プロローグ
その日、折原恵人は吸血鬼に出会った。
新月の夜。
二人を照らすのは、街灯の光だけ。
肩まで伸びている白銀の艶やかな髪を靡かせ、双眼は宝石のように紅く輝いている。
フリルのついたブラウスに黒のロングスカートという出立ちで、彼女は立っていた。見た目の印象は、恵人と変わらない歳くらいに見える。
闇夜に佇むその姿は、威厳と妖艶に満ち溢れていて、視線を外そうと思っても外せない。彼女から目が離せない。
そんな彼女が、こう言った。
「私は、ノア・ルベルロット。吸血鬼よ」
恐らく、この言葉を発したのが彼女ではなければ、恵人は信じていなかっただろう。しかし、彼女の佇まいが、オーラが、恵人にそう信じさせた。理解させされてしまった。彼女が吸血鬼であることを。
そんな恵人を横目に、彼女は続けた。
「もー、やっと見つけたよー。苦労したんだからね」
何を見つけたのか、何を苦労したのか、恵人にはわからなかった。けれどその発言が恵人の目の前で行われた以上、自分が関係していることだけはわかった。
どういう意味ですか。
言葉を発したいのに、発せない。
それが彼女の持つ能力かなにかなのか、その場の雰囲気でそうなっているかなのか、判断がつかない。ただ声が出ない、声帯が閉じきっている。
「お願いがあるんだ」
そんな状況で、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべた。
「血を、吸わせてくれない?」