表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

鸚鵡

〈陽光が季節裏切る秋である 涙次〉



【ⅰ】


 さて、これから先は枝垂哲平と桂憂花のお話です。

 臺湾には「思念上」のトンネルなんてない。從つて魔界を(人間界向けには)自由に出入り出來ない。だから憂花は幾ら枝垂が戀しくても、追つては來られない。で、憂花は枝垂の夢枕に立つと云ふ方法を採つた。「枝垂さん」‐憂花、日本語堪能である‐「またこつちに來る?」憂花と枝垂の契りも夢の中で行はれた... それをしも罪と認める枝垂が糞(失敬!)眞面目と云ふか何と云ふか。

 幾ら夢だと云つても、間近に接近しなければ親密な仲にはなれない‐ 憂花は話をする、顔を見る、と云ふだけぢや物足りないのだ。何せお年頃の彼女。



【ⅱ】


 然も彼女は、あらう事か枝垂の子を身籠つてゐた‐ こゝで枝垂の名誉の為云つて置くなら、飽くまで夢の中での出來事。普段の(魔界に於ける)彼女は、妊婦ではなく、要は想像妊娠、を彼女はしてゐたつて譯。だから子を成すにも、夢の中だけの子しか産めない。



【ⅲ】


「当分そつちへは行けない。日本でシグナスX(前回參照)を賣らなきやならない」‐「さう.... わたし淋しいわ。貴方との赤ちやん、大事にするから‐」。枝垂、愕然とした。彼は前述の「想像妊娠」の件は知らない。「だつてあれは夢の中での‐」と云ひかけたら、憂花、「女の武器」を持ち出した。しくしく一頻り泣いて見せた後、(この人に、夢と現實との區別付かなくさせちやおつと。)意地惡なのである。其処ら邊は流石に【魔】の娘、である。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈癇癪玉破裂する迄眠れない私は何て莫迦正直か 平手みき〉



【ⅳ】


 ところが、この夢の中での經緯を見てゐる第三者がゐた。カンテラである。「シュ―・シャイン」はやはり彼に、枝垂と憂花の事を報告してゐたのだ。「たかゞ(と云つたら憂花には惡いが)夢の中での事を‐」それと同時に、「やつぱり女は怖いな」とも思つた・笑。で、だうするカンテラ? と自分に問ふ。(斬るつてのも藝がないしなあ。)‐ふと気付いたのだが、このコ、實體は何だ? 魔界の出身者には、ハーフでもない限り、必ず實體がある。要するに妖魔としての、本性を現はす時用に。タイムボム荒磯にも時軸母子にも、まるで「翁」の實體が一本の(くぬぎ)の老木であるかのやうに、隠された「本體」があるのだ。



【ⅴ】


(それを見せれば、枝垂も「退く」かも。)と云ふ事で、テオに命じて、桂憂花なる【魔】の身上調査をさせた。

「兄貴、分かりました! 憂花の實の姿、鸚鵡ですよ」‐「鸚鵡! ぢや良く喋る譯だ」‐「然も彼女、人間としての見てくれよりも艶やかだ~つて云ふくらゐ、立派な鸚鵡なんスよ」‐「ふーん。ぢや哲平、飼つてやりや、話は丸く収まるぢやないか。テオ、さうは思はん?」‐「卵産んだりして」二人とも他人事と思つて云ひたい放題である・笑。



【ⅵ】


 カンテラは枝垂に會ひに行つた。ちよつとお節介かな、とも思つたが、日頃不愛想過ぎな自分としては上出來、だとも思つた。

「やあ哲平。調子はだう?」‐枝垂、見るからに暗鬱さうな顔だつたが、「まあまあですよ」と取り繕ふ。(健氣なやつちや)カンテラ、感心したが、「ところでお主、鸚鵡を飼ふ積もりはないか?」‐「鸚鵡、ですか。いきなりですね」‐「惡い惡い(何で俺が謝らなければならないんだ)、突然過ぎたか。實はお主の想ひ人、想はれ人、か。實體は一羽の美しい鸚鵡だ」‐「え、マジつスか」‐「シグナスXの件が片付いたら、もぐら國王に臺北にでも『思念上』のトンネル、掘つて貰へばいゝ。それで迎へに行くんだ」‐「はあ」。それでも枝垂、實感が湧かないのか、浮かぬ顔である。



【ⅶ】


「これが俺の考へ得た最上策なんだ。不滿は?」‐こゝでやうやく何とか枝垂らしい、好靑年の笑顔。「わざわざ濟みません、お禮は、シグナスが賣れたら、たんまりと」‐「いゝつて事よ。俺にも仲人狂の安保さん、佐武ちやんの氣持ちがちと分かつたよ」


 次の憂花の夢で、枝垂は云つた。「鸚鵡としてだが、俺の傍に仕へる氣はないか?」‐「えー!」‐「それが駄目なら、諦めて子供産むなり何なりしてくれ。頼む! この通りだ」



【ⅷ】

 

 と云ふ譯で、大分後にはなつたが、枝垂のマンションには一羽の鸚鵡がゐる。國王の旅費等經費は掛かつたが、このクラスの鸚鵡一羽の価格と比べると、破格の安さださうだ。

「憂花チヤン、愛シテル」と喋るのは、惠都巳には聞かせられないなあ、と枝垂は苦笑した。

 そして或る日の事、鸚鵡(勿論憂花と名付けた)は卵を産んだ‐ 其処から先は、カンテラにはだうにもしてやれなかつた。つー事で、この話、閉幕。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈もう少しじわりと來いよ日に云ふ秋 涙次〉



 

 PS:「實體が吸血蝙蝠だとか狼女だつたなら、斬つてお仕舞ひにするところだつたが... 鸚鵡なら穏便に濟ますしかないぢやないか」と、カンテラ。


 登場人物の大半の説明は、次回当該シリーズ第100回目(通算第300回!)にする豫定です。作者より一言。ぢやまた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ