エピローグ
深夜、今日のライブ感想をノートにまとめていると、同居人が帰ってきた。なので私は出迎える。
「お帰りなさーい。今日もライブ、最高だったー」
「ありがとー。はい、おみやげ。今日、ステージで出されたバースデーケーキだよー」
推しの彼女が、箱に入ったケーキを見せてくれる。あ、すごい。スーパーマンの人形がケーキの上にいる! 著作権的には問題がありまくりで、これは推しのブログ写真には載せられないだろうなぁと思った。
「素敵。ねぇ、私も食べていいの?」
「もちろん、いいよ。私と貴女の誕生日は一緒なんだもの。半分ずつ食べようよ」
深夜に甘いものはどうかと思うけど、まあ少しずつに分けて、明日に回せば問題ないだろう。
私と推しは高校時代の同級生で、彼女は当時から特別な存在だった。誕生日が一緒という縁がなかったら、きっと私なんかが彼女と仲良くなることもなかったのだろう。まして、そこから恋人同士になれたのは、もう神さまが手を回してくれたからとしか私には思えないのだ。
「次のライブまで、何日かは東京にいられるんでしょ? ご飯、私が作るから」
「うん、またツアーで各地に行くけど。同棲し始めたばかりなのに申しわけないわね」
「それはいいよ、人気ミュージシャンの妻になる覚悟はあるから。あ、今日もライブで手を振ってくれて嬉しかった。ありがとー」
「だって貴女、ライブ前に自分の席番号を私に伝えてアピールしてくるんだもの。それで、手を振らなかったら泣くじゃない。困った子だわ」
「な、泣いてないもん! 記憶にございません!」
私は泣いた覚えなんかないので認めないとして。彼女には負担をかけてばかりだ。私は物書きが趣味の、低収入な一般人に過ぎない。『デビュー前からの恋人とは別れるように』と、事務所だって推しの彼女には圧力をかけていたのかも。それでも彼女は、決して私を手放そうとはしなかった。
「同性婚が認められる世の中になってほしいねー。堂々と付き合えたらいいのに」
「世の中がどうなるかは、わからないけど。私たちは愛し合ってるわ、それでいいよ」
推しは心優しくて、対立を好まない。だから政治的な主張を避けているけど、私は違う。どうせ芽が出ない物書き志望に過ぎないのだ。私と彼女は同じ夢を持ち、同じ景色を見据えている。私たちには理想があって、その理想を私は私のやり方で表していきたい。
とりあえず同性婚は認めてもらいたい。今の与党は全然ダメだ、今月の選挙には絶対に行こうと思った。私だって革命をするつもりはなくて、対立ではなく調和によって世の中が変わるよう望んでいる。推しの背中には翼があって、彼女の存在は私まで一緒に飛翔させてくれるのだ。ケーキの上の、心優しいスーパーマンを見つめながら、私たちは明るい未来を思い描いた。