第3話scene4
教室の扉が、乱暴に開いた。
「冨永!!」
中谷省吾は、感情を抑えきれないまま教室に踏み込んだ。
その足元で――
ピシッ
床に細かなひびが走る。
冨永翔は、反射的に視線を落とし、引きつった笑みを浮かべた。
「……やあ、中谷君」
「全然返事ないし……!」
省吾は頭を抱え、叫ぶ。
「どうしたらいい?どうしたらいいんだよ!
もう……気持ちが張り裂けそうだ!!」
床のひびが、じわじわと広がっていく。
冨永はごくりと喉を鳴らした。
「そ……そうだね……」
ひび割れた床を見つめながら、震える声で続ける。
「張り裂けそうなのだけは……よく分かるよ。
全面的に、出てる」
「わかってるなら……!」
省吾は縋るように詰め寄る。
「どうにか……どうにかしてくれよ……
告白の返事……」
冨永は一歩引いた。
「落ち着け!落ち着くんだ中谷君!」
その瞬間――
ミシ、ミシ……
窓と壁にひびが入り、教室がざわつき始める。
「恋とは……焦ったら負けだ!」
「でも……でも……でも……!」
冨永の脳内で、警報が鳴り響く。
(まずい、このままじゃクラスごと消し飛ぶ……!)
「そ、そうだ!」
冨永は閃いたように手を叩いた。
「段階だよ、段階!
恋は徐々に進めるべきなんだ!」
「……徐々に?」
省吾の動きが、ぴたりと止まる。
冨永は畳みかける。
「告白の返事は……時間がかかる!
だから、まずはもっと自然なところからいこう!」
「自然なところ……?」
「そう!」
冨永は息を整え、慎重に言葉を選んだ。
「……まずは、
学校から一緒に帰ってみたらどうだろう?」
「……い、一緒に……帰る……?」
省吾の目が見開かれる。
「どうだろうか?」
必死の説得。
「いきなり……?
いきなり一緒に帰るとか……大胆すぎない?」
冨永は心の中で即座にツッコんだ。
(いきなり告白のほうが、どう考えても大胆だと思うが……)
だが口には出さない。
「だ、大丈夫だよ。
俺もフォローするから」
省吾はしばらく黙り――
やがて、肩の力が抜けた。
「……そうか……
そうだな……」
床のひびが、止まる。
教室のざわめきも、静まっていく。
省吾は、目を閉じた。
――想像する。
夕暮れの帰り道。
水無月が、少し照れたようにこちらを見る。
『一緒に、帰ろう?』
そう言われて――
省吾は、うなずく。
並んで歩く。
距離は近くて、でも触れないくらい。
肩が、ほんの少し寄り添う。
省吾の口元が、自然と緩んだ。
「……へへ」
その笑顔を見て、冨永は深く息を吐く。
(……今日も、世界は救われたな)
こうして――
**「一緒に帰る」**という新たな安定ワードが、
破壊神の心に刻まれたのだった。




