1話scene2
ホームルームが始まっていた。
教室の前方に立つのは、担任教師――
原澤銀次郎、三十二歳。独身。担当教科、国語。
人生の酸いも甘いもそこそこ味わった結果、
多少のことでは動じない男である。
……多少のことでは。
「――でだ」
原澤は、粉々になった教室の扉を指さした。
「今朝、教室の扉がこの有様になっていた」
視線がクラス全体を一周する。
「誰か、目撃したやつはいないか?」
静寂。
誰も手を挙げない。
というより、挙げられない。
「……おかしいな」
原澤は腕を組む。
「音は派手だったはずなんだが」
その言葉は、
中谷省吾の耳には、ほとんど届いていなかった。
(返事……)
頭の中は、それだけだ。
(昨日の返事……OKなのか……?
それとも……)
告白。
剣。
粉々。
その結果が、まったくわからない。
一方、水無月実花は――
視線を伏せ、微妙に肩をすくめていた。
(……私が関わってるとは言えないわよね……)
破壊神。
剣が砕けた事実。
心当たりがありすぎて、逆に何も言えなかった。
「誰か、本当に知らないのか?」
原澤はため息をつき、
ある生徒に目を向けた。
「中谷」
「はい!」
即答だった。
「お前、朝早くから来てただろ。
何か見てないのか?」
クラスの視線が、一斉に省吾に集まる。
だが――
省吾の関心は、まったく別の方向に向いていた。
「……返事は?」
「……は?」
「OKですか?」
教室が、凍った。
「……中谷」
原澤は、眉間にしわを寄せる。
「何を言っている?」
「だから返事です!
昨日の!」
「なんで俺が返事をするんだ」
原澤は、至極まっとうな疑問を口にした。
「返事をするのは、お前だろ!」
「でも今すぐ聞きたいんです!
返事!」
教室がざわつく。
「……」
原澤は数秒、無言だった。
「……よくわからんが……」
深いため息。
「もういい……」
「良くはないです!!!」
省吾は叫び、
勢いよく机に手をついた。
――次の瞬間。
バァン!!
机が、粉々に砕け散った。
木片が舞い、
教室に再び沈黙が落ちる。
「……」
「……」
原澤は、崩れた机と、
無傷な省吾を交互に見た。
「……中谷」
ゆっくりと言う。
「後で職員室に来い」
「はい!」
元気な返事だった。
一方、水無月実花は、
その光景を見つめながら、静かに拳を握る。
(……やっぱり)
確信した。
(破壊神……)
無自覚。
無警戒。
そして、制御不能。
(……絶対に、放置しちゃいけない)
胸の奥で、決意が固まる。
(勇者十傑を……見つけ出す)
そして――
(中谷君を……
いえ、破壊神を倒す)
水無月の覚悟をよそに、
当の本人はというと――
(返事……まだかな……)
まったく別のことで、頭がいっぱいだった。
世界の危機と青春の悩みは、
今日も同じ教室で、
見事にすれ違っていた。




