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お仕えするお嬢様が悪役令嬢だった件 ~没落後の再就職選定が急務です~  作者: 彩瀬あいり


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その後のはなし 前編


 ハイケム公爵家に戻ると、すでに多くの文官が蠢いていた。

 廊下には書類が積み重なり、開け放たれた応接室の扉から、ひっきりなしに出入りがおこなわれている。


「か、家宅捜索……」


 前世日本のニュース映像で見たやつを思い出す。

 旦那様と奥様は、イザベラお嬢様と一緒に王宮で拘束されている状態。証拠隠滅されると困るから、戻ってくることはないんだろうなあ。

 ちなみに長男次男様は、別室で取り調べがおこなわれているらしい。


「ヴォルフラム様」

「ああ、うん。できればその呼び方はやめてもらえると嬉しいんですけど」

「そうはまいりませんよ。貴方は尊き血を持つ方ですから」

「めんどくせー」


 文官服の襟に徽章が入っている、私たちにとって父親ぐらいの年頃の男性が、ヴォルフさんに礼を執る。


「ヴォルフラム?」

「……俺の名前。父さんが付けたんだ。妙に堅苦しい偉そうな名づけだなーって、子どものころは思ってたんだけど、心の奥底に貴族としての気持ちがあったのかもしれないな」


 命にかかわるほどの大きな事故。記憶を失い、ただの平民として暮らしていたヴォルフさんのお父さんだけど、やっぱりすべてを失ったわけではなかったのだろう。

 記憶というのは不思議なものだ。私やヴォルフさんが前世の記憶を有しているように、その人物を形作る何かは、奥底に眠っているのかもしれない。


「では今日からきちんとお名前をお呼びしますね、ヴォルフラム様」

「だからいいんだって。俺自身には爵位はないし、ハイケム公爵家の問題が解決したら、正式に一般人になるって約束なんだから」


 王家と話し合いの末、そういう取り決めになったらしい。

 なんてもったいない――って思ったけど、自分が同じ立場になったとしたら、うん、私も面倒くさいから嫌だな。根が庶民なもんだから、富裕層の世界に馴染める気がしないもん。



 使用人たちが集められている広間に行くと、同僚たちに出迎えられる。

 すでにある程度の事情は知らされているのか、うろたえているひとは少ない。不安は不安だけど、どこか安堵したようすもある。ようやく罪が罪として裁かれた安心感というか。

 やっぱりさー、悪いことがおこなわれていて、それを知っていて。黙って何もしない、できないっていうのは、結構なストレスだよね。


 個別に事情を訊かれたけど、私たちのようなメイドは通り一遍。みんなに話を聞いて、認識合わせをしている印象だ。そのなかで、他のひとから出てこなかった話があれば、そこからさらに精査する、みたいな。

 私は裏帳簿を金庫から取り出す任務に携わっていたこともあり、別室に呼ばれた。あの一件に関わっていたレヒトさんとルーベルさん、そしてヴォルフさんも一緒である。

 すでに報告は行っていたので、一応の確認と。あとは口止め。

 言いません、言いませんとも。



     ◇



 現在、邸内は慌ただしく、部外者の出入りも多い状況。

 そのため、移動するときは必ず複数でと決められており、私兵隊の方が付き添ってくれたりもする。

 皆さんにお茶でも出そうということで、厨房へ向かう私の付き添いは、ルーベルさん。メイドの私は荒事に関わる機会もなく、話をするのはひさしぶりだった。


「サリーちゃん、大変だったねー。王宮での騒動も目撃したんだって?」

「見てただけですけどね」

「いやー、それでも物騒だったでしょ」


 たしかに公爵家用の控室では、大捕り物になっていた。喚き散らす旦那様と卒倒する奥様。すでに別室に軟禁されたお嬢様の荷物を整理するメイドたち。なかなかカオスだったと思う。

 しかしその直前。ヴォルフさんが王族の血統で、しかも私同様、前世日本人だったことが判明するという事態があったので、だいぶ感覚は麻痺していた。


「ヴォルフさんが一緒にいてくれたので、まあなんとか」

「え、じゃあついに?」

「ついに、とは?」

「言われたんでしょ」

「なにを?」


 え、まさかルーベルさんも転生者とか言わないよね。「ヴォルフさんから、日本人バレされたんでしょ」的な話ですか?

 ここまできたらなんでもありじゃないかと思った私に、ルーベルさんは言う。


「レヒトが言ってたんだよ、ヴォルフさん、あれとんだヘタレだぞって。せっかく距離縮めたくせに、肝心なことを言ってない」

「肝心な、こと」

「あ、察した。やっぱりまだだ。いや、事件の渦中で愛の告白するとか、そっちのが空気読めてないからいいっちゃーいいのかもだけど」

「……あのですね、なんか皆さん、激しく誤解をしている気がするんですが、ありえなくないですか?」


 使用人の方々も、こぞってそういう方向に持っていこうとするのである。

 今回、王宮から私がヴォルフさんとふたりで戻ってきたら、お家事情はそっちのけで、「ついにゴールインか」と拍手された。いやいや、違いますって。

 私が手を振って否定すると全員が真顔になって、ヴォルフさんは男性陣に連行されていき、私は私で女性陣に肩を叩かれ慰められた。解せぬ。


「ええええ、サリーちゃんてそういうかんじ? わりと察しのいい子だと思ってたんだけど」

「恋愛オンチとか、そういう意味で言ってますか?」


 たしかに恋愛事には縁遠い人生を送ってますけど、他人から向けられる感情がわからないほど能天気ではないと思う。

 ヴォルフさんが私を好きか嫌いかで言えば、そりゃあ好きだとは思ってるよ。でもそれは友情とかの部類であって、男女のそれとは違うんじゃないかな。アイドルにガチ恋するほど不毛なことはないでしょ。

 勘違い、ああ勘違い。私は犯罪予備軍にはならないのです。


「うん、わかった。そうだね、全部あのヘタレが悪いわこれ」


 この話はここまでねとにっこり笑ったルーベルさん。

 あのひと、ヴォルフさんに何を言ったんだろうか。

 お茶出しが終わって、カップや皿を引き下げてきて洗っていると、すごい足音を立てて走り込んでくる誰かがいて、振り返ったらヴォルフさんだった。




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