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107.柿の木山の攻防・4A / 柿の木山の遭遇

「さて、と…」


恵とデュークがこの場所に来たのは、あの「サルカニ合戦」の時以来だ。秋も深まり始め、あちこちで実る木々の美味しい恵みが各地で色づいている。やがて来る寒い冬に備え、葉っぱを落として準備をするものも多いようだ。しかし、今彼らが向かおうとしている場所に生えている柿の木は少し違う。何せ、一年中ずっと、美味しいカキの実を食べる事が出来るのだ。どんな異変も察知するブランチや、増殖能力を持つ栄司、予知能力者のミコのように、あの木も生存に有利な「突然変異」を起こしたミュータントであった。


「私も最初は半信半疑だったわ。でも、百聞は一見にしかずだった。ね、デューク?」

「あの木は一年中自分を『秋』の状態に保っている。僕と同じく、時間を操っているのさ」

「…す、凄いですね…」


突拍子もない存在が、森の中にひっそりと佇んでいる。その事実に蛍はただただ納得するしかなかった。

とは言え、そんな事は無い、と言いきる事も出来ない。何せ、何も無さそうな山の中に狐たちの集落もあるというのだから。


狸の親分が変身した巨大な飛行船は、その見た目とは裏腹に高速で目的地へと向かった。松山からここまでは結構距離があるのだが、わずか数時間ほどで到着してしまったのだ。寝る暇があまり無かったと局長は愚痴を言っていたものの、座席の座り心地はかなり良かったらしい。

さて、その間に狸の奥さんである花音さんから、今後の状況についての説明があった。現地に着き次第、彼女たちは「狐」たちの隠れ里へ向かい、今回の一件に関しての交渉に臨む事にしたようである。彼らとて、無駄な争いは避けたいと考えているからだ。そのため、到着後は探偵局と別行動となる。


「確かこっち側にも、カワウソの弟さんが…」

「まさか二匹もニホンカワウソが生き残ってるとはね…」


事前に向かっていた狸側の「外交官」的な役割をする存在が、狐たちと話を合わせてくれていたようで、すぐに向かう準備が出来ていたようだ。

ただ、本来はこのような重要な物件は自分たちの手で探さなければならないものだ。それでも丸斗探偵局に託したのは、彼らの中にある絶対的な自信と誇りが、それに賭けてみようと思うほど大きく立派なものだったからである。あの時に見せた凄まじい力や、伝聞で聞いた各地の武勇伝、今の丸斗探偵局には出来ない事はないだろう…。


そんなこんなで、彼らは目的地に着いた。以前訪れた「柿の木」はもう少し後になるが、探偵局の助手曰く、探すときはなるべく広めをくまなく捜索した方が良いと言う事で、ここからじっくりと狐側が持っていたという宝を見つけ出す事とした。


「それにしても、本当にこの山にあるのかな…」

「ええ、間違いないでしょう。例の魔鏡がここにある可能性は非常に高いようです」


どうやらデュークの脳内には原理不明の計測器が形作られているようで、いつものようにはきはきとした言葉で皆の質問に対応している。彼が大丈夫と言うのなら大丈夫であろう、という信頼が生まれていた。そんなデュークも、探偵局の皆に絶対の信頼を置き、実地から得た情報を頭の中に吸収している。


「確か魔鏡っていうくらいですから、丁寧に封印された可能性がありますね」

「うーん…それもそうだけど、案外無造作に保管されてる可能性もあるわね」

「どういう事ですか…?」

「確か親分さんは、『どんな過去も見通せる』って言ってたわよね。そんないざという時に使う物を、丁寧に封をしてたら使い物にならないうちに終わっちゃう事もあるじゃない?」

「あ、そうか…」


考えられる可能性は全て当たる、鉄砲玉も数撃てば必ずなにかに命中するもの。蛍の「経験」が、またひとつ増えた。


その一方で、近辺に有る特異的な形をした岩や木の形。その近辺に「魔鏡」はある、と恵は推理していた。ふかふかの座席で少しの間仮眠を取っていたからか、彼女の頭は妙に冴えている。とりあえず例の柿の木に関しては、デュークの事前の調査で今回の一件とは特に関係が無い、という結果が出ていたのでそれ以外の場所を重点的に探す事にした。

 落ち葉を掻き分けたり木の形をじっくりと見たり、探偵と言うより科学者の雰囲気も醸し出す一行。少々デュークの衣装が浮いているのはご愛嬌である。しかし、助手の時空改変無しではやはり見つける事は困難を極めると言う事が何となくわかって来た。便利すぎる力は身を滅ぼすと言うものの、こういう時に使わないと宝の持ち腐れ。困り顔の力の使い手だが、他の皆がもっと困り顔をしている様子を見てしまっては使わざるを得ない…となる直前であった。


突然、別の落ち葉を踏みしめる足音が聞こえた。こちら側の全員が足音を止めても聞こえるところから考えると、どうも別の相手が来たようである。敵か、それとも味方か。急いで身構える恵たちだが、それはすぐにデュークによって制止された。彼の脳内に、直接通信を求める声が響いたのである。頭に響く特定の周波数。これにあたる存在は、彼が知る限りはたった一人、デューク・マルトしかいない。と言う事は…?


「「…えええ!?」」


目の前にいたのは、探偵局で留守番をしていたはずの丸斗恵とデューク・マルト、ブランチ、そして丸斗蛍だった。


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