序章scene2
――目を、覚ました。
いや、「覚ました」という表現が正しいのかどうかはわからない。
まぶたを開いた瞬間、省吾の視界は一色だった。
白。
とにかく白。
床も、壁も、天井もない。上下左右の概念すらあやふやな、真っ白な空間。
「……え?」
中谷省吾、十四歳。
先ほどまで通学路で人生を終えていたはずの少年は、反射的に自分の体を見下ろした。
ある。
ちゃんとある。
制服姿のまま、手も足も揃っている。
「……これって」
きょろきょろと見渡しながら、ぽつりと呟く。
「……死後の世界? 転生? そういうやつ?」
次の瞬間。
――――正解じゃ!
どこからともなく、やけにノリのいい声が響いた。
「うわっ!?」
省吾は飛び上がった。
声には姿がない。ただ、やたらとハキハキしている。
――お前は今、確実に死んでおる。
「正解!!とか嬉しそうに言われてもさ!」
省吾は思わず叫んだ。
「死んでるし! 全然うれしくないし!
この後どうなるかもわかんないんだけど!?」
――そうか……死ぬのは初めてか?
「普通初めてだよ!!」
即答だった。
――ならば仕方がない。説明してやろう。
なぜか少し偉そうで、少し優しい声音。
省吾は警戒しつつも、耳を傾ける。
――今のお前には、二つの選択肢がある。
「……二つ」
省吾はごくりと唾を飲んだ。
――そうじゃ。
一つは、このまま死んで消滅する。
「消滅!?」
思わず声が裏返る。
「天国とか地獄とか行くんじゃないの!?
雲の上とか! 天使とか!」
――そんなものは、ない。
即答だった。
夢も希望も、ばっさり切られた。
「えぇ……」
――もう一つは……
「もう一つは……?」
省吾は身を乗り出す。
――生まれ変わり、人生をやり直すか、じゃ。
「じゃあやり直すよ!!」
考える間もなかった。
反射神経だけで答えていた。
――ほう……
天の声は、どこか楽しそうに響いた。
――そうか……ならば生まれ変わり、やり直すがよい。
「よし!」
――……ただし。
「……ただし?」
嫌な予感がした。
――人間とは限らぬがな。
「え?」
次の瞬間、省吾の体はまばゆい光に包まれた。
視界が白から、さらに白へと塗りつぶされていく。
「ちょ、ちょっと待って!?」
意識が引き剥がされる感覚の中で、省吾は最後に叫んだ。
「なんか今、
最後にすっごく不吉なこと言ってなかった……!?」
その声は、白い空間に吸い込まれ、
やがて完全に消えた。
――こうして中谷省吾は、
「人生やり直しボタン」を勢いだけで押したのであった。
なお、
押した先が安全かどうかは、誰も保証していない。




