第1話 scene1
教室には、省吾しかいなかった。
朝の早い時間。
窓から差し込む光が机を照らし、静けさが支配している。
中谷省吾は、自分の席に座りながら、腕を組んで唸っていた。
「……そういえば」
ぽつりと独り言。
「昨日、告白の返事……聞いてなかったな」
それに気づいた瞬間、頭の中が一気に埋め尽くされる。
告白。
水無月実花。
好きです。
返事。
YESか、NOか、それとも沈黙か。
省吾の脳内は、その話題一色だった。
車にひかれたこと?
白い空間?
破壊神?
剣で切られそうになったこと?
――全部、忘れていた。
完全に、きれいさっぱり。
「……まあ、そんなことよりだ」
問題はただ一つ。
返事を聞いていない。
しいて気になることがあるとすれば、体調が異様に良すぎることだった。
絶好調。
というか、絶好調を通り越している。
朝起きた瞬間、
勢い余って自分の部屋のドアを吹き飛ばし、
学校に行く前には、
玄関のドアも吹き飛ばし、
そして今しがた、
教室の扉を――吹き飛ばしていた。
ガラガラガシャーン、という音は、
すでに過去のものだ。
「……いやあ」
省吾は、まったく気にしていない。
「告白すると、こんなに元気出るもんなんだな……」
異変?
そんな認識は一切なかった。
活力があふれている。
それだけだ。
あとはもう、返事を聞くだけ。
そう思った、そのとき。
――ガラッ。
教室の入口に、人影が現れた。
水無月実花だった。
「水無月さん!!」
省吾は一気に距離を詰める。
「昨日の返事を!!」
グイッ、と前のめりになる勢い。
「……っ!」
水無月は、ぴたりと足を止めた。
顔が、赤い。
耳まで真っ赤だ。
視線をそらし、もじもじとしながら――
「……返事なら……」
ぎゅっと拳を握る。
「……これよ!!」
次の瞬間。
水無月は、剣を振り下ろした。
――ガンッ!!
だが、刃は省吾に届く前に、
粉々に砕け散った。
破片は光の粒となり、床に落ちる前に消えていく。
「……」
「……」
数秒の沈黙。
省吾は、自分の無傷な体を見下ろし、首をかしげた。
「……これは……」
少し考えてから、真顔で言う。
「OKってこと……?」
「なんでそうなるのよ!!」
水無月の叫びが、静かな教室に響き渡った。




