第1話scene3
放課後の校門前。
夕方の風は心地よく、空は少しオレンジ色に染まり始めていた。
中谷省吾は、いつも以上に足取り軽く歩いていた。
「今日は返事もらえなかったけど……」
拳を握る。
「明日こそは!」
声に出さず、心の中でガッツポーズ。
前向きさだけは無尽蔵だった。
なお、その歩く先々で――
自動販売機の側面がへこみ、
自転車置き場の柵が曲がり、
なぜか花壇の縁石が砕けていたが、
省吾は一切気づいていない。
少し離れた場所。
水無月実花は、物陰からその背中を見つめていた。
(……やっぱり)
校門を出ただけで、環境被害が発生している。
(危険人物……)
いや、違う。
(……危険破壊神)
確信は、もはや揺るがなかった。
そのとき。
「――中谷君」
前方から、凛とした声が響いた。
省吾が顔を上げる。
黒い髪が、夕風に揺れている。
仁王立ちで道を塞ぐように立つ、一人の女子生徒。
青峰咲良。
この学校の生徒会長であり、三年生。
「……え?」
省吾はきょとんとした。
生徒会長。
上級生。
接点――ゼロ。
「待っていたわ」
その声音は、落ち着いていて、どこか冷たい。
「……えっと……なにか用ですか?」
青峰は、一歩前に出る。
「中谷……」
一瞬の間。
「――いいえ。破壊神」
省吾の思考が止まった。
「……はい?」
「我が名は――」
青峰は、空間から取り出すように、
巨大な斧を両手に握った。
夕陽を反射する刃。
明らかに校則違反どころではない。
「魔王殺しのデューク」
斧を軽く振り回す。
風が唸った。
「……え?」
省吾の口から出たのは、それだけだった。
その様子を見て、水無月がついに動く。
音を立てず、青峰の背後に近づいた。
「青峰先輩……」
低く、警戒した声。
「あなたが……勇者十傑の一人だったのね」
青峰は振り返らない。
「でも、今は無理よ」
水無月は続ける。
「他の勇者を探さないと、破壊神は倒せないわ」
沈黙。
そして――
青峰は、ゆっくりと振り返った。
表情は、無表情。
「……何を言っているの?」
冷たい声。
「私は、破壊神を倒したりはしませんわ」
水無月の目が見開かれる。
「破壊神は――」
青峰は、省吾の前に立ち、
「――私のもの」
そう言って、
省吾を強く抱きしめた。
「えっ!? えっ!?」
理解が追いつく前に、
青峰は、そのまま――
省吾の唇にキスをした。
「――っ!?」
時間が、止まる。
「……な、なに……」
次に動いたのは、水無月だった。
「なにやってるのよ!!」
怒りが爆発する。
「なんなの!?
中谷君、何なの!!」
省吾を指さす。
「告白しといて!
他の女とキスして!!!」
「ち、違う!!」
省吾は必死に手を振った。
「違う! 違うんだ!!」
混乱の極み。
「っていうか!!」
必死の形相で叫ぶ。
「告白の返事を!!
まだもらってない!!」
一瞬の沈黙。
水無月は、信じられないものを見る目で言った。
「……はあ?」
夕暮れの校門前。
世界の命運と、
三角関係と、
告白の返事は、
とんでもない形で、
完全に絡まり始めていた。




