04 さて、私の話
よくある話といえばよくある話。
魔力は貴族を中心とした特権階級が持つ能力で、けれど稀に市井のなかにも魔力持ちが生まれてくる。ヒロインのアンちゃんは、まさにそれ。漫画の中ではたしか「かつてはすべてのひとが魔力を持っていたけど、貴族が囲い込んだことで先細りになってしまった」みたいな設定が語られていたと思う。
平民が魔力持ちであることを認めがたい一部貴族から保護するため、王族はヒロインに目をかけていて、王子は彼女に惹かれていくのだ。
閑話休題。
さて、私の話。
転生者であることを自覚したら、そりゃー試すよね、魔法。
数々の物語にあったようなことをやりつくした結果、魔力量は増え、強力な魔法は発動しないかわりに、小規模魔法を器用に使う、なんちゃって魔法使いが完成したわけであります。掃除とか便利だよー。掃除機みたいなことできるし。
「バレてたんですねー」
「邸内で見知らぬ魔法が発動したら、そりゃ気づくよね」
「おっしゃるとおりでございます」
「攻撃性はないし、威力も低い。それでいてすごく精度が高いもんだから、誰が使ってるのかなーって気になっててさ」
うん。たしかにね、公爵家の中で魔法の発動を検知したら、警戒するのが普通だよね。
平民なのに魔力があると知られるとなにかと面倒なので、面接時には隠していた。魔力持ちの使用人は把握・管理しているなかで使われたら、「誰だ!」ってなるのが普通でした。うっかり使ったとき、誰にもバレなかったから油断していた。これは私の自滅。
「……見逃してやるから巻き込まれろってかんじですかねえ」
「んー、それもあるにはあるけど、使えるものは使っておこうかなっていうのも大きいよね」
ルーベルさんの言葉尻はレヒトさんに向けられたもので、彼は重々しくうなずいた。
「君の魔法は検知されにくい。乱れがなく、一定の濃度で安定して維持できるから、気づかれにくいんだ。他になにができる」
「な、なにがといわれましても」
怖くて顔が見られない。
無言の圧がすごい。
私は粛々と白状しましたよ。下っ端ですからね。部署は違えど、上司の言うことには逆らえないんです。
基本、風魔法ですよー。ただ風を使って遠いところの声を拾ってみたり、その逆で遠いところで発動させて音を出し、そっちに気を取られた隙に逃げたこともありますね。
え? なにからって? ストーカーみたいな奴から。
公爵家のメイドってだけで寄ってくる変な男、多いんですよ。買い物先の商店の息子とか、公爵家で開催したパーティーの招待客とか。後者はとくにひどかった。「○○家の○○様がおまえの相手をしてやってもいいぞ」的な? ワンナイトラブ的な?
あははーと軽く笑いながら言うと、男性陣の顔つきが変わった。
「わかりました。商会の取引を考えなおします」と執事補佐。
「その家に勤めてる騎士、同期だわー。チクっとくねー」と隊長補佐。
料理長補佐は私の肩をがしっと掴み、ものすごく怖い顔で言った。
「何もされてない?」
「回避しましたので」
「それ、いつから?」
「お邸に勤め始めたころからですかね」
たぶん、未婚の若い娘がどんどん辞めていて、私が一番年下だったせい。学校を卒業したばっかりの小娘なら、ちょっと声かければなんとかなると思っていたんでしょう。
生憎とこちとら精神年齢は二十代後半だったもんだから、適当に流してましたけどね。本当の小娘なら泣き寝入りしてたかもしれない。
それはそれとして。
「あの、ヴォルフさん、肩が痛いんで、離してもらっていいですかね」
あと顔が近いです。
私の願いに慌てて手を上に跳ね上げ、一歩下がる。
ほっと息を吐いた私がヴォルフさんを見上げると、彼は彼で動転しているのか、珍しく目が泳いでいた。いつも余裕ぶっているのに、こんなようすは初めてみた。ちょっと可愛いかもしれない。
「はい、じゃああとは任せましたよ、ヴォルフさん」
「遅かれ早かれ、巻き込まれることになっていたでしょうしね」
ふたりはヴォルフさんの肩をそれぞれ叩き、邸のほうへ歩いていった。残されたのは私とヴォルフさん。えーと、どうしたものでしょうかね。
するとヴォルフさんが咳ばらいをひとつ。
仕切り直しといわんばかりに整えて、改めて事情を説明してくれた。
ハイケム公爵家を断罪することは、王家も承知している事態。
公爵家といえば王家の血統であることが多いけれど、今の当主である旦那様は養子らしい。
王族の誰かがやらかした結果に生まれた子どもがいて、その子がまた問題児で。横暴を止められなかった結果に生まれたのが旦那様。親の因果が子に祟るってやつ?
問題児だった旦那様の親は、薬物依存とかで亡くなってしまい、先代のハイケム公爵が引き取った。当時五歳ぐらいだったので、まだ矯正できると思ったのだろう。無理だったみたいだけど。
二代も前の諸問題を尻ぬぐいするのは、もういいでしょう。
ということで、王家としては粛清を図ることになった。あとふたつある公爵家からも「我が国の恥だからやれ」とゴーサインが出る。
後継として育てられていた先代の実子が、十歳のころに謎の事故死を遂げているとなれば、ハイケム公爵家の係累貴族も文句をつけたくなるというもの。
親会社が評判悪いと、こっちが真面目にやってても、ひそひそされるよね、わかるー。
「なかなかえぐいお家事情ですね」
できれば知りたくなかったです。
付け加えた私に、ヴォルフさんも苦笑いだ。
「あの、ひとつ疑問があるんですが」
「なにかな」
「イザベラお嬢様です。王子殿下の婚約者ですよね。それはいいんでしょうか」
「婚約の話が出たのは三歳のころだからね。その当時はまだ、ここまで問題になるとは誰も思っていなかったんだろう」
年齢と爵位を照らし合わせ、ちょうど釣り合ったのがイザベラだった。
それを勝機と取ったのか、旦那様は積極的に社交を始める。前ハイケム公爵が亡くなり、正式に跡を継いだのも、そのころだったとか。
今となっては明確な証拠などない。
憶測でしかないので、それらを罪に問うことは難しい。だからこそ、別の罪状でしょっぴきたい。
「それで、私になにをさせたいんでしょうか。防音結界を張って侵入が気づかれないようにしたいとか? もしくは目くらましをかけて姿を見えないようにする?」
「えーと、ちょっと待ってくれ。前半はともかく後半はなんだ」
「屈折魔法? 光の方向を折り曲げて、そこにあるけど見えなくなる的な」
私が言うとヴォルフさんは頭を抱えた。あれ、なんかやばいこと言いましたかね。
「そんなことが可能だと知られないほうがいいと思うんだけど、困ったな、有用すぎて活用しないのが惜しい」
大きく溜息を吐いたあと、ヴォルフさんは「よし」と何かを決めてうなずいた。
「その結界、有効範囲は? 君と俺、ふたりを包めるぐらいはいけるのかな」
「やったことないですけど、たぶん?」
「じゃあ、君が魔法を使うあいだ、俺が常に傍にいることにしよう。危険があったら護る。なに、これでも刃物の扱いには長けてるから」
それ包丁のことですよね。意味が違うのでは?
と思ったけれど、言っても無駄な気がして私はくちをつぐんだ。
こう、光学迷彩的なかんじで、透明化する魔法とかあってもいいじゃない。




