第35話 三人の隊員 (2573)
カナクに対するサラルの襲撃は、その後もかなりの頻度で続いていた。サラル達はドーム近くに侵入して警備ロボットに包囲されることを避けるように、遠く離れた地点からの投石でドーム周辺の水力風力発電機や太陽光発電パネル等を破壊するようになった。
警備隊はカナクの電力供給を維持するため、川の近くに水力発電機を守る警備ロボットを常駐させ、ドームから離れた地点にある風力発電機と太陽光発電パネルをドーム近くに移転させた。それでもサラル達は、執拗に発電施設などを狙った投石攻撃を続けた。
警備ロボットもサラルの攻撃目標となった。数カ月たったある日一匹のサラルが真上から急降下し、警備ロボットの頭部に取り付いて金属棒で目の部分を叩き壊そうとした。それを見た警備隊員がすぐさま警備ロボットの頭部で暴れるサラルを撃ち落としたが、サラルの金属棒の打撃で青い目の強化プラスチックカバーにひび割れが入った。警備隊員達は、警備ロボットを守るための処置をノードの技術者と相談し、応急処置として警備ロボットの頭頂部に有刺鉄線を張り巡らし、目の部分に金網のカバーが取り付けられる事になった。
水力発電機は警備ロボットが守っていたにもかかわらず、サラルの投石で破壊され停止した。風力発電機・太陽光パネルの破損も続いていた。風力・太陽光発電による電力供給が乏しくなり、カナクの電力事情はひっ迫して来た。その対策としてノードからバイオ燃料が移送され、そのバイオ燃料を使った火力発電がカナクの電力を支えるようになった。サラルとの戦闘に備え、警備ロボットと隊員達の空調スーツへの電力供給が優先され、ドームへの電力供給は制限され、多くのドームが空調停止となった。その結果、人々は電力供給される一部のドームを共同使用するようになった。
それでも電力供給はひっ迫し、終にカナク住民達の話し合いが開かれ、カナクの住人の希望者全員のノードへの移住が決定された。ノード政府からも移住後の生活を全面支援するという連絡があった。数日後、最後のカナク住民である十数人の老人達がカナクの港から警備隊員達の見送りを受けてノードへと向かって行った。
カナクはサラル防衛にとって重要な地点だった。このカナクの地で、押し寄せるサラルを引き付け迎え撃つ事がノードの人々つまり生き残った人類の生存を守る事につながる。そういう思いで、カナクを守るオットー隊長以下の二百名の警備隊員達は、サラルに対して一歩も引く事なく、戦い続けるという強い決意を固めていた。
サラルの攻撃は毎日のように続いていたが、頭部に有刺鉄線をまいた警備ロボット12台は、1台も故障することなくカナクを守り続けていた。ラルフ隊長からカナク防衛隊を引き継いだオットー隊長は的確な指示を出して部下の信頼を得ていた。二百名の警備隊員も多くの死傷者を出しながら、ノードからの交代要員の補充で持ちこたえていた。
アルビンは警備隊員としての任期が終わってもノードへの帰還を希望せずカナクに残り、警備隊員としての任務を続けていた。そこへ数年ぶりにジャックとヘンリーが警備隊員としてカナクに着任した。
「ジャック、ヘンリー、久しぶりだな!」
「アルビン、久しぶりだな!エヴァおばさんも君のパートナーも子供たちもみんな、君に会いたがってるぞ!」
「ああ、毎日のように連絡している。元気にしているらしい。俺はまだまだカナクでやる事がある」
「それにしてもジャックもヘンリーも二度目のカナク着任だよな、カナク任務は原則一度だけと聞いたが?」
「俺たちは、もう一度カナクに行きたいと政府に頼み込んで、特例を認めてもらったんだよ!政府の役人も呆れていたよ!」
「俺たちは、どうしてもカナクでアルビンと一緒にサラルと戦いたいって言ったんだよ!」
「カナクに行ったら、ワインが飲めるっていうのも理由にある」
「それそれ、休みの日はワイン飲み放題らしいな」
「誰から聞いた?休みの日はワイン一本は支給されるけどな」
「てへー、しかしワインが飲めるって最高だよな、ノードでは四年前から飲酒禁止になってるんだよ、カナクで警備隊員がサラルと戦っているのに不謹慎だとポリスに逮捕される」
「そりゃ酷い!」
「酷いだろ?俺なんかワインの代わりに甘ったるいぶどうジュースをチビチビ飲んで酔っ払ったふりをしてるんだぜ!」
「こいつ、本物のワインが飲みたいって一日中言うもんだから、怒ったワイフに家から追い出されたんだぜ!」
「オイオイ、本当か?」
「大丈夫だ、次の日プレゼントを渡して謝ったら許してくれて家に戻れた」
「気持ちはわかる!こんど三人で一緒に休みを取ってワイン飲み放題やるか?十本ほど冷蔵庫に隠してあるんだ」
「ワイン万歳、最高だ!」「アルビン兄貴、一生ついていきます!」
三人は辺りかまわず大声を出し肩を抱き合って飛び跳ねた。三人の中で、サラルとの戦闘で亡くなった彼らのグランマやグランパの話は一切出なかったが、その様子を見ていたオットー隊長が近づいてきて三人に声をかけた。
「カナクへの着任に感謝する。君達三人はリッチの孫だと聞いている。アリス・ルーシーとリッチは勇敢に戦った英雄だ。君たちがカナクの警備隊に着任してくれたのも三人の英雄のお蔭だ。三人の英雄の墓に花を捧げよう」
こう言われた三人の隊員はオットー隊長に従い、リッチ・アリス・ルーシーが眠る墓に到着すると神妙な様子で花を捧げ黙とうした。




