08 会場に入ったらクライマックスでした
「イザベラ・ハイケム公爵令嬢。おまえとの婚約を破棄する!」
会場に入ったらクライマックスでした。
危ない、見逃すところだった。ギリギリセーフ!
原作通りに進行していく。人混みでメインキャラたちの姿が見えないけれど、声だけは響いてくるのが不思議だ。マイクでもつけてるんですかね。
イザベラお嬢様の声が聞こえる。
最初は居丈高に。
やがて逆ギレモードへ移行。
「なんで! なんで誰もあたしを助けないのよ!!」
金切り声が響き渡る。人混みの最後列にいたご令息が、隣の男子に囁く。
「どうして助けが入ると思うんだろうな」
「ああ。ハイケム公爵令嬢の横暴ぶりには、みんなが迷惑していたというのに」
「こう言うと失礼だが、自業自得というか」
「そうだな。なるべくしてなった未来だ。むしろ殿下はよくここまで我慢なさったものだよ」
ああ、うん。やっぱり思ったとおり、学校での評判も地を這っていたらしい。
キー! とか、ぎゃー! とか、およそ淑女とは思えないイザベラお嬢様の悲鳴。触るな、痴漢、変態、との単語から察するに、取り押さえられているのだろう。
うーん、見たいような見たくないような。
たぶん髪も乱れているだろうし、せっかくのド派手なドレスだって暴れたらぐちゃぐちゃだろうし。
お粗末な姿を見るよりは、着飾っているであろう、今宵もっとも光輝くシンデレラであるヒロイン・アンちゃんのほうを拝みたい。
あの主人公が三次元になったら、どんな女の子なのだろうか。実際、髪の毛はピンクなのか気になるところ。
「皆の者、騒がせたことを謝罪する。しかしこれは必要な流れであった。詳細は追って明らかになるが、今後もうすこし余波が広がると思う。だが案ずることはない。貴殿らはあるがまま、清らかなる心のまま、国のために尽くしてくれると私は信じている。――アン、力を貸してくれ」
「……殿下の御心に添えるよう、尽力いたします」
「君は君のままでいてくれ。それだけで私は救われるのだから」
「殿下……」
見つめ合い、寄り添うふたり。
さすが貴族のご令嬢とご子息が集まっているだけあって、冷やかすような野次は飛ばない。温かな拍手が送られるのみだ。礼儀正しいことである。
だが私は呆然と見つめてしまった。
イザベラお嬢様が引きずられていって、見つからないように身を隠し、移動して、おかげでメインのふたりが見える場所を確保できて。そこで目にしたビジュアルに驚いて目を見張った。
アンちゃんはさすがヒロインだけあって、アイドル並みに可愛かった。
コスプレみたいなピンク髪ではなく、もっと自然なかんじのピンクベージュっぽい髪色の女の子。
そして王子殿下だ。
そうだった。西洋風世界の王子なのに黒髪ヒーローであることを、遅まきながら思い出した。
周囲を見回す力強い意志に満ちた瞳は琥珀色。
黒い髪も、琥珀色の瞳も、我が国では特別珍しいわけではない色。
ただ、その両方を兼ね備えた者は少ない。
なぜならば、それは王家の血を引く者の証とされているからだ。
特徴的で、身バレすると危険があるので、詳細は伏せられている。原作においては、王子が過去の誘拐事件について語る際にヒロインに告げた、大いなる国家機密なのである。
黒髪に琥珀色の瞳。
うん、ものすごく見覚えがあるなあ。なんなら今朝も「行ってらっしゃい、気をつけてね」って言われたなあ。「俺も王宮の厨房でお手伝いに駆り出されてるんだ、現地で会えたらいいな」なんてことも言ってましたよねえ、ヴォルフさんんん!! どういうことだってばよっ!!
◇
悪役令嬢が退場したあとも、パーティーは恙なく進行した。あの騒動は、パーティーの序盤で起こったのだということも初めて知った。
面倒な奴は、さっさと排除しておいたほうがいいのはたしかだ。騒動起こされるの目に見えてるしね。
問題のシーンは終わったし、これから公爵家のほうにガサ入れされると思われる。私も戻ったほうがいいだろうと判断し、会場を後にする。
控室へ戻ろうとしたとき、途中の部屋からにゅっと手が伸びてきて、中に引き込まれた。
私が慌てなかった理由は、相手の予想がついたからだ。
たぶん、そうなるんじゃないかと思っていた。
だから振り返って訊ねる。
「どういうことですか、説明してくださいよヴォルフさん」
「どれについて?」
「なんで王族の方が公爵家で料理人なんてやってるんですかっ!」
「王族だったことは言及しないのか」
「そこも驚きはしましたけど、ヴォルフさんの顔面の良さとか、雰囲気とか、高貴な方っぽいオーラ出てますし、納得できるといえばできますし」
なにしろ私は、ここが女性向けテンプレ的作品世界が舞台だと知っている。
有りか無しかでいえば、有りな展開でしょう。
「とはいえ、厳密には王族じゃないんだよな。血は入ってるけど、それだけ。俺はさ、ハイケム公爵家の血縁者なんだ」
「はい? あの旦那様の隠し子ですか?」
「やめろよ、あんな奴が父親なわけないだろ」
真顔で怒られた。
すみません、ですよね、うん。
「えーっと、じゃあ、どういった繋がりが」
「あの男が事故に見せかけて殺した、先代公爵の息子。それが俺の父親」
「い、生きていらしたんですか……?」
「一命を取り留めた。助けられたときには記憶を失っていたようで、普通にただの一般人として生きていたんだ。結婚して生まれたのが俺」
だから育ちは平民なんだよ、と笑う。
ヴォルフさんの父親は黒髪で、母親が琥珀色の瞳をしていた。
両親の良いとこ取り、みたいな感覚で生きていたけど、あるとき王宮から派遣された役員がヴォルフさんの容姿を見て仰天。
稀なる色――王家の色を持つ青年がいたんだから、そりゃあ驚くでしょう。
そんでまあご両親に話を聞き、ハイケム公爵家に縁のある伯爵家の方を呼んでご対面。
従兄弟の顔を見て、ヴォルフさんの父親はすこしずつ過去を思い出していったという。
ヒーローはじつは〇〇だった。
お約束展開です。(๑•̀ㅂ•́)و✧




