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第36話 三人の妻   (2576)

 アリス・ルーシー・リッチの死から5年が過ぎ、その三人の孫のアルビン・ジャック・ヘンリーは依然としてカナクの警備隊としての日々を送っていた。通常、カナクに着任した警備隊員は数年でノードへ帰還するのが通例となっていたが、三人はカナクにとどまり続け、警備隊二百人の中心メンバーとなっていた。アルビンはオットー隊長を補佐する警備隊の副隊長となり、ジャックとヘンリーもそれぞれ十人以上の隊員を率いる小隊長となっていた。


 サラルの群れが、再びこの島に飛来してから、十年近くが過ぎていた。

 この間ノード政府は、偵察用ドローンを飛ばして島の80%を占める山岳地帯のサラルの生息調査を継続していた。サラルは西の大陸から次々と新手が渡来して来ており、サラルの群れは西海岸付近から島の中央部まで進出し、その数少なくとも1万5千匹と推定された。しかもサラルは子育てをして繁殖し、その数を増やしている事が確認された。サラルの子供は5年ほどで大人になり、その数を倍増していくと考えられた。これに比して人間の子供が大人になるには18年は必要であり、サラルに比べるとその増加率は低い。このまま放置すると、近い将来サラルの数が人間の数を圧倒し、この島がサラルに占拠されてしまうことが予想された。その場合人間とサラルの共存共生は困難であり、人類は滅亡するしかない。


 カナクは二万人の人類の居住するノードを守るための重要な防衛拠点となっていた。ノードから派遣された警備隊員はその意味を理解しており、サラルをカナクにおびき寄せて退治するという役割を果たしていた。カナクの警備隊は警備ロボットと防衛陣地によってサラルの攻撃を撃退していたが、サラルの破壊攻撃は激しさを増していた。サラルの投石攻撃によりカナク周辺の風力発電・太陽光パネル発電施設・農業施設が被害を受け、ノードからの支援物資なしには存続できない状態に陥っていた。そしてそれは今後サラルがノードに現れて同様の被害を受ける事態に陥れば、それはノードが存続できない事態を意味する。


 月二回程度ノードからの船がカナクの港に現れ、交代要員の警備隊員、火力発電のためのバイオ燃料、食料などの支援物資が到着した。そして帰りには任期を終えカナクを離れる警備隊員が乗り込み見送りが行われた。

 ある日いつもの様にノードから数隻の船がカナクの港に現れ、交代要員の警備隊員が到着した。降り立った警備隊員の中に珍しく女性隊員が混じっているのが見えた。出迎え側の担当者としてその光景を見ていたアルビン副隊長は、その三人の女性隊員の中の一人を見て驚いた。ノードにいるはずの自分の妻のイザベラにそっくりだった、というかそうとしか思えない。近づいて来る三人を出迎えたアルビン副隊長に、その女性隊員はこう言った。

「何時までカナクにいるつもり?もう十年も経つのよ!あなたが帰ってこないから、こっちからカナクに来る事にしたのよ!」

「オーマイゴッド、すまない!」アルビン副隊長は思わず飛び上がっていた。

「すむわけないでしょ!子供たちもみんな大人になって出て行って、私ひとりよ!来るしかないでしょ!」

「オーマイゴッド、すまない!」

「この二人はジャックとヘンリーの奥さんよ!ジャックとヘンリーを呼びなさい!すぐに!」

アルビン副隊長の日頃の堂々とした態度に似合わず、突然現れた妻の姿にうろたえる様子を見て、隊員たちは笑いをこらえるのに苦労していた。

 アルビン副隊長は三人の妻たちをショッピングドームの応接室に案内し、助けを求めるようにジャックとヘンリーを呼び出した。すぐに駆け付けた二人は

「オーマイゴッド!オリビア、一日も忘れた事はない、すまない!」

「オーマイゴッド!グレース、愛してる、でも帰れないわけがあるんだ、すまない!」

と謝り続けた。

「何が愛してるよ!ワインが飲みたくてカナクに行ったくせに、嘘つき!」

「忘れた事はないけど、忘れちゃってるよね、最低!別れてやる!」

と妻たちの怒りは収まりそうになかった。それから夕方まで、ショッピングドームの応接室で三人の妻たちが怒り、三人の隊員が謝り続ける光景が続いた。


 こうして三人の妻に叱られ謝り続けた三人の隊員だが、責任ある立場を投げ出してノードに帰るわけにはいかなかった。三人の妻たちも、夫たちがカナクを守るためにたいせつな任務に就いている事を、本当は理解していた。その後三人の夫と和解した三人の妻は、隊員達の給食などのサポート任務に就く事になり、隊員達から大いに感謝される事になった。


 このころ、ノードに近い山間部にもサラルが現れる現象が起こっていた。ある日数匹のサラルがノードの巨大ドーム周辺に現れて人々を驚かせた。ドーム周辺を守っていた警備ロボットがすぐに撃退したが、この事件はサラルの侵入に対するノードの人々の警戒心を高めた。この後ノードにサラルが接近する事態を防ぐため、ノードから西二百キロの地点でサラルを引き付ける役割をしているカナクの重要性が再認識される事になり、ノード政府はカナクの防衛を強化するため、派遣する警備隊を増強する事になった。カナク行きを希望する者は女性・老人であっても認可・奨励される事となり、カナクで任務に就いている警備隊員の家族・友人が、警備隊員としてノードからカナクに赴任する事も増えて行った。カナクは以前とは違う状況で人口が増えて行った。

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