。


「ほぉら、さらに戦うと」「どんどん被害が広がるよ?」

「くっ…!」


こんな男同士の戦い、男性読者からすればどうあがいても所詮醜いものとしか見られない、だったら早く決着をつけよう。皮肉を交えながら、ニセデュークは攻撃の手を緩めない。彼らとて、オリジナルはかなりの強さである事、自分たちが倒せる相手では無い事くらいは知っている。だが、「倒す」事は出来なくても、自らの元へと身柄を送還する…支配下に置く事くらいはできる。特に今のように、大事なものを守りながら戦っている時は、どんな場合でも必死さと焦りが生まれてしまうものだ…。


これまで何度も、ニセデュークによる探偵局への襲撃は繰り返されてきた。オリジナル自身やその仲間の姿を借りたり、別の存在をけしかけたり。様々な手を使い、デュークや探偵局の面々を「犯罪組織」へと戻そうとしていた。オリジナルが牛耳り、そして捨てた場所。そこで生まれ育った彼らは、その思いがより強くなっていた。そしてその思考は、やがて力にも影響し始める。今までに対峙したニセデュークと比べ、明らかに時空改変能力の強さが高まっているのだ…とはいえ、その基準となる物差しは彼らしか分からないが。


そして、果てしなく続く戦いの中、必死に互角さを保とうとしていたデュークに隙が生じ、一瞬だけパワーバランスが二人のニセデュークに傾いた。時空改変による時空改変による武器の装填が遅れ、そちらに気を取られていた間に、背中から一人の偽者が一気に飛び込んで来たのだ。このやり方は以前デュークも見た事があった。以前最終手段で丸斗探偵局の新入りがそれを行った時の被害は、ターゲットの腹を文字通り貫通させ、数十センチの血まみれの大穴を開けてしまうほどのもの。そんなスサマジイエネルギーがこちらへ向かっているのだ。急いで避けようとするも、もう一方のニセデュークによって動きが封じられてしまった。


守るべき物がある時、人は強くなると言うのは、嘘だったのだろうか。



…いや、それは決して全て間違いであるとは言い切れない。


出来る限りの防御のために力を振り絞り、目を瞑っていたデューク。だが、予想していた途方もない衝撃は、デューク・マルトに対して起きる事は無かった。その代わり、彼の目の前には信じられない光景があった。襲いかかろうとしていたニセデュークの腹を、何かが貫いている。時空改変で致命傷は防いでいるが、顔からはその苦しさが存分に伝わってくるようだ。もう一方のニセデュークも、驚きの表情を隠さず茫然としている。

よく見れば、それは「注射」であった。比喩でも何でもない、医療用などに使う本物の注射を超巨大にした物体が、土手っぱらに刺さっていたのである。一体これはどういう事なのか…と記憶を探ろうとした彼は、その答えを頭の引き出しの片隅から発見した。

以前、ブランチに留守番を頼んで局長たちと予防接種に『病院』を訪れた時である。まだ蛍がメンバーに入って間もない頃、意外にも注射を知らなかった彼女と話が盛り上がっている中で、局長の態度が妙に後ろめたい感じになっている事に気がついた。もしかして局長は注射が苦手なのではないだろうか、とデュークが突っ込んだのがまずかった。それを否定しようとする恵、大丈夫だと言い張る蛍、そしてそれを止めようとするデューク。当然その声は大きくなり、辺りは次第にうるささを増し始めた…。

そしてそれが最高潮に達した時、怒りの声と共にこの巨大な注射が現れたのだ。大口径50mm、巨大な大穴が開いた超巨大な針を手に持ち、カンカンに怒ったその医者によって三人は完全に沈黙し、その後病院に静寂が戻ったのである。一応「裏口」からの入室だったににしろ、病院で騒ぐのは絶対に控えるものだ、と蛍はしっかりと身に染みて感じたとか。


あれは一体、何のために使うのか。念のために自分も注射を頼んでいたデュークの質問は、ウインクと共にうやむやとなってしまった。だが、その『使用法』がまさに今、明らかとなっているのである。二つの驚きの目と、四つの憎しみの眼で、それを投げつけた相手を見た。



「だからあの時言っただろ?秘密だって」



暖かそうな服装の上に白衣を着こんだ、緑色の髪をした中年風の男。その名は郷ノ川・W・仁、動物病院の院長である。




「せ、先生…!?」



どうして、こんな所に彼がいるのか。三人のデュークは、一切理解できなかった。

しかし、その後郷ノ川医師の口から出た言葉に、本物はさらに驚かされた。


「お前は早く狐たちを助けてやれ!こいつは俺に任せろ!」


「な、何を…!」


「いいから早く降りてこい!『未来』ではそうやったんだぜ!」


…どういう事なのか、さっぱりわからない。しかし、ここに彼がやって来た理由は分かった。『未来の自分』…恐らく、この戦いに勝利した自分が何かしらの手段で彼を送り込んだのだろう。そうなれば、過去の世界に住む自分は信用せざるを得ない。すぐに起き上がった本物は、最近抜け毛が気になっていると言う郷ノ川医師の頭に触れた。まるで『メモリーツリー』のように、彼の持つ医療の知識が次々にデュークの脳内にコピーされていく。そして、それが済んだ直後、この医者はさらにとんでもない言葉を言い放った。


「そこでぼーっとしてる二人も、俺に治してもらった方がいいんじゃないのかい?」


…他人に自分の体を委ねる事は、すなわち自らの能力を否定する事。巨大注射を引きぬき、すぐに時空改変でダメージをリセットしたデュークと、それを見ているだけだったデューク。二つの顔が憎悪に包まれ、そしてそのまま一気に地上へ向けて突っ込んできた。その様子に彼を守ろうとする本物のデュークだが、郷ノ川医師は早く現場へ向かえと叱咤した。一度自分を打ち負かしかけた相手の言葉に逆らう事は出来ない。そして、彼が瞬間移動した直後であった。


…時空改変能力は、森羅万象を操る無敵の能力。何物も敵わないほどの力のはずである。だが、何故この獣医は、二人のニセデュークの動きを止める事が出来るのだろうか。しかも、素手の一発で。



それを止めんと怒りの表情で動き出す偽者だが、本物の脚を食い止める事は出来なかった。

何故なら、その体を、目の前の獣医が止めていたからである。しかも、()()で。


「「…貴方…」」


人間では無いですね。二つの声がユニゾンし、彼を問い詰めた。


「…へへ、さすがデュークだ」


そして、彼は言った。今、その答えを見せてあげよう、と。


==========================


…郷ノ川医師同様、丸斗探偵局にはもう一人の強い味方がいる。柿の木山にも、恵や蛍を助けるべく頼もしい援軍が駆け付けていた。


「ったく、相変わらず無茶しやがるなお前ら…」


純青の髪をたなびかせ、合法的に悪知恵を働かせる男。その名は有田栄司、今回の彼はどうやら家に滞在しているアフィブロガーのようだ。


「あ、ありがたいニャ…」


自分で山を登っていた郷ノ川医師と違い、危機を察知したデュークが送った自らの分身によって彼はこの事態を知らされた。再び最強のアムールトラとなったブランチだが、やはりその力は凄まじく、恵の援護があっても傷一つ付ける事が出来なかった。つるに絡まれて身動きが取れない蛍を守るだけ精一杯だったのだ。自分のふがいなさは確かに悔しいが、そんな危機一髪のところに駆け付け、脳天へのキック一発でニセデュークを怯ませた彼には礼を言わないといけない。


「くっ…!」


増殖能力もまた、時空改変能力を歪ませる力を持つ。「分身」ではなく「本物」を無限に生み出す力によって、威力が分散されてしまうのである。得意分野が通用しにくい栄司や恵相手には、偽者といえども不利である。そして、三名は目線で合図し、今一番必要な状況判断を下した。


「ブランチ!ケイちゃんを!」

「正直悔しいけど分かりましたニャ!」


改めてこちらも戦況の仕切り直しだ。恵と栄司は、三人目の偽デュークの前に構えた。

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