序章scene4
教室は、静かだった。
朝の早い時間。
まだ誰も来ていない教室に、机と椅子と、ひとりの少年だけがいる。
中谷省吾は、自分の席に座りながら、背筋を不自然なほど伸ばしていた。
落ち着かない。
心臓が、うるさい。
(来る……水無月さんが……)
黒板の前。
窓際。
後ろのドア。
視線が忙しく行き来する。
誰もいない教室で待つ、という状況だけで緊張は限界に近い。
告白前の静寂は、思った以上に重かった。
――ガラッ。
扉が開く音。
「っ!?」
反射的に背筋が跳ねた。
入ってきたのは、彼女だった。
ショートカットの髪が朝の光を反射して揺れる。
水無月実花。
(は、早い……!)
思っていたより、ずっと早い登場だった。
心の準備が、まるで追いついていない。
心臓が、ドクドクと暴れ出す。
(話しかけなきゃ……)
省吾は拳を握りしめる。
(話しかけなきゃ……!!)
立ち上がれ。
声を出せ。
今だ。
(話しかけ――)
「ねえ、ちょっといい?」
「はっ!?」
話しかけたのは、
――彼のほうではなかった。
省吾は弾かれたように振り返る。
そこにいたのは、
ショートカットのかわいい女子。
間違いなく、水無月実花。
(え、え、え!?)
話しかける予定が、話しかけられた。
それだけで頭が真っ白になる。
「ちょっと、話が――」
「は、はいっ!!」
反射的に立ち上がり、机に膝をぶつけた。
ガン、と鈍い音。
「あっ……み、み、水無月さん……あ……」
言葉が渋滞を起こす。
(言え……言うんだ……)
ここまで来た。
逃げるな。
省吾は、勇気を全部かき集めて、叫んだ。
「す、好きです!!」
――その瞬間。
「破壊神。お前を殺す!!」
二つの言葉が、教室の空気を切り裂いた。
「……え?」
省吾の「好きです」と、
水無月の「殺す」が、
ほぼ同時に、彼のもとへ届く。
意味が、つながらない。
(……今、何が?)
きょとん、としたまま立ち尽くす省吾。
次の瞬間だった。
カチャリ。
金属音。
気づけば、水無月実花は――
剣を構えていた。
教室の真ん中で。
制服姿で。
完全に、戦闘態勢。
「……え?」
省吾の思考は、完全に停止した。
理由はわからない。
状況も理解できない。
告白の返事でもない。
だが、一つだけ、はっきりしていることがある。
(……これ、めちゃくちゃピンチじゃないか?)
朝の教室で始まったのは、
青春ラブストーリーではなく、
どう見ても――命の危機だった。
中谷省吾の告白は、
どうやら、
とんでもない地雷を踏み抜いてしまったらしい。




