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100.郷ノ川医師が行く!(補足編)

「…と言う事で、100回目を迎えたのに依頼が来ません、と」

「暇ですニャー、と」


「…本当にそれ送信しちゃうんですか?」

「正直者は得をするのよデューク」

「ですが…」


…ちょっとそれは色々と仕事をする身としてはまずいのではないか。それがデュークの感想であった。

無事に宇宙人の父親の治療を終えてから数日後に、久しぶりに舞台を戻そう。


まだ地球人の姿への変身や外出などは難しいものの、この親子に関してしばらくの食費の問題は無くなった。元の姿になれば地球で言う「光合成」でお腹いっぱいになる事が出来るが、建物の中ではやはり不十分のようでその分を食べ物で補う必要があるのである。そこを、栄司がしばらくの間支援する事になった。父親の体調が元に戻るまで、あちこちで暗躍…いや、活躍している別の自分たちと協力してその稼ぎのいくらかを貸し与える事を決めたのである。


「それにしても栄司もケチよね、ボランティアなんて嫌いだって言って、お金は返すように言うなんて…」

「でも、しっかり働いた証を見せてもらおうとして栄司さんが考えた手段ですからね」

「そうよね…仕方ないか」


ただし、利子は付けない方針である。色々と利子で問題になっている事が目立っているのも理由だが、そもそも利子なんて無くても、十分有田栄司はやっていけるためだ。


そしてもう一つ、娘の方は丸斗探偵局の「友達」の絆が深まっていた。こちらもまだ相変わらず外に出たがるような事は無いようだが、それでも喋る事が出来る手段が地球人にはたくさん存在している。幸い向こうは安い金額の携帯電話を使っていたようで、メールを打つ事は可能なようだ。時々探偵局側からもメールを送り、彼女が元気かどうかを確認する事にした。郷ノ川医師による父親の治療と同じく、長期的な話になるかもしれないが、恵たちは苦で無かった。


「さ、そろそろ送信しますか」

「オーですニャ!」


そして、彼女へ向けて送信した直後に、蛍が買い物から帰って来た。先に送信しちゃったとはしゃぐ恵とブランチ、少々悔しがる蛍。確かに探偵局は仕事も無いが、「暇」というほどでも無さそうである…。


=====================================


「そういえばさ…」


ふと恵は、前日話題に出した一件を思い出した。今回の事件解決に大いにかかわったあの医者の事だ。改めて振り返ると、謎を解き明かすどころかさらに謎が溢れ出てしまう。


そもそも、郷ノ川医師はあの宇宙人の正体を一発で見抜いてしまった。症状の時点から感づき、実際の治療も非常に速かった。デュークも本人に尋ねてみたのだが、以前同じ症例を治療した事がある、としか返ってこなかった。時空改変も相手に先を越され、却下されてしまっている状況だ。


「でも、前に治したって言う事は、昔別の宇宙人に会ったようねあの人…」

「そうですね…というよりそうとしか思えません」

「確か郷ノ川先生って、動物病院を開く前はどうしてたんでしたっけ」

「うん、あちこちを移動してたらしいけど…」


その中で色々な技術を身に付け、様々な人を治していたそうである。だが、その詳細は探偵局もよく分かっていない。ともかく凄い事は確かなのだが…。


「デュークさんと互角だったらしいですニャ?」

「うん、僕もあの時は正直驚いた…正直、あれも原因かもしれないですね」

「原因って…調べるの諦めたってものの?」

「はい…そうです」


あのデュークでも、怖いものはあるのだ、と改めて蛍は思った。とは言え、彼は仲間を失う事を嫌い、信頼関係が崩れる事も良しとしない印象がある。どこまでも真面目な人、それがデューク・マルトである。


…ただ、結局今日の議論も色々と問題が湧きあがるだけで、何の解決にもならずに終わってしまった。

一番近くにいる人ほど、一番分からないというのは、もしかしたら本当かもしれない…。


======================================


…町の名物、天然温泉の銭湯は番頭のおばちゃんの家も兼ねている大きな造りだ。

普段は一人暮らしなのだが、時たま家の方に来客が尋ねてくる事がある。ただ、普段はおばちゃんの方から赴く事が多いので迎える側になるのは少ない。そんな数少ない例外が、郷ノ川医師であった。


「へえ、宇宙人ねぇ…」

「まあそう言う事、凄い具合が悪かったって事さ」


丸斗探偵局に仕事を依頼してきた本人に、事の「真相」をさらりと語る彼。それを何の抵抗も無く、おばちゃんは聞いていた。


「わたし、悪い事しちゃったかもねー…」

「悪すぎるぜ、隣の人は何する人ぞじゃ困った時に大変だからな」


中華料理店のマダムや宮大工の奥さんにもしっかりと言っておく、とおばちゃんは謝った。

年齢はおばちゃんの方が上のように見えるが、まるで昔からの親友のように二人は仲睦まじく語り合っていた。宇宙人の父親の病気が治れば、元の変身能力も回復して仕事に復帰できると言う。季節外れだが、完治祝いには彼の大好きなネギのお風呂にでも入れてあげればいいかもしれない、と医師は提案した。勿論冗談であり、ネギなどの外部からの刺激に頼らなくても、あの銭湯が色んな効用を持っているのは彼も承知の上だ。


「…しかしさ、『デューク』たちどう?」


ふと、おばちゃんの声が若返り始めた。いや、姿を変え始めたのは声だけでは無い…。


「大丈夫だ、今回も大活躍してくれたぜ。心配する必要はないと思う」

「ま、まあ今のところはね…これからよ、正念場は」


そう言い終わった時には、白髪にも色が戻り、肌も目つきも若い頃と変わらない姿となっていた。毎回これを見る度に、郷ノ川医師は羨ましいと感じてしまう。当然だろう、あんな「能力」があれば自分ももっとやりたい放題できるからである。ただ、その能力を持つからこそ、途方も無い苦労を強いられ続けたという存在を彼は知っている。だから、高望みはしない。


「『デューク』に『ブランチ』に…」

「蛍ちゃんにメグちゃんか…大丈夫、何があろうとオレはあいつらの味方だからな」

「助かるわ。それに、すごい能力持ってるんでしょ?」


自分の名前を言われ、郷ノ川医師は力強くうなづいた。

今のように落ち着く前の、地獄を思わせる地での戦い。下手すれば周りは全て敵となるほどの環境の中で、彼は生き延びた。

もしかしたら、その時の事態が再び訪れるかもしれない。どこかの預言者一家とは違うが、あたりの空気の変化は以前の経験から彼も十分に感じる事が出来る。

だが、あくまで恵たちには内緒にしておくつもりだ。あくまで自分はただの医者でいたいためである。


…どこかの探偵局の助手と同じだ、と心の中で郷ノ川医師は自分に突っ込んだ。

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